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11 青の収束


 満月の夜だった。

 エドガーとトマスは再び寮を抜け出した。

 前の晩よりも月明かりは明るく、霧の上を蹴りながら、二人は並木道を駆け抜ける。


 礼拝堂の尖塔が月光を受けて淡く光る。

 裏手の木扉を開けると、ひやりとした空気が頬を撫でた。


 蝋と石の匂い。

 吐いた息は白く、すぐに霧に溶けていく。

 礼拝堂の中はしんと静まり、月の光だけがステンドグラスを透かして壁を照らしていた。


 二人は祭壇の裏にランプを隠し、外へ光が漏れないようにしてから、ゆっくりと中央へ進む。


 エドガーは壁を見た。

 青い光が、一点に集まっている。

 昼間のような強い陽では見落とすほどの淡さ。

 だが確かに――それは収束していた。


――満月の夜にだけ現れる、青の焦点。


 エドガーの黒髪がその光を受けて青く揺らぐ。

 彼はそっと壁に近づき、腰板の隙間に伸ばした指を当てた。


 ――カチリ。


 硬い金属音が、静寂の礼拝堂に響いた。

 驚いて手を引くと、トマスも顔を上げる。


「い、今の音何……?」

 二人で辺りを見回す。何も動いたようには見えない。


 けれど、エドガーはすぐに気づいた。

 ――聖像の角度が、ほんのわずかに違う。


 駆け寄り、土台に手を当てる。

 押すと、ずず、と鈍い音を立てて動いた。


「トマス、手を貸して」


 二人で力を合わせ、聖像の土台をゆっくり押し出す。

 汗が滲み、息が白く上がる。

 マフラーとジャケットを長椅子に置き、再び押す。


 ――やがて、石がわずかにずれた。


 床の下から冷たい空気が吹き上がる。

 そこには、人が一人通れそうな穴。


「……階段だ」

「すごく急だね」


 覗き込むと、闇の中に梯子のような階段が続いていた。

 エドガーは祭壇裏のランプを取って照らすが、光はすぐに飲み込まれ、底は見えない。


「行こうよ、エドガー!」

 トマスが身を乗り出す。

 だが、エドガーは首を振った。


「……だめだ。もう空が白い。

 聖像を戻す時間を考えたら、今日はここまでだ」


 トマスは肩を落としながらも頷いた。

「……そうだね」


 二人は聖像を元の位置に戻し、マフラーを巻き直す。

 エドガーはトマスから鉛筆を借り、光の当たっていた壁に小さな印をつけた。


◇◇◇


 礼拝堂を出ると、霧の向こうで鳥の声が一度だけ響いた。

 夜が明けようとしている。


「眠い……」

 トマスが欠伸をすると、白い息がふわりと舞い上がる。

「トマス、探索は一日おきにしよう。僕も眠くて仕方ない」

「そうだね。でも……きっと眠れないと思うよ」

「……わかるけどさ」


 二人は笑い合い、凍てつく空気の中を歩き出す。

 白い満月が西の空へ沈み、東の空がゆっくりと黄金に染まり始めていた。




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