39日目:後日談
「いやあ、まさか、レイズ・パトリの最期がそんな感じだったとはねぇ。それにしても、あの楓ちゃんは、相当重い子だったんだね。気持ち的に。どうりで、いつも話しかけても何の返しもなかったんだ。そうかそうか、そういうことだったんだ」
翌日の朝のことです。
うちの部屋で川の字になりながら寝た後も、先輩たちは帰ってきませんでした。
忙しいんですかね。何が起きているのでしょうか。
まさか、生きるか死ぬかの瀬戸際に立っているとか、そんな事ではないと思いますけどね。
結局、あの紋章―――ペンダントみたいなあれ―――は、彼女らに返すことにした。歴史が変わろうとも、彼女らが持つにふさわしいと、そう感じたからです。
楓さんは、「ありがとう」とだけ言いました。うっすらと浮かぶ笑顔に、少し暖かさを感じました。
一方で、颯君は「いいのか?」と尋ねました。
特別な気持ちを持っているわけではなかったので、それは別に構わないと返すと、少し複雑な顔をしました。なんというか、欲しかったプレゼントとは違った時の子供のようでした。
「……もしかして、要らなかった?」
「い、いや、いいんだ。ただちょっと、心の準備が欲しいなって」
それもそうだ。自らが封印した、自らが殺したようなものなのですし。
「颯、きっといつか、それが生きていくうえで必要になっていくと思うわ」
姉の優しい声は、颯君にも届いたようで、
「うん、分かった」
と言いました。明るく爽やかな声に、うちもなんだかほっとしました。
「嫌だったら、うちが持っていようか?」
「いや、良いんだよ。むしろ、私が持っていなければならないものなんだ。だから、私達で持っていたいんだ」
そう言う彼女の笑顔は、後光が差すほど神々しかった。
その隣で、彼の瞳と目が合ったのは初めてでした。
その後、あの学校へと足を運び、臣坂斉昭にその旨を伝えました。まあ、全て覚えているわけではなく、なんとなく、ぼんやりと、それなりのことを話しただけなんですが。
「ただ、一つ分からないことがあって」
「ん?どうしたの?分からないことがあるだなんて、しかもそれを僕なんかに聞いてしまうだなんて、随分と君は愚かになってしまったようじゃないか」
「なんでそんなに強い口調なんですかっ⁈いや、別にそんなに難しい話じゃなくて」
「ん?」
「結局のところ、ハヤテ・クーゴ、つまり久郷颯は、姫になったんですよ。でも、誰の奥さんだったのかなって」
「ああ、それは簡単な話だよ。よかったね、僕が答えるようなことで」
「……ウザいんで、早く答えて頂けますか?」
「ごめんごめん。単純な話とは言ったけれど、今の君たちにとってみれば、割と複雑な話なのかもしれない。要はね、結婚していないんだよ」
「結婚していない?」
「書物によると、彼女は…ああ、違うんだっけ、彼なんだっけ。まあいいや、とりあえずその子は、結婚せずに、王の地位を継いだんだ」
「……なんとびっくり」
「まあ、なんでもありの陽元王国だからね」
「……じゃあ、あともう一つ」
「ん?今度は何かな?」
「……まあいいです。また今度、別の機会に聞こうと思います」
「そうかい」
外に出てから、うちは何となく考えていました。
「もしも、彼女が生体保存の能力を持っていたら」
たらればなんて、本当は考えない方が良いのかもしれませんが、それでも考えたくなってしまうのが、人間の性というやつでしょうね。
「……きっと、すぐにでもその能力を使って永遠に閉じ込めておくんだろうなぁ」
それはそれで、怪談めいていますけど。紋章に対する逸話としては、そっちの方が面白いかもしれません。ただ、その場合はうちは戦に参加しなければならないでしょうね。
ともすると、意外と楽なものでした。聞き手に回るという今回の案件は。
……それにしても、才能の差か。
今回は、才能というか、能力の違いが、その後の悲劇を招いたわけですけれど、やっぱりそれを含めて自分を考えなくてはいけませんよね。
周りと比べても意味がないという言葉も、もちろん分かりますし、大切な心持だとは思いますが、でも人間社会で生きていくうえで、人の目を気にしないというのは、あまりにも無責任だと思います。
まあ、なんだかんだ言っても、あの兄弟の言っていた言葉の意味が、なんとなく分かったくらいで、自分の得意なことなんか知らずに、自分が特異であることも知らずに、生きていくんでしょうけどね。
人間とは、全く考えないときの方が、理性なんか頼らず、心で生きているときの方が、意外と公平で平等なのかもしれません。
天秤のようなバランスが取れれば、それに越したことは無いのでしょうけれど。




