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アレスディオ・トロヴェージは田舎の領主であるトロヴェージ侯爵の嫡男である。
侯爵の家と言われれば厳しい教育と思われがちだが、アレスディオは緩やかに育てられた。
その教育せいかアレスディオは優しすぎた。
産まれて間もない妹を慈しみ、大事にする姿は癒されるが侯爵家の嫡男には物足りない。
そんなアレスディオを見て妹のリオネットは厳しく育てられた。
自分のせいで強いられる望まない婚約をリオネットは受け入れていた。
貴族令嬢ならば政略結婚は当然だ。そう告げる両親はアレスディオには無理強いしない。
無理強いされたリオネットは悲しげに微笑むだけで否定はしなかった。
両親だってリオネットが嫌いな訳では無い。愛してはいるのだ。
ただ、女性の幸せは結婚にある、そして、貴族ならば家の為に嫁ぐべきだ。と思い込んでいるだけで……
婚約が決まってからのリオネットは見るに堪えなかった。
愛しい妹の笑顔が減ったのに、両親はなぜこの婚姻にリオネットの幸せがあると思えるのだろうか。
苛立ちと共に歯がゆかった。
次期当主くらいでは力が足りない。
リオネットの婚約を見直させるには……
頭の中で計算して、決意する。
優しく優柔不断なために整わない婚約。そういう『ふり』はもう終わりだな。と
自分よりも高位貴族と婚約して両親よりも高い位置に行く必要があるな。と……
妹が産まれたのはアレスディオが3歳の頃だった。
隠しているがアレスディオは天才だった。大人の会話を理解できたし、中途半端な領地経営にため息が出そうだった。
なんでも出来るのは目立つとも理解していた。
だから『優秀』程度に見えるよう生きていこうと思っていた。
そんなアレスディオは世界がつまらないと思うようになっていた。
なんて事ない、全てが簡単で飽きてしまったのだ。
色付くという言葉はこういうことかと思ったのは妹の存在を認識した時だった。
あうぅ、と小さな手を伸ばした妹を見て『自然と』笑みが浮かんだ。
その日からリオネットはアレスディオの特別になった。
リオネットはボニファーツィオを苦手としているから両親が婚約という手段に出るとは思っていなかった為にアレスディオは裏から手を回そうと思っていたのに一手遅れた。
自室に1人になった時に悪態をついても取り返しはつかない。
だから『高位貴族の中でもリオネットを愛する素質のあるもの』を選んで『出会わせた』
元々、バルトレオの側近や婚約者を決める集まりはすでに婚約の決まっているリオネットは呼ばれていなかった。
その証拠に始まってすぐの集会にリオネットは参加していない。
アレスディオの匿名での進言でリオネットの他、婚約者のいる娘にも招待状が送られた。
それは嫡男ではなく妹のレオニーにも淑女たるに相応しい友人を選ばせたらどうかというもの。
この頃のカポヴィッラ公爵家ではレオニーに淑女教育を始めようとしていた。
後継教育もしつつとなれば遅れに遅れて、女性らしさがまるでない。
なんならバルトレオのふりをして男装する始末。
婿をとるにも、嫁に行くにも、このままでは良くないと思ったのはバルトレオのお披露目の時だった。
誰もレオニーを女の子として認識していなかったからだ。
漸く焦りを覚えたカポヴィッラ公爵は急ぎ淑女教育に力を入れる。
しかし、何も進展はせず、焦りだけが募った。
そんな折りに届いた一通の手紙。
どうやって紛れ込ませたかは分からないが匿名の手紙の主は同年代の女の子と遊ぶとレオニーにとっていい刺激になるのではないか、と告げていた。
そしてその相手はバルトレオに意識の向かないよう婚約者のいる娘がいいだろうとも書いてあった。
確かに……と、婚約者ありの子達にも招待状を送った。名目としては兄弟の付き添いにした。
表立ってレオニーの友人を探せば公爵家に取り入りたいものや、レオニーの淑女らしからぬ行動を逆手にとる公爵家に反意あるものが集まるのは分かりきっていたからである。
その点、バルトレオの側近候補であり婚約者のいる姉妹達ならば問題はない。
こうして呼ばれたのがリオネットを含む数人の少女達だった。
どうやって出会わさせるか、と思案していたところ、いつの間にかバルトレオとレオニーを自分の懐に入れていたリオネットに笑みが浮かんだ。
さすが俺の妹は天使だな。
などという兄バカ思考で考えを鈍らせることはない。
ここからの動きを考える。
その一手としてバルトレオに囁いた。
「リネを任せるにたる男になりたいなら手伝おう」
優しいとされ優柔不断と言われるアレスディオの言葉と思えなかったのかバルトレオは口を閉ざした。
「別に君でなくともいいんだよ、俺はね。あのクソ野郎からリネを救い、リネだけを愛する素養があれば候補に入れるよ。だけど君がリネを愛すると言うなら、『リネのお気に入り』という点を考慮して君に決定しよう」
小さく弱いバルトレオはアレスディオの言葉に飛びついた。
