8日目:出発っ!
翌日。
いつ雨が降ってもおかしくないような黒々とした雲が広がる空の下、あたしは防人七人が一人と待ち合わせていた。
どうやら柳生一花は同行しないらしい。
彼らを少し怖がっていたあたしとしては―まだ一人にしか会ってないが―、とてもいい人たちのように思えた。性格が良いというか、少なくとももてなしてくれたのは嬉しかった。きっと、国に戻ればそんなことは無いだろうから。
怒られるか、あるいは消されるか。
そんなところだろう。
「お待たせしましたっ!」
声のする方を向くと、そこには誰もいなかった。
「え、どこ?」
「新喜劇ですかっ!」
その言葉の意味を寡聞にして知らないのだが、どうやら彼女は身長が極限まで小さいようだ。否、極限とは言いすぎだ。言うならば、大体5歳くらいだろうか。
「馬鹿にしないでくださいっ!たんかは、これでもあなたより長く生きているんですからねっ?!」
「え、そうなの?というか、君が昨日言っていたみずがめ…」
「はいっ!水瓶丹香ですっ!」
「な、なるほど。じゃあ、君が操縦してくれるんだね。いや、ここに船は無いから…じゃあ、船を一から作ってくれるとか?もしかして、創造の防人だったりするのかな?」
もちろん、彼女が競技の先駆者であることは承知の上である。しかし、こんな小さな女の子の上に乗せてもらうとか、恥ずかしさももちろんあるが、踏みつけているようで背徳感が半端ない。年端もいかない少女の上に乗るとか、ありえないだろ。
だから、何となく、逸らしてみた。
しかしこれは、結果から言って失敗だった。
「いえいえ、乗ってくださいなっ!」
そう言って、彼女は彼女自身の背中をぽんっと叩いた。
やっぱりそうなんのか…。
「いや、でもさ背中に乗るのって、なんか悪いし」
「そんなことないですよっ!たんか、運動ならだれにも負けませんしっ!たまに、負けたくなりますけどね」
「いやいや、そういうことを言ってるんじゃなくて」
彼女の台詞を少しだけ、心にとどめたうえで聞き流した。
「なんか、少女を踏みつけるみたいでいやじゃん。もちろん、見えないようなルートで行ってもらうけどさ、万が一見られたら、ね?」
「何を言ってるのかさっぱり分からないのですが」
「え、分かんない?」
「ええ」
「どこが?」
「少女を踏みつけるというところから」
「いやそこは分かるだろ!」
「だって、当たり前じゃないですかっ?人間だれしも誰かの屍の上を歩いて生きているわけですし」
「なんか、唐突に深いな」
「そういう心配こそ、たんかは不快なんですけどね。大丈夫ですよっ!」
「そ、そう?じゃあ、お言葉に甘えて」
言いくるめられるようにして、彼女の指示に従った。
「サーフィンみたいだな、この態勢」
「そりゃ、それが一番安定しますからねっ。安心してくださいっ。落ちそうになってもたんかが全力でサポートしますからっ!」
そう言って彼女は自慢の体をくねくねと曲げた。比喩ではなく、実際に。関節が関節として機能していないかのような、そんな動きをしている。え、それもう逆まで回ってるよ。しかも、まとわりつくように筋肉があたしの足をつかむ。背中の筋肉って、こんな自由自在に動くんだっけ?
「たんかの体は、そうですねっ。運動分野にステータスを全振りした感じですからねっ!」
「……もう、全振りの域超えてんじゃないかな」
特殊スキルさえも凌駕してそうな、そんな体をしている。
「それじゃ、行きますね」




