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フェイクウィッチ  作者: 焼肉一番


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やめろクソ野郎

 小瓶の中身がなくなり、リアンがゲホゲホと咽ているのを紅潮した顔で凝視し、まだ変化が現れないとみるやもう一本、小瓶を取り出してまたリアンの口に流し込む。


「はぁっ……はぁっ……ちょ、まっ……! んぶぶっ……!」


 二本目を飲み切っても、まだリアンからあの煙が出て来ない。


「チッ、いちいち煩わしい奴め!」 


 フロディが三本目に手を伸ばしたところでリアンが何とか咳を鎮めて声を出した。


「はぁっ……はぁっ、何本飲んでも同じだっての!」


「な……に……? どう言う事だ!!」


 フロディがリアンの髪を引っ掴んで、自身の顔を間近に寄せて問いただす。


「……言ったでしょ? ハルは天才だって。解毒薬で魔女化が解ける様な半端なデュナミスは作らない」


「……な……」


 ズルリとフロディの手からリアンの髪が離れて、地面に顎を打つ。

 フロディはぶるぶると屈辱に震えた。


「おのれ……おのれどこまでも逆らうつもりなのだな!! だがもう良い! もう終わりにしてやろう! 人間に戻ろうが、魔女のままだろうが、死に方が変わるだけ……。ダナを連れて来い!!」


 その名にリアンの心臓がドキリと反応する。


「連れて来い? どう言う事?」


 ミゼール……、今までどうして姿を見せなかったのだろう。ハルを見て反応を示していたがあの後どうなったのだろう。

 フロディの命令に、リアンの解毒薬攻撃を逃れた優秀な魔女数人が来た道を戻る様に、森の木々の間へ紛れて行った。


「ミゼールには素晴らしい魔女の素質がありました。ですが……、不完全なデュナミスのせいで度々魔女らしからぬ動きを見せていた事はあなたもご存じでしょう」


 そうだ、ミゼールはまだ完全に自我を手放してはいない様にも見えた。ハルに見せたあの反応は明らかにハルを認識していたと思われる。


「ですので……」


 フロディの後ろから、二人乗りの馬車の、小さな個室部分がぬっと現れた。見ると馬の代わりに四隅を魔女が抱えている。そしてその箱状の、馬車の個室は……、バチバチと目視出来るほどの魔力が溢れ出ていた。


「量を倍にしてみたのですよ」


「……は?」


 パンッ……! バリンッ……!!


 個室の窓が弾け飛んで、次いでドア部分も吹っ飛んだ。より一層溢れ出る魔力が濃くなって、中からその魔力の根源が現れる。


「そうしたら……ずっとこの調子で……だらしなく魔力が漏れ続けるのですよ」


「ミゼール!!!」 


 美しい銀髪が常に重力に逆らってゆらゆらと上へ靡いている。赤い瞳は益々赤く、眼球以外の部分もうっすら赤く染まっていた。

 箱の四隅を抱えていた魔女たちが苦しそうに膝を付き、いよいよミゼールはそこから一歩踏み出す。


「弱い魔女は近くに居るだけで使い物にならなくなるので、一応温存しておいたのです」


「嘘……」


 死ぬ。無理だ。根性でどうにかなる事ではない。

 リアンの本能がそう叫んでいる。こんなのに勝てるわけないと。

 きっとルシェは分かっていたのだ。こうなる事が。箱に閉じ込められたミゼールを感じていたんだ。


「最終的にはここら一帯をすべて綺麗にしようと思います。あの、崖上に見えるみずぼらしい家も、丸ごとね」


 地面に貼り付けられたリアンにも、木々の隙間から崖上の小さな家が見えた。あそこにルシェもハルも居るのだ……。どうして、自分に任せて遠くへ逃げろと言ってやらなかったんだろう。


「ダメ……お願い止めて……」


「ふっ……、ははは! 急にしおらしくなったところで! あなたの本性は分かってますよリアン・アミット。……やめろクソ野郎……とでも言ったらどうです?」


「くっ……!」


「さぁ、ミゼール、遠慮する事はありません」


 リアンの頼みをあっさり切り捨て、フロディは首から下げていた魔石を握って一人分の結界を作る。長年ダナ教の信者たちに寄って魔力の込められた、他に類を見ない強力な力を持った魔石だ。


「出来損ないの魔女も一緒に……、すべて綺麗にしなさい!!!」


「あうー」


 一歩ミゼールが近付くだけで、体力が奪われるような感覚に襲われる。

 また一歩近付き、ミゼールがその翼を広げると、あの夜よりも大きくて立派で……だけどバランスの悪い……、やたらと片方だけが巨大な翼になっていた。


 そしてまた一歩、今度は腕を突き出す。体中に纏っている魔力が……溢れだして止まらない魔力が、少しばかりそこへ集中した。

 今はハルの障壁もなければリアンは魔女に押さえ付けられて動けない。どんな攻撃をされるのか分からないが……ああ、もう終わりだ。


「させません」


 リアンがギュッと目を閉じると、極めて落ち着いた女性の声が聞こえた。もちろんミゼールの声ではない。

 え? と顔を上げるとミゼールの後方にニナの姿があり、フロディと同じ見た目の、魔石のペンダントでやはり一人分の結界を作っていた。どうやらミゼールと一緒に馬車の個室に入っていたらしく、その結界でミゼールの異常な魔力から身を守っていたのだろう。


「何をしているニナ!!!」


「ミゼール」


 その言葉と共に、ニナは喚き散らすフロディを指差した。


「う」


 ミゼールはニナの指し示した方へ突き出した腕ごと方向転換する。また一段階、魔力がそこへ集中し、次の瞬間には音もなくそれは放出された。


「なっ……何をっ……がああああああああ!!!!」


 フロディを守っていた結界は何の意味も成さずにミゼールの攻撃を迎え入れ、フロディは口や耳から大量の血を撒き散らしてドッとその場へ倒れ込んだ。

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