9日目:到着っ!
途中、もしかすると落ちてしまうかもしれない。そうなったとき、変にバランスをとっちゃって足首とか痛めたり、あるいは道中(というか水上中)でサメとかに襲われたらどうしようとか思っていたが、そんな心配及び不安は、ものの数秒で掻き消された。
というか、存在までもが持ってかれそうだった。
声も出せないほどの全速力のスピードは、彼女こそ平気な顔をしていたが、これは光までは早くなかったが、それでも音速を優に超えていた。
着いた時には、関節という関節が外れた気がしたが、多分動いた瞬間のショックで失神したことにより彼女の体に巻き付けたことで、どうやら無事にたどり着いたようだ。
「あ、あ……ありがとう」
「いえ、なんのこれしきっ!」
きっちり敬礼する彼女は、元気健康どころか、スポーツのウォーミングアップのようになったようで、むしろもう少し動きたかったなっという表情をしている。
周りをきょろきょろ見渡し、建物が並んでいるのに気づき、少しため息をついていた。どうやら諦めたようだ。
そういう基準は、しっかりとしてんのな。
「いや、汚したら嫌じゃないですかっ!」
多分言いたかったのは怪我をしたらということなのだろうが、しかしそれだと超自分本位だということになるので、突っ込むかどうか微妙なラインだった。
ちなみに、泳いだのか飛んでいたのかは定かではない。なぜなら、すでに失神していたのはともかくとして、例え飛んでいたとしても、あのスピードでは必ず離着陸の際水しぶきに遭うはずだからだ。
「とりあえず、ここはどこだ?」
「たんかは、地理とか詳しくないのでっ、適当に突っ込んできちゃいましたけど、一応最初の要望通り、人があまりいないところに行きましたよっ!」
常に体のどこかしらが動いている少女だ。しっぽがあれば年中動かしているだろう。
「なるほど……」
辺りを見渡すと、確かに人はいなかった。ここは、多分田舎の港町なんだろう。……しかし、既視感が凄いな。いつでも、見ていた景色のような…。
「あ、ここちょうどあたしの家の近くだ」
「え、本当ですかっ!良かったっ!」
「うん、助かっちゃったな」
「いえいえ、お困りならば、いつでも呼んで下されっ。では、たんかはこれでっ」
そう言うと、彼女は同じルート(多分)を、一直線に帰って行った。
やっぱり、あの国は優しい人が多いな。どうして、あの国を消そうとしているんだろうか。
「じゃあ、詩沙の家にでも行くか」
確かに、思い返せば彼女の家は、こんな田舎町には見合わないような屋敷に住んでいた。
まるで、城のような家に住んでいた。
本当、自分の記憶力の低さには、呆れてしまうよ。
「この辺には、国の人は来ないだろうな」
なにせ、端っこの田舎町である。地方部の人たちだって暇じゃない。ましてや、国のトップたちが遊びに来るなんてこともない。だからこそ、ここから出発することを選んだ。
ちなみに、この国―あたしが将来歴史を暴き改竄出来たら、日本と名付けよう―は、いくつかの地方に分けられている。
大きさで言うなら、統国府があって、次に12の地方部に分けられて、その後、43の鼎に分けられる。そして全520の大町、1270の中街、そして260の小村に分けられる。
とまあ、こんな感じだ。
ちなみにあたしは、去年の暮れで完全制覇を成し遂げた。
疑うなら、あたしの家に来るがいい。全国の神社の御朱印をもらったかんな。
え、それじゃ意味ないって?まあ、いいや。
それはさておき。
閑話休題。
この町は、その小村に分類される。潟坂小村というのが、あたしの地元であり、後輩の地元であるここの地名だ。
「さあ、行くぞ~」
道を覚えていなくとも、あの家はすぐにたどり着ける。
それくらい立派だったと、記憶している。




