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フェイクウィッチ  作者: 焼肉一番


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金髪

 リアンは実際止まらずにバルコニーに突っ込んだが、その拳はフロディには当たらなかった。突然背中に激しい痛みがあり、引き絞った拳を突き出す事が出来なかったからだ。

 民衆を集めて、演説やら何かの発表やらで使うそのバルコニーはちょっとしたステージくらいには広く、リアンはそこで背中を抑えながらゴロゴロと転がった。転がった先にはニナが居て、金髪のかつらを被ったリアンにすぐ気が付いた。


「あっ……! あなた……まさか……?!」


「あいたた……ああ……はは、えと、込み合ってるんで説明は省きます」


「なっ……!」


 ニナからしてみれば一体全体これはどう言う状況なのか、当然説明は受けたいだろう。なにせハルを連れて来ると言ったので馬を貸したリアンが、魔女の姿になって足元に転がって来たのだから。そう思ったリアンは言われる前に説明は省くと手を打ち、すぐ立ち上がった。


「素晴らしい……、我がダナ……。私を守ってくれるのだな……。アールヤ!!」


「あうー」


 バルコニーには、ダナに陶酔するフロディと、難なく追い付いたミゼールが小首を傾げて立っている。魔術ではなく、リアンの背中に蹴りを入れて止めたのだ。威力は相当なものだった。だけどその代わり、蹴った方の足がガクガク震えている様だ。

 しかし痛みを感じていないのか、そんなものはお構いなしにリアンに襲い掛かる。


「うっ……! ああっ!」


「キャッ……!」


 馬乗りで、肩と頭を鷲掴みにされ声が漏れた。小さいけれど物凄い力で握り締められる。骨が砕けそうに痛い。闇雲の様に感じたが、すぐ近くにいたニナには掠めてもいなかった。驚いて小さな悲鳴を上げたニナだが、その場からそろそろと後退る。


「うっ……やめっ……て……」


 ジタバタと抵抗すると、例のかつらがミゼールに掴まれたままズルリとずれてリアンの短い黒髪が現れた。


「う?」


 自分の手の中に納まったかつらを自分の目の前まで持ってくると、不思議そうに見詰めるミゼール。


「おっ……お前は……! リアン・アミット!?? 何と愚かな……!! ダナの加護を反故にしただけでなく自らダナを名乗るなど……!!!」


 それを見た、ニナに比べてだいぶ鈍いフロディがまた大いに吠えた。


「さっきから大声でうるさいのよ!! 何がダナの加護よ!! ダナが居るって民衆を騙して! あたしの大事な妹も奪ったくせに! 偉そうにしないで!!」 


「なっ……!」


 フロディは絶句した。

 民衆を騙している……、まさかそんな風に言われるとは思っていなかったのだ。フロディはただ純粋に、ダナ教と言う組織を守ろうとし続けただけだ。ダナ教を信じる事が民衆の幸せなのだと信じて疑わなかった。


「何と言う冒涜……!!!」


 口の端に泡を吹いてフロディがギリギリと奥歯を鳴らす。こんな屈辱は生まれて初めてだ。


「我がダナ!! この痴れ者に天っっ罰を下したまえ!! 天っっ罰を!!!」


「う……う……」


 フロディの大声に、何故かミゼールは反応しなかった。


「ダナ……? どうしたと言うのだ我がダナよ!!!」


 ミゼールはじっと……、自分の手の中のかつらを見詰め続けていたのだ。ハルの金髪で作ったそれを……。そしてリアンの肩を握りつぶさんとしていたもう一つの手も添えて、両手で大事そうに扱った。


「……くっ!」


 今ならと、リアンは馬乗りにされていた体制から抜け出した。


「あうっ」


 ミゼールはてんと尻もちを付いたが、視線は両手で抱えたハルの髪に釘付けにされたままだ。


「はっ……うう……は……、は……ろ……」


 人形みたいな目が揺らいでいる様な気がした。それを一生懸命認識しようとしている様に。


「どうしたのだ魔女ダナ!!」


「はろ……ろ……ど……」


 リアンはハッと息を飲んだ。ハロルド、と言っているのではないかと。リアンには教えてもらえなかったハルの本当の名前だ。


「ハロルド! そうよミゼール! それはハロルドの髪の毛! 分かるのね!」


 まだミゼールの中にミゼールが残っている。そう思ったリアンはまくし立ててミゼールを取り戻そうとした。


「そしてあなたはダナじゃない! ミゼールなんだよっ!」


「黙れリアン・アミット!!!」


 フロディがおもむろに左手を突き出し、その掌から圧縮された風の塊を放出した。フロディも若くしてダナ教司祭に登り詰めた男、魔術はお手の物だ。


「あいたっ!」


「なにっ……!」


 お得意の魔術は確実にリアンの顔面を捉え、フロディの思った通りの威力も出た筈だ。だがリアンにとってはちょっと頬を叩かれた程度にしか感じない。

 リアンの背中を蹴っただけで(ブレーキが壊れているとはいえ)その足にダメージを負ったミゼールと違い、ハルのデュナミスはかなり頑丈さに特化している様だ。もともとの資質もあるだろうが。


「黙んのはあんたよっ!!」


 そうだ、フロディさえ、ミゼールの主であるフロディさえ仕留めてしまえば……!

 リアンがフロディに向き直ると、フロディはまたミゼールに自分を守れとか天罰を下せとか喚き散らした。しかし、ミゼールはじっとハルの髪を見詰めていて動かない。

 その間にじりじりとリアンがフロディに距離を詰める。人を殺すのは、自分を犠牲にする事よりも覚悟が要るのだなと思いながら。

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