10日目:後輩の家にて
「いやあ、お疲れ様です、先輩」
後輩の家までの道のりで、気になることは無いこともなかったが、そんなことをしている場合ではなかったので、色々無視してやってきた。
ごめんね、重い荷物を抱えたおじいちゃん。
ごめんね、ハンカチ落としていたサラリーマンさん。
ごめんね、道に迷っていた学生さん。
ただ、一つ言わせてほしいのは、皆計画性がなさすぎるよ。特におじいちゃん!ちょっとずつ持って行ってもいいんじゃないの?そんな大きい荷物を持てないことくらいわかるでしょ?
ま、性格の悪いことを言うのはこれくらいにして。
自分の身長より大きな扉をコンコンと叩くと、ざざっと重い扉を開けて、中の使用人っぽい人がすうっと現れて、
「お嬢様は、現在居間におられます」
とだけ言って、また庭の手入れに戻っていった。
「あ、あ…ありがとう、ございます」
その手際の良さ、感服致すところではあるが、そんなに早くて人間の区別がつくのだろうか、というかあたしの顔を一度でも見ただろうか。
「ま、いいか」
居間にいると言われたので、長い廊下をスタスタと歩き、居間へと向かった。なにせ部屋が多いので、どれが居間なのかは分からなかったが、襖が全開の部屋に裸で寝そべっている後輩がいたので、「あ、ここだろう」と見つけられたのだ。
「おいっす、後輩」
「あ、先輩。こんちはっす」
寝ぼけまなこをこすりながら、彼女はこちらの方を向いた。
「あ、あの……服は?」
「え、ああ。裸でしたか、すみません」
「いや、もうちょっと注意しようや。この屋敷が大きくてここまで他人が見られないとはいえ」
「そして、ここには使用人も女性だけ」
「え、そうなの⁈」
まあ、確かに外にいた人も女性だったけれども。
「お父さんは、漁業関係で海外ですし、今ここには女性しかいないのですよ」
……なるほど。でも、それが理由なら、裸でもいいかとはならないからね?
「じゃあ、しょうがないんで服着ますね」
なんか、あたしが強制したみたいになってんだけど……。
あれ、間違ってないよね?
「ふう」
恥ずかしげもなくあたしの目の前で着替え始めた。
「もしかして、興奮してるんですか?」
にやにやしながらこちらを見つめる後輩。
「い、いやあ、別に」
はぐらかすことしかできなかった。
「あーれれ、女性でもいいんですね、先輩」
「まあ、嫌ではない」
「え、否定しないんだ」
「肯定もしないがな」
「想定外でした」
いや、別にそういう目で一度も見ていないだけで。今まで言ったように、あたしは性欲がほぼないと言ってもおかしくはないから、女子だろうが男子だろうが、特に気にしないんだよ。ただまあ、常識から考えて、倫理を論理的に考えて、指摘しただけであって。
つまり何かというと。
『あたしは別にいいけど、他の人は知らんよ』ってやつだ。
「そうですか、じゃあ」
すぐに彼女は着替え終わり、はじに寄せていた座布団を持ってあたしに渡し、自分はしっかりと上座に座った。
「それで、今日はどうしたんですか?」
「いやあ、これと言って用は」
ある。大いにある。ただ、何というか、彼女の家の中心に障りかねない重要な話なので、お気楽には切り出せない。細心の注意を払わなければ。
「この前の、通信のことだけど」
「ああ、そういえば。うちも調べたんすよ」
「お、そうか」
「そしたらですね、押し入れの中にこんなものが」
そう言うと、彼女は言ったん部屋を出て、そしてすぐ戻ってきた。
「これって、やっぱり刀なんですか?」
素養が無いもので、と言ってあたしに手渡した。
あたしだって、素養は無い。
しかしながら、その見た目はまさしく日本刀だった。全体でちょうどあたしの腕の長さで、柄の部分には柳が描かれていた。
「多分、刀だろうな」
「これ、結構貴重なものなんですかね」
「まあ、今の時代刀を使う人なんていないし」
「そうですよね」
「よかったらさ、それ作り主に返さない?」
「別にいいですよ」
「え、そんなにあっさり?」
「想定外でした?」
「想定外だったよ」
「まあ、でもうちが決めることでもないと思いますがね。お母さんは興味がないだろうからいいけど、おばあちゃんがなんて言うかな…ちょっと、聞いてきますね」
ささっと部屋に出て、ささっと部屋に戻ってきた。
「良いですって」
「んな雑な」
「まあ、古くからあるものらしいけど、なんかもう要らないって」
「へ、へえ」
くれるのはありがたいけど、なんかそんな感じでもらったらなあ。
「じゃあ、ご丁重にお預かりを」
「待ってください」
「え?」
後輩、シーっと言ってあたしをかがませた。座っていたので、なんとなく四つん這いのようになっている。
「どした?」
小声で尋ねる。
「なんか、人の目が」
「人の目?でも、塀があたしの身長より高かったんだぞ?いくら男とは言え、さすがに越えれたものじゃ」
「森の中からです」
「いや、森って。よく見えたな、そこから」
「まあ、慣れですかね」
そう言うと、彼女は縁側に仁王立ちし、
「出てきてくださいな」
と非常に萌えるポーズをしていた。
可愛いな、おい。
すると、ざっと音がして、そして着地した音は聞こえず、長身の男二人組が後輩の前に立った。
「いやいやいや、よくも我らをみぬけたのう」
「ほんとほんとほんと、見抜けたなんて驚きですなあ」
妖しさ際立つ二人組だった。