「僕が、リネを愛せば……、ううん、違う。リネだけを愛するのは簡単だから、彼女を幸せにする方法を教えて」
口角が上がる。
合格だよ、と告げると計画を告げる。
国内にいれば優秀になったバルトレオに婚約者候補が殺到する。だから国外で『アレスディオの言う通りに』正しく努力をしろ。その指示は絶対だ。安心しろ、お前はいちばん必要な素養がある。リネに愛されるなら相応しくしてやる。
その言葉は誰も期待しない自分を自分でも諦めていたバルトレオに響いた。
アレスディオにとってバルトレオを国一番の実力者にするのは簡単だった。
そもそもバルトレオは血筋がいい。土台が出来てないだけで才能はあった。
そんなバルトレオを育てるのは容易いことだった。
ただし、アレスディオは自分を目立たせたくはない。アレスディオが目立てばリオネットが肩身が狭くなる。あの子はきらきらとした笑みさえ浮かべてくれていればいいのだから……
その一心だったが計算が狂った。
レオニーとの出会いである。
リオネットとは別の意味で彼女はアレスディオの世界を色付かせた。
「アレス様はリネちゃんに教えないんですか?」
愛しい婚約者はアレスディオの性格を知った上で慕ってくれている。
理由を聞いてもはぐらかすだけで、アレスディオも深く聞くことはしなかった。
「教えるとは?」
「兄様を指導した事実ですよ」
「ああ、そのこと?言わないよ。リネは無垢なままいてほしいからね」
「リネちゃんがアレス様の妹でよかったなぁ……」
そう告げるもののレオニーの頬は膨らんでいた。
「またその話?リネは大事な妹で俺の宝物だけど、俺のお姫様はレニーだけだって言っただろう??」
リネちゃんは大好きだけど嫉妬心は別なの!とはレオニーの言葉。
ふっと笑みを浮かべ優しく頭を撫でるとレオニーは嬉しそうにアレスディオに抱きつく。
淑女らしさはないかもしれないが、それでいい。
可愛い婚約者を甘やかすと『指示通り』ボニファーツィオを褒めていた事も、よくやったねと告げる。
「アレス様の指示知らずに兄様が同じこと頼むから鳥肌立っちゃったよ。アレス様の言う通り兄様は頼んできたし、リネちゃんは『レオの力になって』とお願いしてきて、その『対価』……あっ、ちが、対価って言ってもリネちゃんの不利益はなくて!」
「ふふ、知ってるよ。『プレゼント』楽しみにしてるよ」
その言葉にリオネットのお願いを聞く度にアレスディオへのサプライズに協力するという対価が露見していると知ってまた頰を膨らませた。
アレスディオが裏で動いたのは3つだけ。
バルトレオを育てること。
ドメニコーニ伯爵に『偽っていた』鉱石の産出量を『正しく』報告させること。
そして……
ボニファーツィオの友人に『リオネットに似た看板娘のいる酒屋』にボニファーツィオを誘導させること……
ドメニコーニ伯爵は三男であるボニファーツィオの未来を憂いていた。
そこでトロヴェージ侯爵が鉱石を欲していると知り、自領の産出量を誤魔化して、他領から購入したものを渡し、ボニファーツィオの婚約者を得た。
その事実をそのまま両親に伝えても良かったが、それだけならばボニファーツィオを罰せれない。
そもそも未成年であったアレスディオの言葉は聞き入れられない可能性もあった。
優秀程度では足りない。歯噛みもした。リオネットの笑みが減る度に呪った。
だから、バルトレオを完璧に仕上げた。
結果は目論み通り。
唯一の誤算はミレナリ子爵領で鉱脈が見つかったことだが、それは嬉しい誤算だった。
計画が1年前倒しになったのだから。
リオネットが幸せになるなら早い方がいい。
ふんふんと鼻歌を歌う。
『領主の代理』として、アレスディオはリオネットの新たな婚約に大賛成した。
再度言うが両親はリオネットも愛していた。
だからこそ、リオネットが辛かったというのをじわじわと真綿で首を締めるように伝えた。
今のトロヴェージはアレスディオの支配下にある。
両親はやっとリオネットの苦しみを理解したのだ。
そこで伝える。一言でいい。
「リネは父上や母上の為に耐えたのです」
毒は回って、彼らは領主館ではなく別宅で療養している。
生ぬるいと思わないでもないが、リオネットが両親を慕っているのだから仕方がない。
リオネットの心の傷に、表面上枯渇し始めたとしているが実際は格下である伯爵家に騙されていたことは彼らを黙らせるに充分だった。
初めこそ、バルトレオとの婚約に利点がないと言っていたが、公爵家が鉱脈を手に入れたと知り反対する理由も失った。
こうして整った2人の婚約。愚かにもそこで初めて『リオネットの本当の笑顔』をみた両親は反省したのだ。
婚約を正式に認めるのはアレスディオに任された。
自分達に恥じたのだろう。
領主代理になったアレスディオは喜んで婚約を認めた。
青い空の下、アレスディオは色付いた景色を堪能した……
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あと1話で完結予定です




