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13 冬季休暇前夜


「もうすぐ冬季休暇が来る。人が減るその時が、地下探検のチャンスだと思うんだ。

 ――冬季休暇は家に帰らず、ここに残らない?」


 いつもの図書室の奥、背の高い本棚の影。

 赤い夕陽が窓から差し込み、積もった本の背を金色に染めている。

 ストーブの音がかすかに鳴り、紙の匂いと光の粒が漂っていた。


 トマスは薄茶の瞳を輝かせ、何度も大きく頷く。

 一方でシェイドは、眉を寄せて唸った。


「僕は賛成! さっそく家に手紙を書かなくちゃ!」

「……おい、俺たちは年に二回しか帰れないんだぞ? 本気か?」

「無理にとは言わないよ」


 エドガーはトマスの“妄想ノート”を指先で捲りながら、静かに答えた。

 けれど、その群青の瞳にはじわりと揺れるような好奇心が宿っている。


「素敵な冬季休暇になりそうだね」


 エドガーとトマスが目を合わせて微笑み合うのを見て、シェイドは大きくため息をつき、項垂れた。


「……俺も、残る」


 小さな呟きに、二人の顔がぱっと上がる。


「本当?」

「家は大丈夫なの?」

「……俺だって、お前らと探検したい」


 トマスがにっこり笑って拳を突き出すと、二人も拳を作って軽くぶつけた。


「とりあえず、手紙を書こう。滞在届に親の署名がいるはずなんだ」


 エドガーが言うと、二人は声を揃えて頷いた。





 冬季休暇を数日後に控え、寄宿舎の廊下はいつもより静かだった。

 トランクを運ぶ音、別れを惜しむ声が遠くで響き、窓の外では霜が花のように広がっている。


 エドガーは机の上に置かれた手紙の束を整えた。

 教師が寮を回って配った「家族からの便り」。

 便箋の色も筆跡も、それぞれの家庭の匂いを運んでくる。


「じゃあ、開けようか」

「うん!」


 トマスが封を切る。赤茶の髪がランプの光を受けて透けた。

 便箋には弾むような筆跡。


 “会えないのは寂しいけど、無理はしないでね。友達と楽しく過ごすのよ!”


 文末には母親の名前と、小さなハートの落書きまである。


「ふふ、トマスのお母さんって感じがする」


 エドガーが目を細めると、トマスは照れくさそうに笑った。


「僕の母さんはいつもこうなんだ。手紙がまるでお菓子みたいに甘いんだよ。

 でも、シャツの袖をやたら汚すことだけはすごく怒る」


 三人が声を抑えて笑う。

 次に、エドガーが自分宛の手紙の封を開ける。

 几帳面な筆致。


 “冬季休暇中も怠らず励みなさい。努力の継続こそ誇りである。”


 短く、余白が多い。


「さすがレイブンズ家だね。堅い!」

「……うちの父らしいよ」


 エドガーは苦笑して、便箋を丁寧に折りたたんだ。


 最後に、シェイドがぶっきらぼうに封を破る。

 中から出てきた便箋は、やたらと長い。

 冒頭からびっしりと文字が並び、まだ折り畳まれた部分にもびっしり。


「えーっと……“年に二度しか帰省できないのに戻らぬとは何事か。

 お前は幼い頃から落ち着きがなく、靴を磨かぬ癖があり、食事中に本を読むのはやめろと何度言ったら――”」


 トマスとエドガーは顔を見合わせ、次の瞬間、堪えきれずに吹き出した。


「あっはははは!!」

「長い! 長すぎるよ、シェイド!」

「しかもなぜ靴のこと!? どれだけ根に持たれてるんだ!」

「笑うなよ!」


 シェイドは頬を赤くして便箋をぐしゃりと丸めた。


「親父は説教が趣味なんだ!」


 ひとしきり笑うと、エドガーは目尻の涙を拭う。


「……でも、いいお父さんじゃないか」


 エドガーが笑いながら言うと、シェイドは肩をすくめる。


「まぁ、悪い人じゃないけどさ。うるさいんだよ」

「うちとは逆だな」

「僕の母さんなんか、“楽しんでね!”だよ?」

「……バランス取れてるのかもしれないな」


 三人はまた、笑い合った。





 冬季休暇前夜。

 寄宿舎の灯が一つ、また一つと消えていく。

 廊下は冷え、遠くの鐘が時を告げた。


 窓の外では粉雪が舞い、世界が白い息をひそめている。

 エドガーは枕を抱えてベッドに横たわった。

 四人部屋は今夜からしばらく、彼一人きりだ。


 静けさの中、瞼を閉じても胸が妙に高鳴っている。


「眠れないかもしれないな……」


 何度も寝返りを打ち、やがて天井を見上げる。

 梁に沈む影。

 どこか鈍く、どこか柔らかい。


 エドガーはまた枕をぎゅっと抱えると、小さくなって目を閉じた。



 ――いよいよ、冬季休暇が始まる。

 

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