82日目:結末、そして
「……や、やめてくれ!!お腹に、まだ赤ちゃんがいるんだ!」
その時、奥の方から叫び声が聞こえました。
どうやら、夫婦二人のようです。
鼓動が速くなるのを抑え、私はそちらを見ました。
男性は、二人の人間によって、取り押さえられ、女性は、一人の女性によって、首に刀を突きつけられていました。
男性の顔からその最悪さを察するのはたやすく、女性の顔から彼女の諦念を感じるのは容易かったのです。
もう彼女は諦めている。自分の身を、彼らに任せることにしてしまっている。
「……や、やめ、やめろぉ……」
男性の叫びもむなしく、彼女はとうとう決意してしまいました。
「よろしくお願いいたします。蛇神様の、ご加護を」
そう言うと手を合わせ、彼女はついに処刑されてしまいました。
その世界が、あまりにも気味が悪く、私達は何もできない自分達に苛立ちました。
「……ささ、儀式を始めましょうか」
絢爛おばさんの声は、もう聴きたくありませんでした。
「お断りします」
私は、きっぱりとそう言いきります。
もう、見過ごすわけには行かないです。こんなものを見せられたら、胸糞悪いです。こんなもの、私の人生に必要ありません。
だったら、潰すしかありません。
「そう。だったら、」
息を吸います。
「殺すしかないわね」
正直、4オクターブくらい下がったのではないかと思うくらいの低い声に、私は怯えましたが、それでも引きません。
今回は、自分の為にこの人たちを始末するのです。
「カエデちゃん、」
帰ってもらおうかと思った瞬間、彼女はその場でジャンプを使い、絢爛おばさんの頭上に乗りました。
「カエデちゃん?」
次の瞬間、両ポケットに入っていた拳銃の銃口を絢爛おばさんの目に向けました。
その流れで、おばさんの肩に股間を落とし、両足で首を絞めます。
「……おまえを、ぜったいにころす。どうあがいても、なにをいってもゆるさない。おまえがいくのは、さんずのかわじゃねえ!じごくよりもじごくのせかいだ」
そう言って、彼女はその凶器を活用しました。
銃弾、12発。
ナイフによる傷跡、23か所。
絞め跡、あり。
全てを終えた後、私は何も言えませんでした。
そんな時、一本の連絡がカエデちゃんの元へ入りました。
「……な、なんだって」
その連絡は、残酷なものでした。
報復に来ると見越した彼らが、あの学校へと突入し、焼け野原にしたという連絡でした。
大人を侮るな。
そう、宣言されたそうです。
「……ぁああぁっぁぁぁああああああっぁぁっぁぁぁああああ!!!!」
カエデちゃんは、ひとしきり泣きました。
私に掛ける言葉なんて、思いつくはずもなく。
助けられることなんて、救うことなんて、本当にできなかったのです。
「ふわぁ。あれ、皆いなくなった?」
死んだはずの女性が、何事もなかったかのように起き上がりました。
周りにいた人々は全員学校へと向かったので、いませんけど。
……へ?
「いやあ、それにしても、こんなアイディア、なかなかできないっすよ」
「そうかな?」
旦那とも見える人と、その奥さんとも見える人は、両方とも笑顔でいます。
……意味が分かりません。
「あ、あの?」
幽霊が見えるようになったのでしょうか。
「あ、おひさ」
おひさ、ということは、知り合い?
「私だよ、静」
……衝撃的なことが多すぎて、もう言葉が出ません。
「静さん……?」
「そうそう。ついに、私達は獲得したのだよ。ウロボロスの能力を」
「……ということは、あなたは、一風さん?」
「そうだよ」
「てか、能力を、獲得って?」
「ほら」
と言いながら見せてきたのは、本のような物でした。
本と言っても、小説サイズではなく、図鑑くらいの大きさですけれど。
「これね、多分説明書だと思うんだよね。タイトルにもそう書いてあるし。どうする、君の願いが、全て叶うよ?」
得意げに話す彼女の笑顔は、悪戯好きの少年のようでした。
「……私ではなくて、次は、この子の願いをかなえてあげてください」
それを持っているということは、次かその次くらいに私の番が回ってきますからね。
「……わたし?」
涙はようやく枯れたのか、カエデちゃんはふわっと上を向きました。
「そう。時間欲しいだろうから、後で構わないけど。君の世界を、描いてほしい」
さて、彼女は何を願うんだろう。
次の世界へ、ジャンピング。




