75日目:新たな世界へ
「じゃあ、とりあえず一つ」
そう言うと、彼は、ポケットに手を突っ込み、唸りながら探し当て、その何かを肩よりも上に持ち上げ、そのままひょいっと遠くへ投げた。
遠くというのは、つまり、私以外のみんながいる場所ということです。
……ちょっと待ってください⁈ みんなのところに何投げたんですか⁈
「ちょっと、あなた今何を?」
「何って、言っただろう。周りから殺すって」
「いやいやいや待ってよ、待ってよ?!話違くない⁈」
「いやいや、そう言っただろ」
「……ね、ねえ、何投げたの?」
「まあ、爆弾みたいなものだ」
「爆弾⁈」
「そんなに驚くことか?人を殺すんだから、いや違った。クロスんだから、一色くらい持っているだろ」
「いやいや、でも、爆発、してないよね?」
そう言った刹那、私の足にびちゃびちゃっという擬音と共に、何とも言い難い、気持ち悪い感触があった。
「……まさか」
「血だな。どうだ、成長できそうか?」
「……できるわけないでしょ⁈」
「じゃあ、クロスしかないな」
一瞬でした。
刹那でした。
瞬間でした。
彼の手から飛んできた先ほどの何かが私の体にぶつかり、無数のとげが現れ、体に突き刺さります。痛いという感情を言葉に発する直前に、私は意識を失いました。
私は、3度目の転生を繰り返すことになりました。
我が儘な性格を変えることなく。
「う、うーん。寒っ」
自分の体が大の字になっているのが分かりました。
寝ているときって、自分の体勢とか分かったりするのに、意外と同じ体勢で寝られませんよね。なんでなんでしょう。
感覚が戻ってきます。ふう、ごお、という時に柔らかく時に素早い風の音がランダムに聞こえ、全身が冷たいのを感じます。水のような冷たさや、扇風機やエアコンとは段違いに冷たいです。
ところで、冷えるときの「さ・つ・い」って知ってます?
まあ、知ってるわけがないと思いますが。
というのも、私が作ったので。
この「さ・つ・い」というのは、空気が冷えているときの段階の頭文字をとったものなんですね。
「さ」は、寒い。
「つ」は、冷たい。
「い」は、痛い。
合わせて、「さ・つ・い」です。
そんな事を考えつつも、私はようやく最後の感覚、目を開けました。
世界は、まっしろに染まっています。
空がこれほどまでに白いと、体が冷たいのも何となくわかります。
きっと、雪でしょう。
上半身だけを起き上がらせると、体からぼろぼろと雪が落ちていきます。
両手で払おうとしたときに、ようやく自分の服装に気づきました。
長袖長ズボン。両手に手袋。帽子まで完備していました。
この転生、めっちゃ優遇しません?
本当に私を成長させる気あるんですか?
「ちょ、寒いなあ」
それでもやっぱり寒いです。
辺りを見渡すと、やはり誰もいません。
落ち着いたころ合いに、ようやく立ち上がると、本当に綺麗に銀世界が広がっていました。
昔から、雪は白いんだから、銀世界じゃなくて白世界じゃないの?という疑問を持っていましたが、言われてみれば確かに白ではないですね。水色にも見えなくもないです。銀というのが、一番綺麗かもしれません。
「金世界とかって、あったりするのかな」
めっちゃ金かかりそうという考えと、黄土色の砂漠地帯が同時に浮かんできましたが、どちらも現実的ではありません。
リアリスティックではありません。
ロマンチックではありますけど。
「人は、どこに住んでいるんだろうか」
独り言が世界中に響くという体験を、私はどれほどやれば良いのでしょうか。
もしかして、そう言うところから成長を求めているのか?
だとしたら、残念です。
だって、それを楽しむところまで来ちゃっているのですから。
よーく耳を澄ますと、遠くの方で、音が聞こえます。
太鼓……ですかね。
それに、笛の音も聞こえます。
音の鳴る方へ目をやると、遠くに明かりがあるのが見えました。
火のような光。
なんか、おぞましささえ感じるほどに、光り輝く火でした。




