12 影の中の和解
昼間の授業はいつも通りに過ぎた。
以前よりクラスメイトに声をかけられることが増えたが、エドガーとトマスは相変わらず二人で過ごしていた。
高い天井の梁に、少年たちの笑い声がこだまする。
――そして夜が来た。
ふたりは慣れた手つきで寮を抜け出し、冷たい空気を裂くように礼拝堂へと向かう。
霧は薄く、月は半ば雲に隠れていた。
青い光は前の満月の夜ほど強くなく、壁のあちこちに散っていた。
エドガーは壁の印を探し出し、そっとスイッチを押す。
カチリ、と音がして、聖像の台座がわずかにずれる。
二人で力を合わせ、聖像を横へ押した。
――穴が現れる。
冷たい空気が頬を撫で、ランプの炎が小さく揺れた。
覗き込むと、黒い闇が口を開けて待っていた。
「どこまで続いているんだろう……」
「声が響く。広い空間があるのかもしれないね」
トマスが首を伸ばして覗き込んだ、その瞬間――
「わっ!」
手が床を滑り、体が傾く。
反射的に掴んだのはエドガーの腕。
「ちょ、待って!」
ぐん、と引かれ、エドガーの体も穴へ引きずられる。
冷たい風が頬を打ち、視界が反転しかけた――そのとき。
ジャケットの背中を強く引かれ、喉元が締まるほどの力で後ろへ放り出された。
同時に、トマスの体も別の手に引きずられ、二人して床へ転がる。
埃が舞い上がる中、低い声が響いた。
「おい! 何やってんだ、馬鹿かお前ら!」
荒い息づかい。
金髪の少年――シェイド・カーマインが、ランプの光の中に立っていた。
月光がステンドグラスを透かし、彼の顔に青白い影を落とす。
肩で息をしながら、シェイドは二人を睨みつけた。
「……シェイド? どうしてここに?」
エドガーが訊ねると、彼は少し黙ってから顔を背けた。
「……お前らが寮を抜け出すのを見たんだ。気になって……つけてきた」
短く言い捨てるような口調。
だが、その声は小さく、かすかに震えてもいる。
シェイドはトマスを乱暴に引き起こし、肩に手を置いた。
一度口を開け、だがそれは言葉にならずにうつむいてしまう。
だが、シェイドは再度顔を上げた。
「……この前は、悪かった。俺がやりすぎた。……許せ」
トマスは呆然としたまま瞬きを繰り返す。
「え? シェイド? どうしてここに?」
エドガーと同じ言葉を繰り返したトマスを見て、エドガーは思わず吹き出した。
シェイドは困ったように眉をひそめ、息を吐く。
「……お前らを追いかけて来たら、穴に落ちかけててさ。
声かけるより、助けるのが先だったんだ。……本当に危なかったんだぞ」
エドガーは目を細めて微笑む。
「助けてくれてありがとう。命の恩人だよ」
シェイドは小さく首を振り、再びトマスの方を見た。
「本当に、悪かった」
トマスは俯いたまま、胸の前で手を組むようにして黙り込んだ。
そして、少し顔を上げる。
「……許すよ。でも、一つだけ条件がある」
「条件?」
シェイドも、エドガーも眉を寄せる。
「君は僕たちがここに忍び込んでることを知ってしまった。
だから――遺産探し、手伝って!」
エドガーもシェイドも一瞬きょとんとして、それから吹き出した。
「トマス、それ脅迫だよ」
「いや、いいさ。……実は、面白そうだと思ってた。俺も混ぜてくれ」
「ほんとに!?」
トマスの声が礼拝堂に響き、三人は慌てて顔を見合わせた。
響いた声が静まり、ほっと息を吐く。
シェイドは、エドガーとトマスを順に見ると、少しだけ照れたように視線を下げた。
「よろしく……エドガー、トマス」
エドガーは頷き、トマスは満面の笑みを浮かべた。
「よし、“初代国王の隠し遺産探し隊”の結成だ!」
「え……格好悪い名前だな」
「そのまますぎるよ」
「えっ、だめ?」
顔を見合わせ、三人はふっと吹き出す。
少年たちの笑い声が夜の礼拝堂にそっと溶けた。
ステンドグラスを透けた月光は、霧の中で三人の頬を柔らかく照らしている。




