11日目:人刀『笹指冴枝』
二人とも長身で、腕や足が枝のように細い。片方はサングラスをかけており、片方は眼鏡をかけている。サングラスの後ろ髪は非常に長く、眼鏡の人は、後ろを刈り上げていた。サングラスのおっさんは、手袋に嫌悪と記されており、眼鏡の兄さんは刈り上げのところに良好と書かれていた。一発でわかるほどに頭のおかしそうな人たちだった。
「いやいやいや、そんなに怖がることもなかろうよ」
「ほんとほんとほんと、俺たちは殺そうとしているわけじゃねえんだよ」
ここまで信用できない言葉もなかなかない。彼らの手のひらにあった苦無のような刃物がより不信感を抱かせた。
「……名前を、聞かせてもらおうか」
「いやいやいや、名乗るほどのものでもない」
「ほんとほんとほんと、名乗ったところで意味がない」
名乗ったら、殺すしかありませんからね。
眼鏡の兄さんは、目をカッと開いて、狂ったような表情を見せた。
「どうせ死ぬなら、せめて相手の名前を知ってから死にたいな」
別に死ぬ気はなかったが、とりあえず相手を知らないことには始まらないと思った。
「いやいやいや、では名乗ろうか」
「ほんとほんとほんと、しつこいお方だ」
彼らは名乗った。
サングラスのおっさんは、陰影軍団若鷺組頭領、朝向虚。
眼鏡の兄さんは、陰影軍団若鷺組副頭領、潺誂。
「いやいやいや、折角美しい女性なのに、ここで死ぬとは勿体ないのう」
「ほんとほんとほんと、折角可憐なのに」
「お褒めに預かり光栄だよ」
とは言ったものの、決してあたしは格闘向きではないので、どう戦ったところで勝てる要素は限りなく低いのだ。
「後輩」
「はい?」
「それ、貸して」
「は、はい」
藁をもすがる思いでその刀に頼った。
そんな思いだった。
「いやいやいや、それを使うとは」
「ほんとほんとほんと、君に扱えるのかな?」
「先手必勝っ!」
ちょうどあたしの足で三歩くらいの距離にいた二人に対し、あたしは刀を上で構え一歩踏み込み、その勢いを利用して下に振り下ろした。
「何のこれしきっ」
彼らは二人とも後方へと飛び跳ね躱す。その際に手元に持っていた苦無をあたしと後輩へ向け投げ飛ばす。そのスピードはあたしの動体視力では追いつけないほど速かった。
「やべっ」
これまで、命の危険にさらされることは、旅の道中往々にしてあった。しかしながら、そういう危険というのは、たいていが餓死だったり、凍死だったりで、対人の危険というのは無かったのだ。確かに、危険動物とかはいたけれど、ほとんど近づかなければ害はない。しかし、人間は全く違う。あたしが迷惑を掛けようとしなくても、つい迷惑がかかっていたりするもので、そのせいであたしにはまったく思いもしないようなところから攻められたりするものだ。人間とは、そういう生き物だ。まったく、面倒だよ。
あーあ、こんなことなら真面目に護身術学べばよかったな。
そう諦めの気持ちでいっぱいだったこの瞬間に、この刀の奇跡を見た。
狂っている柳生一花が作ったとしか思えなく。
陽元王国の一つの進化の最終形態を見たような。
これが、抹消されるべき歴史の一つなのだろう。
そんな思いを後にさせた、そんな奇跡だった。
まだ持っていたはずの日本刀の刃の部分が二手に分かれ、片方はあたしの方に向かった苦無へ、片方は後輩へと向かっている苦無へと伸び、それぞれ捕らえた。
「何っ?それが、日本刀というのか?」
「嘘だろ?そんなの、日本刀じゃねえ!」
いやいやいや、とか、ほんとほんとほんと、とかいう余裕の表情は彼らにはなくなっていた。
彼らは、着地後すぐにトップスピードで接近し、懐に潜ませていたナイフを手にもって無理やり刺しに来た。彼らにしては、少し強引だったようにも思える(当時のあたしにそんなことを考える余裕などなかったが)戦法だった。たぶんそれでも、この刀を持たないあたしには有効な手段だろう。彼らのトップスピードはまるで台風による突風のようで、あたしにはよけられる気さえもしない。
しかし、あたしの今持っている刀は違った。
刀は、先ほど捕らえた苦無を刃の中に取り込んで、また一本に戻り、そしてそれぞれが今度は鍔を中心に円を描いた。
まるで、盾のようなそれを、あたしは構えることしかできなかったが、その盾はとても丈夫で、あたしが力を入れなくとも簡単に相手を吹き飛ばした。
しかも、刀自体は無傷である。
「いやいやいや……なんなんだ、それは」
「ほんとほんとほんと、化け物か何かじゃないのか?」
「いや、あたしも知らないよ」
「ええい、だったら、お前を殺すだけだ!」
今度は、二人そろって同じところを狙ってきた。一点を二人で狙うというのは、非常に有効である。刀は、ぎりぎりまで一本の刃を崩さなかったが、攻撃が決まるか決まらないかすれすれのところで、脱力したかのようにだらんとした。
そのせいで、彼ら同士の攻撃が、彼ら同士に当たり、相打ちのようになっていた。
あたしは、何もせずして、勝利をつかんだ。
「だ、大丈夫ですか?先輩」
「うん、あたしは全然」
「なんか、凄い刀でしたね」
「そうだな」
「どうしましょうか、この死体。埋めときますか」
「え、いいの?ここに埋めるの?家だよ?」
「え、別によくないですか?」
「そ、そうか」
「これで、無事旅を続けられそうですね」
「だといいんだけどな」
「そういえば、陰影軍団と言えば」
「と言えば?」
「国の団体ではありますが、結構秘密裏に動くタイプの団体でして。そんな人に会えるなんて、幸運でしたね、うちたち!」
「そ、そうだな」
「やっぱりこの刀って、世界を揺るがすほどの歴史に関わるような、そんな刀なんでしょうかね」
「だとしたら、ひいばあちゃんすげえ人だな」
「ね、凄いですよね!」
陽元王国の凄さを、改めて知った出来事だった。




