この幸せな日々をいつまでも
「エリーゼ、起きてください」
耳元で優しい声がして、ゆっくりと目を開けると、そこには変わらず優しい顔をしたクロードがいた。
「ん……クロード……?」
「はい、クロードですよ。よく眠れましたか?」
「うん……クロードの膝、気持ちよかった」
「それはよかった。もうすぐお昼です。お腹は空きましたか?」
「……空いたかも」
いつの間にそんな時間が経っていたのだろうか。クロードの膝が心地よく、つい熟睡してしまった。
それもこれも彼の膝が人を駄目にするレベルで気持ちいいのがいけない。
「では、お昼の準備をしましょうか。今日は何が食べたいですか?」
「クロードが作ってくれるなら何でも」
「ふふ、そう言うと思いました。リクエストがないなら冷製パスタにしましょうか。夏野菜をたっぷり使って」
「わあ……食べたい」
「決まりですね」
体を起こして伸びをする。まだ少し眠いけど、お腹は確かに空いている。
「料理、手伝っていい?」
「エリーゼは座って待っていてください。すぐに作りますから」
「でも私もキッチンにいたい……」
「では、見ているだけならいいですよ」
「うん! ありがとう!」
二人で家の中へ戻り、キッチンへ向かう。クロードは手際よく材料を用意していく。私はカウンターの椅子に座りその様子を眺める。
「クロードの料理してる姿、好きだなあ」
「そう言われると少し照れますね」
「あれクロードでも照れるんだ?」
「もちろんですよ。あなたにだけは」
そう言って振り向くクロードの耳が少し赤くなっているのが見えて、なんだか嬉しくなる。
普段は隙のない完璧超人なのに、こういうところがギャップがあって可愛い。
「トマト、切ってもいい?」
「お願いします」
結局少しだけ手伝うことになった。昔は何もできなかった私だけど、クロードと暮らすようになって少しは料理ができるようになった。
「上手に切れるようになりましたね」
「クロードが教えてくれたから」
「私の教え方が良かったのでしょう」
「もう、それ自分で言う?」
「事実ですよ」
そんな風に笑い合いながら昼食の準備を進める。出来上がった冷製パスタは彩りも鮮やかで、食欲をそそる香りがした。
「いただきます」
「召し上がれ」
口に運ぶと、夏野菜の甘みと爽やかな酸味が広がる。
「おいしい! 冷たくて食べやすいね」
「気に入っていただけてよかったです」
「うん、最高。クロードは本当に料理が上手だよね」
「元々あなたのお世話をするのが仕事でしたから。それに今は愛する妻のためですから気合いが入ります」
「ふふ、ありがとう」
昼食を終え片付けをして、午後は読書をしたりお茶を飲んだりのんびり過ごす。
こういう落ち着いた時間を彼と2人で過ごす日々が好きだ。この穏やかな時がずっと続けばいい。
「クロード、ここ座って」
ソファに座っていた私は隣をぽんぽんと叩く。
「はい」
「寄りかかっていい?」
「もちろんです」
彼の肩に寄りかかると、彼は本を持つ手をそっと私の腰にまわしてくる。
「クロードの匂い、好き」
「匂いですか?」
「安心する匂いがする」
「それは嬉しいですが……私は変な匂いしないですか?」
「しない。クロードはいつもいい匂い」
「よかった。あなたこそ、とても甘くていい香りがしますよ」
「髪を洗う石鹸の香りかも」
「ええ、柔らかくて。つい抱きしめたくなります」
「もう、今してるじゃない」
「もっと強くしても?」
「うん、いいよ」
彼の腕にぎゅっと抱きしめられる。温かくて溶けてしまいそうだ。
「クロード」
「はい」
「幸せだね」
「そうですね。私もあなたといるだけで幸せです」
「この時間がずっと続けばいいのに」
「きっと続きますよ。これからもずっとあなたの傍で幸せにします」
「……うん。約束」
「約束です」
顔を見合わせて、どちらからともなく口づけを交わす。何度しても慣れないこの甘い感覚が愛おしい。
「今日も一日、ありがとう。クロード」
「こちらこそ。素敵な時間をありがとうございます」
窓の外では夕陽が沈み始めていた。明日も明後日もその先も、この人と一緒に歳を重ねていきたい。
「夕食までまだ時間があります。もう少しこのままでいましょうか」
「うん……もう少しだけ」
クロードの胸にもたれかかりながら目を閉じる。聞こえるのは彼の心音と穏やかな呼吸。この人と出会えた奇跡に、心から感謝する。
「愛しています、エリーゼ。明日も明後日もあなたに朝の挨拶をさせてくださいね」
「うん。私も、毎朝クロードに起こしてもらいたい」
「光栄です。それでは、明日の朝もたっぷり甘やかしますから覚悟していてください」
「楽しみにしてる」
そう言って笑い合う。私たちの穏やかな一日は まだ続いていく。明日の朝の「おはようございます」を楽しみにしながら、私は愛しい夫の温もりの中で静かに目を閉じた。




