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陽元日記  作者: サツマイモ
無戦姫の一生
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80日目:突撃

それは、私にだってわかりません。


なぜなら、私はこの子たちに同情すれど、救いたいとは少しも考えていないからです。ここで格好いいヒーローとかは、「困っているやつを助ける!」と威勢よく宣言したうえで敵に向かうのでしょうけれど、私は特に思いません。むしろ、威勢ではなく虚勢になってしまいます。私は、そういう人間なのです。


徳を積まぬ、玄人なのです。


「……どうなるのかな、と思って」

「どうなるか、って?それは、僕達の行く末を案じているのかな?それとも、彼らの動きを考えての発言かな?はたまた、客観的に見た、物語としての、発言なのかな?」


私には、そのどれもが同じに感じました。

しかし、やはり最後の選択肢が最も妥当でしょうか。


私に一番無いのは、被害者意識でも加害者意識でもなく、当事者意識ということです。私を軸に動いていくこの世界で、私が一番何もわかっていないのですから。


今回も適当に理由をつけて、根拠を述べて、逃げようとしているのですから。


「……今回に限って言ってしまえば、私は本当に無関係なわけでして」

「そうかいそうかい。じゃあ、君はこの状況を客観視しようってわけかい」

「そういう言い方されると、心外ですけど」


心外と言うワードを用いるほどに、私は卑屈になっていました。完全に対岸の火事です。


「じゃあ、今回は君の成長とかは考えなくてもいい」


……どうして、何も言っていないのに成長とか言っているのでしょうか。


「大人だから、やってほしいことがあるんだ」

……私は、ようやくここで自分の今の姿を知りました。

私は、大人に見えていたのですね。


「……なんでしょうか」

やってほしいこと、と言うのは、つまりは偵察でした。

偵察と言うよりは、直談判に近いですが。


「頼んだぞ、柳橋」


カエデちゃんは、私のボディガードを自らの意思で志望しました。

「……別に、一人で行けるよ?」

確かに分かりづらい地図ではありますが、でもそんなに曲がり角とか間違えやすいポイントなどがあるわけでもないので、一人で行くには容易いルートでした。


言ってしまえば、都会よりはマシです。


「そういうことじゃない。まようまよわないではなく、いきるかしぬかなのだ」

「……そう、ですか」


彼女の視線に耐え切れず、私は周りの景色に目を向けました。

相変わらず雪が多いです。


「この辺って、夏とか、四季はあるの?」


こうも雪ばかりだと、冬しかないのではという疑問が浮かびますが、実はそんなこともなく、

「ある。いちおうは」

と、カエデちゃんは周りを警戒しながら答えてくれました。


「そうなんだ……」


空は、一面に雲が広がっており、心なしか黒々としています。どうやら、これからの突入には一難ありそうな空気を醸し出してきます。


雨が降りそうにも思えましたが、しかし着くときまで降りませんでした。


これは、不幸中の幸いかもしれません。


「ついたぞ」

見上げると、そこには大きな柱が二本あり、そしてそれを一本の丸太でつないでいる門のようなものがありました。


「……なんか、鳥居みたい」


その呟きは、彼女の耳に届いていないようで、スタスタと歩いて入ってしまいました。


そんな簡単に入れるんだ。


「わたしは、いちどだけこのなかにはいったことがある」

鳥居の中に入った途端、世界が変わったかのように雪はなく、その分だけ雑草や落ち葉で土は覆われていました。ところどころ花が咲いています。


カエデちゃんは、続けます。


「そのころからわたしは、せんとうぎじゅつを『ちちおや』からまなんでいた。もちろん、きびしかったけど、わたしのためだといってくれて、ひっしにやった」


続く道は、だんだんと坂道へと変わり、やがて階段になっていきました。


「あるひだった。『ちちおや』は、わたしにでかけようといった。めずらしいことだったから、すごくうれしかった。でも、たどりついたさきは、ここだった」

すると、彼女の足は止まり、私の方を振り向きました。


「『ちちおや』は、このきょうだんにのみこまれた。わたしは、なんとか『ちちおや』からまなんだせんとうぎじゅつで、のりきった。

「もしかすると、『ちちおや』は、そのためにわたしにそれらをおしえたのかもしれない」


気づけば、彼女の目からは涙が零れ落ちていました。

もうそれは鬼の眼ではなく、少女の眼でした。


私は動揺を隠せず、周りに助けを求めようとしました。しかし、当たり前のように私たちの周りに味方なんていません。私の無力さを、更に突きつけられます。


私だったら、どうされれば落ち着けるだろう。

結論は、彼女を抱きしめるということでした。


「……いたい」


そう言う彼女でしたが、それでもその声色は嬉しそうで、少し安心しました。

そして、彼女は私をから剥がすようにして離れ、こう依頼をしてきました。


「あなたが、部外者であることは分かっている。でも、部外者だからこそ、助けられる、解決できることもあるはずなんだ。それを、あなたにやってほしい。私の『ちちおや』を、返して、この教団を潰してほしい」


依頼するときの立ち姿、ふるまい、声色。


どれをとっても子供のそれではなく、正々堂々、正面からの、大人の依頼でした。

その態度が嬉しくて、私はついつい了承してしまいました。


この後どうなるかも知らずに。


「じゃあ、まいろう。敵陣へ」

私にも、できることはあるのでしょうか。


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