38日目:カエデ・クーゴの昔語り③
飛んでいった理性がようやく戻ってくると、私は牢屋の中にいた。
「まあ、そうだよね」
もう、心はここにはなかった。
「なんで、ここにいるのさ!」
檻の方を見れば、弟がいた。
「なんでって、人殺しだからさ」
「それだったら、僕にだって」
「なんで?」
何を言っているのだろうか。
「だって、僕は、彼を助けなかった」
「……何言ってるの?助けたじゃん。保存したんでしょ?」
「違うんだ。あれは、確かに保存したんだけれど、冷凍保存じゃない。常温保存だ」
「……常温保存?」
え、なにそんなことできるの?
「そうだ。僕は、彼と一緒に一生を過ごすなんてとてもできない。そりゃ、話自体は嬉しかったけど、そんな重い奴とは結婚できない」
「ほう」
まあ、あいつ以上に私の方が重いんだけどね。
「だから、あえて冷凍しなかった。静かに、あいつを殺したんだ」
「……へえ。マジか」
「うん」
「でもさ、考えてもみなよ。彼の能力を壊したのは私。お前は、それを見過ごしただけだ」
「それは、殺したのと一緒だ」
「違う。そうじゃない。だったら、国民全員が王様を殺したことになっちまう」
「でも、そんな」
「いじめでは、見て見ぬふりをする奴も加害者だとよく言われる。そりゃもちろんそうだ、止めないやつも加害者みたいなもんだ」
「だったら」
「でもな、いじめって、そんな単純なものじゃないんだよ。被害者・加害者・傍観者と3つに分けているけれど、そんな単純なものじゃない。傍観者の中にも、いろんな区分がある。ただ止める勇気がない奴。次の標的になりたくないから積極的に傍観者になる奴。無関心な奴。関わりたくない奴。早く終わらせてほしい奴。とまあ、いろいろと」
「……」
「それらすべてが加害者とは、私は思わないな。2個目のやつとかは加害者扱いしてもいいんだけどね。そして、お前もその中の一人だ」
「……?」
「人一人助けられるほどの能力を持っていない奴のこと。こういうのもまた、傍観者の一人だろうよ。今回で言えば。そりゃ、断る勇気があれば、越したことは無いんだけど、全員が全員、その能力を持っているわけじゃない。皆が勇気を持っていれば、そもそも『勇気を持て!』なんて言葉は生まれない。だから、心配するな。お前はたまたまその場に立ち会っただけの、チキン野郎ってだけだからさ」
と、いじめ主犯格へと成り下がった人が、言いましたとさ。
いじめとは殺人で、殺人とはいじめである。
人の生きる道を閉ざしてしまうのだから、そうだと私は思う。
いじめなんて、やっていいわけがない。そんなことは当たり前だ。
人間は水を飲みますということぐらい当たり前だ。
なぜなら、人間には理性があるから。
理性が無い奴だけが、人殺しやいじめ、虐待をするんだ。
馬鹿だというか、何というか。
人間にも満たないサルモドキに、私もまた成り下がってしまったということだ。
こんなつもりじゃなかったんだけどなぁ。
皆はなるなよ、こんな理性がぶっ飛んだサルモドキに。
島流しにあったのは、翌日のことだった。
まさか、逃げ切れるとは思えなかったけど。
そして、日本に帰ってきたのは、そのまた翌日のことだった。
その後、我が弟は、自らの目を潰してしまったようだ。




