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愛されていたなんて今更だ。もう関係はない。
とは言っても学園生活はまだ続く。
お互いが成績優秀だったのでクラスも同じ。同じ年齢というのも考えものだとため息が出た。
教室に入って少しすると教師が入ってきた。ふと席を見渡すと空いてる席がひとつ、居ない人間はボニファーツィオだった。
退学した。その言葉にリオネットは多少の心配を滲ませた。
もう関わらないと思っていたし、いい記憶はない。
けれど、心配になったのは、彼の歪んだ愛情は受け入れられなかったが、それでも愛されていたと知ってしまったからだろう。
この青い空の下、彼はどうしているのだろうか……
その答えは1ヶ月後にレオニーから聞かされた。
リオネットには秘密の凄腕の情報屋からの知らせらしい。
彼は家を出たらしい。
領地では居場所を見出だせず王都に平民として暮らすことになった。
その言葉に罪悪感を覚えた。
彼がここまでになる前に苦言を呈していれば……
彼がリオネットを愛していたならばあるいは聞き入れられたかもしれない。
そう思えば胸が痛む。
だけども、胸の奥で小さなリオネットが泣いている。
バルトレオの居ない未来なら要らないと叫んでいる。
だから、小さく呟いた。
「ごめんなさい……」
誰にも拾われない呟きは風に乗って空気に溶けた。
貴族の醜聞など、あらゆるところに落ちているもので、ボニファーツィオの話題は次第に聞かなくなっていった。
リオネットも表面上は気にせずに過ごした。
無理をしていると感じてはバルトレオもレオニーもリオネットを大いに甘やかした。
心を痛めていたリオネットが再び憂いなく笑みを浮かべたのはボニファーツィオが騎士団に入ったと聞いた頃だった。
彼も前に進んでいるならば、私も進んでもいいわよね……
隣を歩くバルトレオを見上げ呟いた。
彼が誰を指すか分かって愛しい婚約者は眉をひそめたが追求はしてこなかった。代わりに髪を一房掬い口付ける。
「……レオ、拗ねてる?」
「拗ねてない、嫉妬してるだけ」
そんな答えが返ってきてきゅんと胸が甘く疼いた。
「ふふ、やっと前を向ける気がするの。一歩頑張って歩むからその先は一緒に進んでくれる?」
「……一歩目から僕がエスコートする。だから死ぬまで僕の隣にいて。僕は死んでもリネの隣を譲らないからさ」
少し離れた所にいたレオニーが「兄様、やっぱり病んでるよね」と呟いたのは愛嬌だ。
「あーあ、アレス様に会いたいよぉ」
レオニーとアレスディオは本当に相思相愛で甘えるレオニーとそんなレオニーが可愛いという態度を示すアレスディオに侯爵家はいつも温かい眼差しが飛び交っている。
近いうちに公爵家もそうなるのだろう。
その予感がリオネットは嬉しかった。
気が付けば学園生活の残りは少なくなっていて、レオニーとアレスディオの婚姻は近い。
追うようにバルトレオも結婚式の準備をしている。
会場へのこだわりは凄まじいがウェディングドレスだけは花嫁に選ばせた。
そして選んでいるリオネットを愛おしげに見つめるバルトレオと、望みを叶え、幸せを約束してくれる未来の夫を蕩けるような笑えみを向けるリオネットはお似合いの婚約者であり、運命の恋人と呼ばれていた。
同じ頃、ボニファーツィオにも変化が訪れていた。
リオネットに似た酒屋の看板娘との逢瀬はリオネットとの縁が切れた際に絶ったはずだった。
その娘がボニファーツィオを追いかけるまでは。
「元お貴族様らしいけど知ったこっちゃないわ。あんたの情けないとこ見てらんないから面倒見たげるわ。だからさ、またお酒飲みにおいでよね」
騎士団に行って、仕事して、帰って、寝て、食べ物は適当に買ったパンを齧って……
そんな生活を続けていれば見窄らしくもなる。
そんなボニファーツィオと娘が偶然再開した時に告げられた言葉だ。
それから、娘はボニファーツィオを立ち直らせた。
ちょっと鼻につくプライドの高いボニファーツィオは彼女にだけは勝てないなと苦笑しながら言うことをきく。
時々、リオネットを思い出す。
今でもリオネットを思い出せば胸が痛む。泣きたくもなる。無力感に苛まれる。
リオネットへの想いのように絶対的な愛情を持ったわけではない。
それでも、これも愛なのだと気がついた。
「ありがとな」
彼女の名を呼びながら礼を告げれば悪戯っ子のように笑いつつボニファーツィオを受け入れる。
リオネットに似てるとなぜ思ったか今では信じられない。
彼女はリオネットではないし、リオネットに代わりは居ない。
同じように彼女も唯一だった。
卒業後、リオネットは公爵家の領地と王都で2回結婚式を行った。
領地での式は身内のみの無礼講だったが、王都での式は荘かなものになった。
王位継承権を持つバルトレオの婚姻は平民にも知らされる程だった。
祝いに大量の花が道にもまかれた。
赤、白、ピンクの薔薇が惜しげも無く街を埋め尽くす。
新郎からの新婦への贈り物との事。
愛されている新婦は幸せだな、なんてあちらこちらで囁かれた。
つい先日プロポーズを済ませた平民の男は複雑そうにその様子を眺めた。
「どうしたの??」
婚約者となった娘に問われて男は首を横に振った。
「なんでもない。俺には関係のない、手の届かない話だなって思っただけさ」
後悔はあれど、不幸という程ではない。
ただ、9年も苦しめてしまった大事な人を思うと胸が痛む。
けれど、幸せなのだろうと予想はつく。
だから、もう『関係のない』自分は関われないのだ。
「そういえばさ、新婦さんは自分がウェディングドレスのデザインしたらしいよ。めーーーっちゃくちゃお洒落で、似合ってるんだって!お貴族様はすごいよね」
「……そうか、それはきっと」
目を輝かせていたんだろうな、眩しいほどに
続けるはずの言葉は飲み込んだ。
もう手を伸ばせない、願ってはいけない。
それに……
「どうしたの??」
「いや、お前もドレス着たいか?」
「んーん、いらない」
にかっと笑う彼女に苦笑して、それでも今が幸せだと思えた。
遠く青い空の下、新婦の兄は静観した。
『いつでも壊せる』その幸せをいつ奪うか、奪わないか。
リネ次第だな。と静かに呟いた。
その幸せが続いたかは不明だが、リオネットは生涯慈しまれ、愛され、幸せに過ごした。
書類仕事も出来る優秀さに加え、自身でデザインしたドレスで夜会にも度々参加した公爵夫人は、貴族夫人達の憧れになった。
流行は彼女のための言葉とさえ言われるほどだった。
一番の衝撃は妊娠時のドレスだった。
目立つお腹を隠すことなく刺繍で芽吹きを表現した布を使った革新的なドレスは同じ妊婦に大人気になった。
産後も流行の最先端に居続けた彼女は老いてもその座を明け渡すことはなかった。
それは彼女の夫がいつまでも尽きない愛を与え続けたからだと後に公爵夫人は語った。
「リネ、君は幸せ?」
「勿論よ」
「僕にとっては君が幸せならこれ以上ないほどの喜びだよ」
「ふふ、大袈裟ね」
五人の子供に囲まれた夫婦はいつまでも新婚夫婦のようだった。
これにて完結とさせていただきます。
読んで下さりありがとうございました!




