76日目:鬼のような眼
「そういえば」
初めは幼女。次に、少女。今度は、何でしょうか。
あ、体の話です。
残念ながらここは、雪に足跡が残っていないほどに誰も踏み入れていない未開の地なので、鏡がなく確認をすることはできませんが、確実に言えるのは髪の毛は伸びたということくらいでしょうか。身長は、残念ながらこれ以上伸びないようです。
胸も、同様でした。
「……そうは上手くいかないか」
ため息をこぼしつつ、この未開地を脱出するための方法を考えます。
とりあえず静さんと出会わなければなりません。
いや、しなきゃいけないわけではないですけど、した方が何かと心強いので。
「とはいっても」
明るいところの人がいるとは思います。それが確実だと思います。でも、あの光は、あの灯は、あの火は、嫌な予感しかしないので、できるだけ離れたいのです。
できるだけ逆の、反対の方向へ。
体をぐぅっと伸ばし、私は反対方向へと歩き出しました。
雪の中には、ほとんど生物がおらず、この前のような心配もありません。ひたすら歩けば、誰かと出会えると思うのです。そう信じて、歩きます。
……お気づきかもしれませんが、このころから私は理性的に動くことはできませんでした。
そんな気がする、そうであってほしい、予感がする、なんとなく、雰囲気で。
そんな言い訳にも似た感情に任せて、私は道なき道を歩き始めました。
荒んでいくのを感じます。
……いけませんね、ポジティブに行かないと。
遅くたっていいんだ、前さえ見ていれば。
よいっしょ、よいっしょ。
深い雪を力強く踏みつけ、歩き続けます。
もう、1kmは歩いたと思います。
疲れがたまっても、歩き続けても、永遠に景色が変わりません。
一寸先は闇ということわざがありますが、この時ばかりは、一寸先も雪という感じです。
疲れました。笑顔でいられません。心の奥が、頭の中が、闇深く、澱んでいきます。
……成長、ですか。
そうすれば楽なのでしょう。生まれ変わることほど簡単なことはありません。
ただ、生まれ変わることなんて、この社会で生きていくために必要なことなのでしょうか。
皆、産まれてくるときには何かしらの理由があって産まれてくると私は思います。
でも、別にそれは皆が皆、助け合うことで生きていけるみたいな、そんなおとぎ話みたいな、お花畑みたいな話ではないです。
必要悪として産まれてくるものもいるでしょう。
聖人君子として産まれてくるものもいるでしょう。
何をやっても誰かの2番手だったり、器用貧乏だったり。
そうやって持ち合わせている目的に則して生きられないような奴を、成長して生まれ変わった偉い奴だと、ほめたたえるわけにはいきません。というか、単純に私は嫌です。
だって、与えられた使命も全うできないのに、何が成長ですか。
それで上から目線とか、本当に頭がおかしいとしか思えません。
誰かの真似をして、一緒のことをしたって、はっきり言って無駄です。
誰かの詩ではないですけど、そもそもオンリーワンなのです。
このことに対して、反論があるのは勿論わかります。
でもそれって人間が産まれてから決めた、ルールに過ぎないのです。
法律だったり、マナーだったり、それだけでなく、お金だったり、そういった縛りを作るからこそ、皆が住みにくい世界を作り上げているのです。
……私は、どうしてこんな話をしているのでしょうか。
私は、何をしたいのでしょうか。
「私は……」
我が儘で、自分勝手で、自己中心的で。
そんな私は、こうやって逃げ続けて、何がしたいのでしょうか。
「……新たな、世界を」
作りたい……のでしょうか?
自己中心的ではなく、私中心の世界を、作りたいのでしょうか。
「……ははっ。我ながら本当に頭がおかしいなぁ」
笑いましたが、自分のことを嘲笑できるほど客観視できていないのも事実でした。
「……でも、本当にできるのかな」
『人に巻き付き、時に巻き憑き、世界に取り憑く蛇神様。始りが終りを飲み込む、永遠の蛇にして、無限の蛇。完全で、完璧で、全能な蛇。通称、ウロボロス。それが、この一連の流れの正体だ』
彼の台詞を思い出します。
奥塚十哉。彼とは、もう少しお話ししたかったです。もしも、少しでも私が変わろうとしたならば、彼とはどのような結末を迎えたのでしょうか。
「……にしても、本当にいないなって、ぎゃあ!」
その瞬間、目の前から何か鋭利なものが飛んできたのが分かりました。よける間もなく私はその鋭利なものをつかみました。
なんか、そういった武器みたいなものにも慣れてきました。
手から血が流れるのを感じます。
しかし、痛みはあまり感じません。
「……うそでしょ?」
呟く声が聞こえました。どうやら、近くの木から撃たれたもののようです。
「誰かいるんですか?ちょっと顔を出してもらえませんか?」
尋ねると、その人は素直に出てきました。
人というより、人たちでしたけど。
もっと言うなら、その子たちでしたけど。
現れたのは、10歳にも満たない少年少女でした。
「だから、ちがうっていったじゃん」
少年は、少女の服の裾をつかみつつ言及しました。
「でも、こんなところにひとがはいってくるわけないもん。ぜったい、あのむらのひとたちだもん」
少女は、頬を膨らませながら、こちらの方に武器を突きつけます。
「おまえ、なにものだ」
睨む眼は、最高に鬼の様でした。




