81日目:正体
「……ここが、総本山?」
登り切ったそこには、日本の建物の集合体のような建造物がありました。
城のような雰囲気。
寺のような木造らしさ。
神社のような荘厳さ。
屋敷に使われる瓦の数々。
しかしながら、その建物の前のだだっ広い空き地に、人はいませんでした。
「……なかにいるんだ」
カエデちゃんは、そう言うと靴のまま建物の中へと入っていきました。
これからの展開を予測して、先にとぼけたような話をすると、靴のまま入るのって、海外では当たり前なんですよね。
ただ、この建物とはどうもミスマッチな気がして、私はしっかりと靴を脱ぎました。まあ、靴の脱ぎ履きだけで命が左右されることは無いのでしょうけど。
「……」
中に入ると、私達は言葉を失いました。
否、奪われたという方が正しいのかもしれません。
地獄とはつまり、このことを言うのだと、そう突きつけられているようでした。
部屋中に染み付いている血液。正気の沙汰ではない墨で書かれた文字の数々。狂気の沙汰ともいうべき、喘鳴、悲鳴、絶叫。廊下を歩く人は、もう骨と皮だけしか残っていない状態でした。惨憺たる様に、目を疑いました。
「はなすには、ここのぬしとはなさなければならない」
そう言うと、カエデちゃんはゆっくりと廊下を歩き始めました。
その先には何があるのでしょう。彼女の記憶だけに広がる世界に、私は震えます。
「……ここだ」
すると、明らかに他の人とは服装の違う、絢爛豪華なおばさんがこちらに近寄ってきました。
「……おやおやおや。これはこれは」
ひもでつながっている、首にかけていた眼鏡をかけて、彼女は続けます。
「お客さんですかと思ったら、カエデちゃんじゃないの。お久しぶりね。弟君も元気してる?もしかして、入信する決心してくれたの?だとしたら嬉しいわぁ」
まだ一言も話していないのにこのスピードで話されると、ついつい相手のペースになってしまいます。恐ろしい。恐怖です。
「でもごめんなさいねぇ。お父さんね、汚れがたまりすぎていたの」
汚れ、ですか。しかし、彼女の話からは、そんなことは全く感じませんでしたけど、やはりこういう思想で集まる人たちは、否が応でも清と濁につなげてしまうのでしょうか。
「汚れがたまりすぎている人はね、一度三途の川で洗い流さないといけないのよ」
三途の川……ということは、もう彼はいないということになります。
あの血液たちは、彼と同じように三途の川へと連れていかれた人たちの物。
「三途の川以外では意味がないの。でもね、彼はまじめな人だから。きっとすぐに返してもらえると思うわよ」
嬉々として話す彼女に、私は危機以外の何も感じませんでした。
怖い、恐ろしいを通り越しています。
この人たちは、狂っている。
ようやく私にも、当事者意識と言うか、感情移入ができるようになりました。
「ウロボロスの輪は、絶対なの」
断言した彼女の顔は、もう狂気そのもので、凶器そのものでした。
この人には、なにを言っても伝わらない。
何を論っても意味がなく、どうしようもなく、話したくない。
この人たちは完全に、寸分狂わず、おかしくなっている。
それが、私の感想でした。




