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フェイクウィッチ  作者: 焼肉一番


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予感

 夜明け前――。


 リアンもハルも、当然寝てなどいなかった。

 何か来れば分かる様な結界を施してあるとハルは言ったが、結局リアンは一晩中崖上から遠くを見張り続けた。寝て体力を回復する事も重要だと分かってはいたが、新しい薬に取りかかったハルが呪文交じりに奮闘する横で、スヤスヤ眠むれる神経は持ち合わせていない。


 屋根の上で膝を抱え遠くを見詰めていると、改めて自分の瞳が魔女のものだと実感する。夜の景色が全然違う。木々の葉の一枚一枚が輝いているみたいに見えて美しい。

 それなのに、美しい夜を壊す何かがやって来る。


「リアン」


 下からハルに声を掛けられ、リアンはうんと返事をする。分かっていると言う意思を込めて。


「飛んで来るよ……いっぱい! どう言う事?」


「何だって? まさか……」


 ハルもリアンの視線の先を見たが、まだ暗くてハルには分からない。けれど気配だけは感じる。良くないものの気配だ。

 ハルはすぐにフロディのしそうな事に思い当たった。


「きっとあのレシピで……、未熟な術者で……、大量に粗悪なデュナミスを作ったんだ……それを……!」


「嘘……、もう……魔女でもないのがいっぱい来るよ……!」


 うつろな目をした魔女もどき集団が、崖上を目指してフラフラ飛んでくる。

 その中には……苦しんでいる者もいる。ケタケタ笑っている者もいる。だんだん太陽も昇り始めると、その異様な光景がいよいよハルにも見えて来た様だ。


「ひどい。色んな症状が出ているじゃないか……。誰にでも使って良いものじゃないのはダナ教だって分かっている筈なのに」


「でも、こっちをまっすぐ目指しているのは共通みたいね。フロディが居るわ。馬で下を走って先導してる」


 さすがに表情までは良く分からないが、先頭を馬で駆けるのがフロディだと言う事は分かった。ニヤニヤ笑っているのか、それとも厳かな表情を作り上げているのか、どちらを想像してみてもムカムカする。


「……迎えに行ってくれるかい?」


 万が一ここまで来られて、銀髪のルシェを見られたら……。想像するだけで背中に冷たい汗が流れる。


「もちろん」


 リアンはそう返事をしてバサリと屋根から飛び降りた。下にはハルが待っていて、大き目の麻の肩掛けカバンをリアンに渡す。中身が揺れてカチャリと音がした。


「あら、随分たくさんね。丁度良かったけど」


 中身を確認してリアンがそう言うと、ハルは簡単な事をしたみたいに答える。


「少し作るのもたくさん作るのも手間は同じだから……予備分と思って」


「ふふ、天才魔法科学者にしてみたら夕飯作るみたいなノリね」


「美味しくは作れなかったから、これ……」


 そう言ってハルは何かの器具をリアンに持たせた。


「ダ……メ……」


 ふいに細い声が聞こえて、二人はハッとそちらを振り返る。と、そこには、寝間着で、かつ裸足のまま、ふらふらと外へ出たルシェの姿があった。


「ルシェ……!」


 ようやく目覚めたルシェに駆け寄り、跪いては強く抱きしめるハル。


「ごめんよ……! ごめんよルシェ……! 僕はっ……僕は本当に最低な事を……!!」


「苦しいよ……ハル……」


 ポンと肩を叩いてハルを落ち着かせるルシェ。


「良かった、ルシェ……。元気とは言わないけど、まぁ無事な様子ね。あっ! えーっとあたしよ? リアン」


 最後に会った時より随分様変わりしている自分に気付いてリアンは一応補足をした。色々と話したい事はあるが今は少しタイミングが悪い。


「何で? って思うかも知れないけどちょっと今立て込んでてさ、後でゆっくり……」


「知ってるよ」


 未だにハルに抱き締められたままのルシェが言った。


「知ってる……全部……。ねぇお姉ちゃん、行かないで……」


 今にも泣き出しそうな顔でそう訴えるルシェの足は、ハルに支えられてなおカクカクと震えていた。ずっと寝ていて足が思う様に動かないのか、それとも恐怖なのか……。


「どう言う事だいルシェ……」


「お願い……ダメ……ハルも止めて……来る……たくさん……」


 ルシェの豊か過ぎる感性が何かを感じ過ぎている様だ。


「ああ、分かってるよ、ルシェ」


「分かってない!!」


 らしくなく大声を出すルシェに驚いて、リアンとハルは思わず顔を見合わせた。そしてリアンも視線をルシェに合わせて言う。


「行かなきゃ……」


「ダメ、たくさん来るの……本当にたくさん……それに、とても強い……今はまだ閉じ込められているみたいだけど……とても強い力を感じるの……」


「大丈夫! あたし魔女になったんだもの。ルシェは安心して待ってて」


 ふわふわの銀髪に手を乗せてルシェを安心させようと笑うリアン。本当はリアンだって恐ろしい。


「……もっと作るよ」


「そうね、予備分だけじゃおもてなしが行き渡らないかも知れないわ」


「……」


 二人に止まる気はないのだと、行かなければならないのだと悟ったルシェは、もうそれ以上言わなかった。

 ただ、静かに目を閉じて頷いた。まるで何かを覚悟する様に。


「なるべく早く帰るね、ルシェ!」


 何て事ないようにそう言うとリアンは翼を広げ、魔女集団の方へひらりと飛び立つ。

 ちょっぴり頭を出した太陽がリアンの黒い翼をキラリと光らせたのを見送ってから、ハルはルシェを促して部屋へと戻る。

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