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13 冬季休暇前夜


「もうすぐ冬季休暇が来る。人が減るその時が、地下探検のチャンスだと思うんだ。

 ――冬季休暇は家に帰らず、ここに残らないか?」


 いつもの図書室の奥、背の高い本棚の影。

 赤い夕陽が窓から差し込み、積もった本の背を金色に染めている。

 ストーブの音が微かに鳴り、紙の匂いと埃が漂っていた。


 トマスは薄茶の瞳を輝かせ、何度も大きく頷く。

 一方でシェイドは、眉を寄せて唸った。


「僕は賛成! さっそく家に手紙を書かなくちゃ!」

「……おい、俺たちは年に二回しか帰れないんだぞ? 本気か?」


「無理にとは言わないよ」

 エドガーはトマスの“妄想ノート”を指で捲りながら、静かに答えた。

 けれど、その群青の瞳には確かな好奇心が宿っている。


「素敵な冬季休暇になりそうだね」

 エドガーとトマスが目を合わせて微笑み合うのを見て、シェイドは大きくため息をつき、項垂れた。


「……俺も、残る」


 小さな呟きに、二人の顔がぱっと上がる。

「本当?」

「家は大丈夫なの?」

「……俺だって、お前らと探検したいんだ」


 トマスがにっこり笑って拳を突き出すと、二人も拳を作って軽くぶつけた。


「とりあえず、手紙を書こう。滞在届に親の署名がいる」

 エドガーが言うと、二人は声を揃えて頷いた。


◇◇◇


 冬季休暇を数日後に控え、寄宿舎の廊下はいつもより静かだった。

 トランクを運ぶ音、別れを惜しむ声が遠くで響き、窓の外では霜が花のように広がっている。


 エドガーは机の上に置かれた手紙の束を整えた。

 教師が寮を回って配った「家族からの便り」だ。

 便箋の色も筆跡も、それぞれの家庭の匂いを運んでくる。


「じゃあ、開けようか」

「うん!」


 トマスが封を切る。赤茶の髪がランプの光を受けて透けた。

 便箋には弾むような筆跡。


“会えないのは寂しいけど、無理はしないでね。友達と楽しく過ごすのよ!”


 文末には母親の名前と、小さなハートの落書きまである。


「ふふ、トマスのお母さんって感じがする」

 エドガーが目を細めると、トマスは照れくさそうに笑った。

「僕の母さんはいつもこうなんだ。手紙がまるでお菓子みたいに甘いんだよ」


 次に、エドガーが自分の封を開ける。

 几帳面な筆致。


“冬季休暇中も怠らず励みなさい。努力の継続こそ誇りである。”


 短く、余白が多い。


「さすがレイブンズ家だね。堅い!」

「……うちの父らしいよ」

 エドガーは苦笑して、便箋を丁寧に折りたたんだ。


 最後に、シェイドがぶっきらぼうに封を破る。

 中から出てきた便箋は、やたらと長い。

 冒頭からびっしりと文字が並び、まだ折り畳まれた部分にもびっしり。


「えーっと……“年に二度しか帰省できないのに戻らぬとは何事か。

 お前は幼い頃から落ち着きがなく、靴を磨かぬ癖があり、食事中に本を読むのはやめろと何度言ったら――”」


 トマスとエドガーは顔を見合わせ、

 次の瞬間、堪えきれずに吹き出した。


「あっはははは!!」

「長い! 長すぎるよ、シェイド!」

「しかもなぜ靴のこと!? どれだけ根に持たれてるんだ!」


「笑うなよ!」

 シェイドは頬を赤くして便箋をぐしゃりと丸めた。

「親父は説教が趣味なんだ!」


「……でも、いいお父さんじゃないか」

 エドガーが笑いながら言うと、シェイドは肩をすくめる。

「まぁ、悪い人じゃないけどさ。うるさいんだよ」

「うちとは逆だな」

「僕の母さんなんか、“楽しんでね!”だよ?」

「……バランス取れてるのかもしれないな」

 三人はまた笑い合った。


◇◇◇


 冬季休暇前夜。

 寄宿舎の灯が一つ、また一つと消えていく。

 廊下は冷え、遠くの鐘が時を告げた。


 窓の外では粉雪が舞い、世界が白い息をひそめている。

 エドガーは枕を抱えてベッドに横たわった。

 四人部屋は今夜からしばらく、彼一人きりだ。


 静けさの中、瞼を閉じても胸が妙に高鳴っていた。

 冷たい夜気の奥に、確かに何かが待っている――

 そんな予感と高揚が、少年の心を温めていた。




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