↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

その役目は私だけのもの



「エリーゼ、今日はとてもいい天気ですよ」



 朝食を終えた後、クロードが窓の外を見ながら言った。空は雲ひとつない青空で、柔らかな風がカーテンを揺らしている。



「本当だね。気持ちよさそう」



「こんな日は外でお昼を食べるのはいかがですか?」



「ピクニック?」



「ええ。あなたが好きなサンドイッチと、冷たいレモネードを持って行きましょう」



「行きたい!」



 私は嬉しくなって、思わず立ち上がる。クロードはそんな私を見て目を細めて微笑んだ。



「では準備をしてきますね。エリーゼはお気に入りの帽子を被って待っていてください」



「うん。私も何か手伝うよ」



「では、一緒にサンドイッチを作りましょうか」



 キッチンに並んで立つ。クロードが用意してくれたパンにレタスやハム、チーズを挟んでいく。私は卵を潰してサラダを作る係。



「エリーゼ、上手にできましたね」



「クロードの教え方がいいから」



「ふふ、またそれですか」



「だって本当のことだもん」



 二人で笑いながら、バスケットに料理を詰めていく。レモネードは瓶に入れて氷をたっぷりと。デザートに小さなクッキーも焼いてくれたらしい。



「準備できました。行きましょうか」



「うん!」



 クロードがバスケットを持ち私は彼の空いている方の手を握る。外に出ると、初夏の爽やかな風が頬を撫でた。



「どこに行くの?」



「丘の上の大きな木の下がいいと思います。見晴らしが良くて、風も気持ちいいですよ」



「それは楽しみね!」



 手を繋いでゆっくりと歩く。道端には小さな花が咲いていて、蝶がひらひらと舞っている。

 クロードは時々立ち止まって私に花の名前を教えてくれる。



「これは忘れな草です。あなたの瞳の色に似ていますね」



「私の目、こんな色?」



「ええ。澄んだ空のような、美しい色です」



「また平気でそういうこと言うんだから……」



「事実ですから」



 彼は平然としているけれど私はいつも照れてしまう。でも嫌ではない。むしろ、その言葉が胸にじんわりと染みていく。



 丘に着くと、大きな木が私たちを迎えてくれた。木陰はひんやりとしていて遠くには村の景色が見渡せる。



「わあ、素敵な場所……」



「気に入っていただけましたか?」



「うん、とっても」



 クロードがバスケットからブランケットを取り出し芝生の上に広げてくれる。私はその上に座り、彼も隣に腰を下ろした。



「お腹空いたね」



「ええ。では、いただきましょうか」



 サンドイッチを取り出し、二人で食べ始める。外で食べるだけでどうしてこんなに美味しく感じるのだろう。不思議だ。




「おいしい……」



「よかった。レモネードもどうぞ」



「ありがとう」



 冷たいレモネードが喉を潤す。甘酸っぱくて爽やかで、体の中から涼しくなっていく。



「クロード、あーんして」



「私がですか?」



「うん。サンドイッチ、一口あげる」



「では、お言葉に甘えて」



 彼が口を開けるのでそっとサンドイッチを差し出す。クロードはそれを一口食べて、嬉しそうに微笑んだ。



「美味しいです。あなたに食べさせてもらうと、さらに美味しく感じますね」



「私もそう思う。クロードもあーんして?」



「ふふ、いいですよ」



 今度は彼がサンドイッチを私の口元に運んでくれる。私はぱくりと一口。なんだか特別な味がした。



「おいしい……」



「それはよかった」



 顔を見合わせて笑い合う。風が木の葉を揺らし、光がキラキラと踊っている。



「ここに来てよかったね」



「ええ。あなたの笑顔が見られて、私も幸せです」



 私も彼の笑顔がたくさん見れて凄く幸せだ。



「クロードはいつも私を喜ばせようとしてくれるよね」



「当然です。あなたに笑っていてほしいから」



「ありがとう。私もクロードに笑っていてほしい」



 そして欲を言うのであれば、貴方の表情を柔らかくするのは常に私がいい。

 その役目は誰にも譲りたくないし、誰にも譲るつもりはない。



「私はいつも笑っていますよ。あなたの傍にいる限り」



 そう言って彼はまた優しく笑う。その笑顔が本当に好きだ。






 昼食を食べ終えたあとは、木にもたれかかってのんびり過ごす。クロードの肩に頭を預けると彼はそっと私の手を握ってくれた。



「眠くなってきましたか?」



「うん、ちょっとだけ……」



「お昼寝してもいいですよ。傍にいますから」



「うん……」



 目を閉じると風の音と鳥の声が子守唄のように聞こえてくる。クロードの温もりを感じながら、私はゆっくりと眠りに落ちていった。







・・・








「エリーゼ、そろそろ起きてください。日が傾いてきました」



「ん……」



 目を開けると、空は茜色に染まり始めていた。いつの間にか結構な時間眠っていたらしい。



「よく眠れましたか?」



「うん。クロードの傍だから安心して眠れた」



「それはよかった。ではそろそろ帰りましょうか」



「うん」



名残惜しいけれど、立ち上がって荷物をまとめる。クロードがブランケットを畳みバスケットを持ってくれる。



「手、繋いで帰ろう」



「はい」



 来た時と同じように手を繋いで、ゆっくりと丘を下りる。夕陽が私たちの影を長く伸ばしている。



「今日は楽しかったね」



「ええ。また来ましょう。次は朝早く来て、朝食をここで食べるのもいいかもしれません」



「それ素敵!絶対来ようね」



「約束します」



「うん、約束」



 小指を絡めて笑い合う。帰り道も、貴方と一緒なら退屈することはない。



 家に着く頃には、すっかり日が暮れていた。空には一番星が輝いている。



「今日も一日ありがとう。クロード」



「こちらこそ。素敵な一日をありがとうございます」



 玄関で向き合い、彼がそっと私の額に口づける。



「お風呂の準備をしてきますね。夕食は軽いものでいいですか?」



「うん。お腹はまだそんなに空いてないかも」



「では、スープとサラダにしましょう」



「うん、ありがとう」



 彼が浴室へ向かう後ろ姿を見送りながら、私は今日の楽しみ思い出を思い返す。



「エリーゼ、お風呂の準備ができましたよ」



「はーい」



 今日の幸せを胸に、私はクロードの待つ方へと歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。