17日目:調査開始っ!
「え、今から…ですか?」
一瞬下を見て、それからゆっくりと顔を上げ、彼女は上目遣いをしながら、あたしに尋ねた。
別に、今からじゃないといけない理由は無いけれど、歴史の遺物―――後輩が見せた6種の遺物の中の一つである球体が、もしかするとここにあったのではないかと思うと、どうしても動きたくなってしまうのである。
旅人の性だろうか。
「まあ、無理にとは言わないけど。ここで、君が拒否をするというなら、あたしが一人で探すだけだし」
「……そうですか」
彼女は一向に納得しようとしない。よほどのことがあったのだろうか。
「では、一人で行ってきてください。そこにきっと、あなたが探しているものもありますでしょうし」
ため息をつきながら言う彼女に、いつもの元気はなく。
諦めたというか、呆れているというか、そう言った感情が言葉の端々だけでなく態度そのものからあふれ出ていた。そして、怒っているようにも見えた。
「そう?じゃあ、行ってくるわ。でも、せめてヒントくらいは教えてくれないか?」
「……はあ。北です。白い鬼です」
「白い鬼?……ええと、とりあえず北なんだな?分かった、じゃあ行ってくるよ」
どうしてそこまでして行きたかったのか。
ただ、気になった。それだけなのだ。
「じゃあ、また後日」
その言葉には、多少のイラつきが入った。今のあたしには、そこでどうしてイラついたのかは分からない。ただ、こういうことっていくらでもあると思うのだ。
人間上手くはいかないことばかりとはよく言ったものだが、だったら上手くいかないと思わないような考え方をすればいいと、たまに愚考する。
あたしはどうやら、嫌なことや面倒なことに関して、存在意義を見出さず、否定的であるらしい。
嫌なことなんていくらでもあって。
でも嫌なことがなければ、嬉しいことなんてない。
そんな単純なことに気づくまでに、少なくともここから数週間はかかった。
「北か…」
送り届けてもらう道中は、話す時間なんてない。結局着いた先でも、彼女はすぐに帰ってしまった。
こうしてあたしの一人旅が始まる。
この国は、やはり島のわりに人口が多い。北へ北へと進んでいけば、何もせずして人に会う。この旅の問題点はただ一つ、食料だけだ。お金をしっかりと持っているわけではないので、仕事もしつつで行かなければならない。大変な道のりになりそうだ。
そんな事を考えていると、前方から、いかにも「蹴球大好きです」と言うような若者がこちらへとずんずん歩いてきた。両側を刈り上げた、さっぱりとした短髪に、少しふくよかな少年だった。
鼻歌でも歌っているのだろうか、とても陽気である。しかし、陽元王国の時のような妖気は感じない。まあ、当たり前だが。
「あの~、こんにちは」
「お、なんだい、姉ちゃん。おいらとお話でもしたいのかい?」
「まあ、そんなところです」
「おう、これはまたしっかりとした女性だ。いいよ、何の話だい?」
「ええと、あたし蹴球初心者なんですけど、一回友達に誘われて、試合を観戦したんですよ」
「ふうん。国際戦?国内戦?」
「ええと、多分国内戦です。ええと、沖陽なんちゃらと、汐塚の試合だったので」
「おお、じゃあ、ほんとについこの前だね」
そうだったんだ。あぶねー、ウソがばれるところだった。当てずっぽうだったけど。助かったぁ。
「あの試合もよかったよね。沖陽もパスをつないで良いサッカーだったんだけど、ゴール前まで繋いでちゃ、ダメだよね。シュートは撃たなきゃ。入らないよ」
試合結果などは知らないし、もっと言えばどんな試合だったのかなんて知ったこっちゃない。ついこの前まで、海外にいたんだから。
ともあれ、彼が物知りそうで良かった。
「で、凄く楽しかったので、是非いろんな人にお話を伺いたいと思っていまして」
「へえ、でも、今はこういう通信機器があるから、そういうので調べた方が速いんじゃないかな」
「あたし、そういうの嫌いなんですよ。ぜひとも、人の話は生で聞きたいじゃないですか」
嘘だ。全く以て嘘だ。こういうやつは、そうやって自分の存在価値を示唆するような発言をしておけば、するすると喋る。
「なるほどねえ、おいらも、いわゆる『俄』だから、あんまり深くしゃべれないんだけど、それでもいいかな?」
「ええ、もちろん」
「ちなみに、お名前はなんて言うんだい?」
「あたしは、先崎咲季と言います」
「おいらは、鉄庫孝だ。宜しくね。じゃあ、そこの喫茶店に行こうか」
「そうですね」
端から見れば、怪しいツーショットなんだろうが、あたしは全く気にしていなかった。終わった後で、「あれ?これって…」となった程度である。とにかく暑かったので、喫茶店に入ることは大いに賛成した。
太陽が元気いっぱいに照らす野外とは大違いに、喫茶店内はキンキンに冷えていた。噴き出していた汗が一気に冷えるのを感じる。
あーあ、こりゃ明日風邪ひくわ。
「じゃあ、あたしは麦茶で」
「おいらは、コーヒーで」
「かしこまりました」
店内は人が少なく、あたしらの注文はすぐに取ってもらえた。そして、出てくるのも早かった。
「ありがとうございます」
「ごゆっくり」
「綺麗な鳩ですなあ」
「鳩?」
「あ、いえ、人。綺麗な人って言おうと思って、かんじまった」
ここで、本当に照れた時に後頭部を掻く人っているんだと思った。
「で、おいらはどこから話せばいいのかな?」
「ええと、まずは、国内戦についていろいろと」
「じゃあ、説明しよう」
人差し指を立て、宣言した。




