79日目:大曲成親
「ここが、われらのがっこうだ」
中には、10人ほどの少年少女が暮らしていました。学校と言うだけあって、ちゃんと教室もあり、職員室のような場所もあり、実験器具を揃えた化学実験室だったり、防音設備の整った音楽室だったりも、しっかりとありました。そして、そのすべてに気が用いられていました。
どうやら、この学校は本当にあったもので、現在は廃墟と化しているためにここに住み着いて籠城しているようです。
中に住む子供たち―子供たちと言っても本当に赤ちゃんくらい小さい子から、17,8歳くらいの子までですが―は、とても怯えた顔をしていました。服は汚れ、満足な食事もとっていないのか、相当やつれているようにも見えました。
「…‥どういうこと、なの?」
私が入るなり、少年少女は同時に私の方を見つめ、睨みつけてきました。まるで、私は不法侵入でもしているかのような、そんな気分になりました。
視線を浴びて汗がしたたり落ちます。そんな私を見かねて、カエデちゃんは弁明をしてくれました。
「…‥よろしく」
ここにいる少年少女は本当に、カエデちゃんのことを信頼しているようで、すぐに理解を示してくれました。根はやさしいのでしょうが、状況が状況なので仕方ないでしょう。
掻いていた汗は、いつの間にか収まっていました。
「ねえ、ねえ!おねえちゃんは、どこから来たの?」
その中に一人、皆より元気で明るい少年がいました。
どこかで見たことのあるような、そんな胸の高鳴りを抑えながら、彼の特徴を捉えます。
真っ直ぐな瞳。純粋な笑顔。どこか暗い、影。
その少年は私の方へ駆け寄ってくるや否や、私の背中に乗っかり尋ねてきました。
本当のことを言うわけには行きませんから―というか、言ったところで理解はしてくれないでしょうから、なんとなくぼかして伝えました。
「そうなんだ!すっごい!」
何が凄いのかよく分かりません。ですが、彼の中ではいろいろな世界が広がっているのでしょう。それをぶち壊してしまうのは、無粋ってもんです。
「きみ、お名前は?」
「おおまがり、なりちか!」
元気の言い返しです!こちらも元気が湧いてきます。
しかしどうでしょう。周りを見渡すと、彼以外は私に近づこうとしません。そんなに嫌われているのか、と肩をすくめていましたが、しかし彼ら彼女らの視線や会話を盗み聞くと、どうやらそう言うところではないようなのです。
「……ごめん、ちょっといいかな」
少年―大曲君を置いて、私はカエデちゃんを手招きしました。
部屋のはじっこで睨むように見ていた彼女も、その時ばかりは驚いたような顔で私を見つめました。
部屋の中で話す内容ではなかったので、少し離れた教室に移りました。
「……なによ」
彼女の悪態には、もうすでに慣れました。もはや、そこに可愛さまで見いだせるほどに見慣れました。
「あのさ、大曲君って、嫌われているの?」
ドストレートで確信を吐くような質問だったのか、彼女はしどろもどろになり、視線が泳ぐようになりました。まあ、こんな少女にポーカーフェイスを求めるのはどうかと思いますが、それでもへたくそすぎませんか?
「……おまえ、ちょっとこい」
才能を見出された人のように、私は校長室の方へと連れていかれました。……我ながらとんでもない比喩ですね。笑っちゃいます。
校長室に入る前に、私は諸注意を受けました。諸注意と言っても、禁止事項ではなく、「こういう奴だから」みたいな、そんな注意でした。
しかし、そんな注意もどこかで聞いたことのある感じでした。
「じゃあ、はいれ」
扉をそおっと開けると、予想通りの人が出てきました。
いや、見た目は全く似ていないのですが、雰囲気が似ているのです。
何でしょうか、このデジャブ。
よれよれの白衣に身を包む彼は、今にも死にそうなほどやせ細っており、その上髪の毛もひげも伸ばしっぱなしという、見た目を気にしないタイプの人間でした。
「……やあやあやあ、君がさっきカエデちゃんが言っていた子かい?私はね、この戦いにおいてのいわば、子供たち側のコーチをしているものでね。人は私を専門家と呼ぶが、私は別にそこまでの知識を持っているわけではないのだよ。技術もなければ能力もない。ただ、奇跡的に生き残ったというだけで」
そう言う彼は、御年130歳なのだという。
「それで、君はどうしてこちらに来たのかな?」




