16日目:水瓶の家にてっ!
地中と言うべきか、それとも海中と言うべきか、あたしには判断しかねるが、とりあえず彼女は、その中に造られた家に住んでいた。家というよりは、倉庫に近いが。
水瓶丹香。
5歳児並の身長に、風になびくような柔らかい髪。まん丸の瞳は純粋さを表し、褐色の肌は快活さを醸し出していた。手先は身長に比例して短いが、可動域が広すぎることは、もうすでに紹介済みだろう。
そして、彼女は今この倉庫のような家の奥で、座りながら寝ていた。
机にはもたれず、首を下に向けている姿勢は、とても愛おしくはあったものの、少し痛そうに思えた。
「おーい」
起こしたところで、特に用はなかったのだが、それでもまずその態勢をやめさせなければと思ったのだ。しかし、そんな心配は無用だったようで、
「……むにゃ。ふわあぁ。あれ?どうされたんですかっ?」
と何もなかったようにこちらの方を見てきたのだ。しかも、目を覚ましてからわずか1秒足らずで、いつものテンションを取り戻している。朝が強いのかこの子は。
「いや、特には無いんだけど」
周りを見渡すと、様々なスポーツで扱われる道具がそこにはあった。ここまであると、まるで博物館みたいと言いたくなるが、しかしながら扱いは乱雑で、そこもまた倉庫っぽかった。
左から順に、野球、籠球、排球、庭球、羽球、闘球、送球、杖球、袋球などなど。
……あれ。球技ばっかだな。
「たんか、運動自体は嫌いなんですっ!あれのどこが楽しいんですかっ⁈」
「いやいや、そこまで言うことか?」
あたしだって、そこまで得意なわけではないが、観戦とか、結構楽しいぞ?
「いっつも、同じような動きばっかだしっ!」
ぷくっと頬を膨らませる。さながらリスの様だ。
「あなたは、うんどう、好きですか?」
机をバンッと叩いた。
裏切者かどうか尋問するような口ぶりではあったものの、見た目からして特に何の覇気も感じられなかったのが、少し面白かった。
「あ、何で笑うんですかっ!」
「そういや、冬のスポーツ、だっけ?ほら、スキーとかスケートとか。そういう器具なくない?」
「ああ、ええと、この辺はあまり降りませんからね」
彼女は、視線をすっと下に落とした。
語尾は弱く、儚げであった。
「そういや、蹴球もないよな?」
「ええと、まあ。それは、何と言うか」
明らかに誤魔化した。そのしぐさは、そのモジモジ加減は、悪さをした子供と言うよりは、昔のことを触れられた大人の女性の様だった。
もしかして、地雷踏んだっぽい?
「そ、それよりっ!今日は、何の用だったんですかっ⁈」
気持ちを切り替えようとしたのか、ややオーバーな動きをしながら、あたしの顔面へと顔を寄せてきた。
湿気と夏とですでにめちゃめちゃ暑かったのにプラスして、心臓のドキドキがあたしの体を熱っぽくさせた。
「しかも、その刀は何ですかっ?もしかして、たんかを殺そうとっ?」
「いやいやいや、全然違う、絶対違う。それは間違いだよ、間違いに決まっているじゃないか。強いて言うなら勘違い。そ、そう勘違いだよ!そうだ、君は今ちょうど勘違いをしたんだよ。まあ、確かに?出会ってまだ数日の相手がいきなりこんな長刀を抱えていれば、誰だって恐怖を感じるだろうが、でも、これは違うんだ。これは、」
「いや、妙に似合っているから聞いただけで、特に疑ってはいないんですけど」
「これは、柳生一花の形見なんだ。あいつ、あたしの前で死にやがってマジ恐怖だったんだけど、そんなの旅行とか探索とか調査中に何度も目撃していたから何となく慣れていたからまだあたしでよかったなと思ってて。そして、あたしは彼から聞いたことに関して、君の家まで訪ねて、尋ねたいというわけなんだよ」
鼻息荒く、汗を振りまき、言っていることが自分でもよく分からない中行った弁明は―――証明は、どうやら彼女に伝わったようだ。
「まあ、じゃあ、そういうことなんですね。別に、外国人ごときの攻撃なんて、当たりませんから構いませんけど」
右目を挟むようにして、またぐようにしてつくられた横ピースは、なんだかそれだけだと時代を感じたが、それと同時に発せられた言葉には、静かに戦慄した。戦いて、戦慄いてしまった。
「それで、用は―――要は何ですか?」
「……ええと、あたしの国に、会いたい人がいるんだって?。あの人から、断片的に、しかも大雑把にしか聞いていないから、特には知らないんだけれども」
曖昧な情報と記憶をたどりながら、尋ねた。
彼女は、時折見せるような大人びた表情を、ここで見せてきた。
そして、悲しそうに、寂しそうに、呟いた。
「今はもう、いませんね」
それが何を意味していたのか、想像に難くはなかった。また恋愛沙汰かと少し思ったが、そんな薄情な奴じゃないことをここで訂正したい。それよりも、彼女の過去を知りたくなった。
彼女はきっと、あたしたちの国に住んでいた。そして、何らかの形でこちらへと戻ってきた。そんなことが窺える。
快活な少女の、過去。
過ぎ去っていった青春。
「じゃあ、行こうよ、そいつの街に」
無意識に出た言葉に、二人で驚いてしまった。
彼女の青春を、結ぶ。




