20日目:北の鬼の住人っ!
「よう、姉ちゃん。一緒に遊ばねえ?」
老紳士にお礼を言って下ろしてもらい、10分ほど歩いた先に、こいつはいた。
こいつというのは、つまりはあたしに対しこう仕掛けてきた奴のことを指す。
あたしは、こういう奴が大っ嫌いなんだ。なんか、がっつきすぎと言うか、余裕ねえなと思ってしまうのだ。なので、こいつの名前がなんであれ、あたしの中ではこいつはこいつでしかない。
ただ、一つ言えるのは、こいつは体格が良い。がっしりとした肩回りに、6枚に割れている腹筋(こいつは上裸だった)、そして、190㎝はあろう身長。暗闇の中、突如現れた大男に、少し身構えてしまった。
「お前、あの北の鬼とか呼ばれる連中の一人か?」
「おや?なんか、身構えちまっているようだな。安心してくれよ、別に暴力を働こうって魂胆じゃあねえ」
両手を上げ、口をすぼめ、ニヤッと笑う。
悪党のやりそうなことだ。外国映画でよく見かける。
「安心しろ。別にあたしも人殺しをする気はない」
右肩に乗せておいた柳生一花の形見を、袋から出さずに、こいつに向けた。
丹香に送ってもらった後、この刀がすっぽり入るくらいの袋を探していた。さすがに長刀の為、お手頃価格の鞘は無かったが、その代わりに布製の袋なら見つかったのだ。
以来、ずっと持っていたのだが、蹴球好きのおじさんも、老紳士も、これには気づかなかった。釣竿か何かだとでも思っていたのだろうか。にしても、警戒しなかったのは少し気になった。やはり現代同様、平和ボケをしているということなのだろうか。
「おいおい、物騒だな。もしかして、肩に乗せているそれは、刀か何かなのかい?」
語尾が低くなり、こいつは後方に左手で指示を送った。どうやら、こいつ一人ではないらしい。
ともすると、これくらいの大男が残り数人は確実にいるわけで、じゃあこんなか弱い女子一人でどうすればいいのかと言うと、やはりここではこの刀を使うしかないようだ。
「まあな」
一言だけで、答える。
「そうか。なるほどねえ。じゃあ、抵抗するわけだ」
「一つ、聞きたいことがある」
「答えたくないなあ」
「どうせ殺すなら、答えても、応えなくても一緒だろ」
「……ほう。じゃあ、聞くだけ聞こう」
「10年ほど前、蹴球が禁忌になってしまうような大事件を起こしたらしいじゃないか。何が、あったんだ?」
「……10年ほど前ねえ。ええと、何があったかなあ。ああ、そうそう。暴動事件だよ」
「暴動事件?」
「この件に限って言うなら、これは俺たちの責任でもなんでもない。言ってしまえば、審判団の責任だ」
「……詳しく、答えてくれよ」
「それはさあ、冬のことだったよ。俺達のチーム、北鬼会は、国際親善試合に臨んだんだ。
「確か、俺たちの故郷、陽元王国のチームだったな。
「お互い地元同士ということもあって、仲良く激しくやろうぜなんて、試合前なんかに話していたんだ。
「俺たちだって、一応は人間だからな。そういうコミュニケーションは取るさ。
「そして、試合は始まった。
「初めの方から、何となく違和感は感じていた。
「お互い、ルールを熟知しているわけだから、それぞれルールすれすれのプレーをしていた。それは別に咎められるものではない。ただ、バランスが欠けていた。
「ああ、バランスさ。さすがに相手チームばかりファウルをとられすぎていたんだ。
「俺たちにとっては良かったけど、それでもなんかよい気持ちにはなれなかった。
「次第に、審判団は俺たちに加担していることが分かった。
「同等なプレーをしても、こっちはノーファウルで、あっちは警告。
「最悪だったのが、終了間際かな。
「待ち伏せルールや、相手を引っ張って倒したとか、いろんな屁理屈を並べて、全てのゴールをノーゴール判定にしていた。
「さすがに、俺たちも抗議したけど、彼らは聞かなかったな。
「そして、試合は終了。最後まで、ゴールが決まることは無かった。2-0で俺らの勝利。
「そして試合後、観客同士で暴動事件。死者約20人、負傷者多数。




