15日目:後日談
後日、あたしは人刀『笹指冴枝』を、造り主である柳生一花に渡した。
そして、ばあちゃんから聞いた昔話を、彼にした。彼は概ね正解ですと言った。
「もしかしてなんだけどさ、」
恋愛沙汰にはあんまし興味ない。それはつまり、言ってしまえば思春期の男子みたいなもので、こんな単純なことでさえ少しためらいを覚えてしまうのだ。
「どうしましたか?」
「冴枝さんのこと、好きだったのか?」
「……すみません。わたくしもそういったことに疎いもので、ええ、疎いですとも。ですから、この気持ちをどう表現したらいいか分かりかねるのです。ええ、分かりかねますとも」
しかし彼は、そんなことを言いながら、そして刀を見つめながら、力強く続けた。
「ただ、彼女が言っていた『つまらん世界』を、なんとかして変えたかったという気持ちはありますねえ。ええ、ありますとも。彼女が楽しめるような、何が起こるか分からない世界を、造りたいものですねえ。ええ、造りたいですとも」
「……なるほどな」
「ロマンと言うものを、彼女から教わりましたね。ええ、教わりましたとも」
晴れやかな笑顔を浮かべる。すべてが終わったような彼は、どこか少年のようであった。遊び疲れた少年のような、そんな笑顔だった。
「あなたは、」
突然、彼はあたしに問いかけた。刀は依然として右手に持ったまま。
「陽元王国が、この世界に必要だと思いますか?」
「……必要じゃなかったら、この世界に生まれないんじゃないのか?」
「ほう。なるほど。面白い意見ですね。ええ、面白いですとも。いや、実はですね」
わたくしは、この国を壊そうと思っているのですよ。
彼は、吹っ切れたように、しかしどこか寂しく、そう言った。
「壊す?」
あたしには、そういう繰り返して返すという技法しか使えなかった。
「ええ、そうですとも。世界から、抹消するべきだとも、思っております。その点、世界の皆さんとは同じ意見だと思うんですがね。ええ、思いますとも」
「なんで、そんな、故郷を?」
「対して思い入れはありません。思い出も、特にはありませんね。ええ、ありませんとも。まあ、理由としてはそこではなく、やはり歴史でしょうね」
「歴史」
相槌も、簡素なものになってしまう。
「歴史の終わりを体現した国。そう呼ばれております。そしてわたくしも、その歴史の終わりを見ようとした。しかし、彼女のような存在を知って、わたくしの考えはひっくり返りました。歴史の終わりなんて、無い方が良いんじゃないかと。まだ見ぬ未来へ向け、日々を生きた方がよっぽど楽しいと。そして、完璧なものほどひどくつまらない物はないと。その時、彼女から知ったのです。もしも、彼女が『楽しそう』と言う理由で人殺しを始めた狂った性格ではなく、ごく一般の優良な子であれば、わたくしもきっとそんなところには辿り着かなかったでしょう。ええ、そうですとも」
「じゃあ、あなたは、戦の終わりを知らない……ということか?」
「ええ、限界を知らないのですとも。もしかすると、もっとすごい剣士や銃士が現れたり、殺傷能力が著しく高い武器が作られるかもしれませんが、それはわたくしの作品ではございません」
「もしも、彼女に―笹指冴枝に出会わなかったら、あなたは、どんな刀を作っていたんだ?」
「……それは、そうですね。もしもの話にはなりますが…」
顎に手を当て、そして答える。
「縁斬刀でしょうか。ええ、そういう刀ですとも」
「縁斬刀?それは、どういうことだ?」
「人を斬るのではなく、人と人との縁を斬るというもの。好きの反対は無関心とも言いますが、これは嫌いの反対は無関心とも言えます。人を嫌うということは、必ずその人と何らかの縁があるということです。まあ、これはわたくしの持論ですが、ええ持論ですとも。巷に蔓延るいじめというものは、つまりはそう言ったことで解決できるのです。みんなが皆、相手のことなど考えず、無関心であればいい。関わらなければいいのです。一人だけ無視されるのは、さすがに心に傷を負いますが、皆がそれぞれ無視をすれば、それはもう傷なんて負いません。無傷です」
「……なるほど、でも、じゃあそれを造ってしまうと、彼女との縁も切れて―斬れてしまうんじゃないか?」
「ええ、ですから、万が一のもしものたらればの話ですよ。ええ、そうですとも」
そう言うと、彼は立ち上がり、そして街の方へと向かった。
「どこ行くの?」
「水瓶さんのところですよ」
「なんで?」
「彼女もまた、あなたの国に用があるようなので」
旅はまだ序盤。どうやら、この7人は、なんらかの心残りがあって、この国に残っているような気がした。この国が防人七人以外いなくなってもなお、ここで過ごしているというのは、つまりそういうことでしょう。
たどり着いた先は、看板だけおいてある砂浜だった。
「じゃあ、わたくしはこれで。彼女なら、その看板の下の洞穴に入れば会えます」
そう言うと、彼は、自分に容赦をかけることなく、右手に持ったままの人刀を口の中へといれ、ぐっと喉に刺した。
「愛する人に、殺されるというのも、また一興ですな。ええ、一興ですとも」
狂っているのは、お前だよ。
そう言いたくなる、最期だった。
6月25日。柳生一花は、この日を以て食刀の刀鍛冶は歴史から消滅された。
残った刀は、彼の身長と同じくらい2mくらいの長さになった。
第2章は、来週月曜日!
お楽しみに!




