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レオニーが子爵家に養子として受け入れられたのは、子爵のお家騒動を静めるためだった。

子爵には子が居ない。35歳という年齢で諦めるには早いが彼は妻を愛していた。

妻も28歳で子が望めない訳ではないが、婚姻して8年、彼らは子宝に恵まれなかった。

後継に養子は考えていたが、そんな折、妻が体調を崩した。

医師によれば2.3年療養すれば大丈夫だろう。とのことで、養子を迎えるにしても赤子から育てたいと願う夫婦は体調が戻ってからと考えていた。

しかし、その隙を狙ったのが子爵の弟で、屋敷に入り浸り、自分の息子を時期子爵だと宣うようになった。


そこで相談したのが寄親である公爵家だった。

レオニーは12歳で婚約は決まっており、家にいる必要もないとされて、18歳で婚姻するとして、2から3年は花嫁修業させるとしても、3年は猶予を作れると、期間限定で子爵の養子になった。

レオニーも大歓迎だと喜んでいた。

何故なら、公爵家よりも子爵家の方がのびのびできる上に婚約者の実家に近いのだ。


レオニーの婚約は家格が釣り合うのは勿論で、それ以外にも特産品が被らず、互いの足りないものを補えるという相互関係が築けるのが大きな要因だったが、1番の決めては、ふたりが相思相愛だったのだ。

12歳と15歳。高位貴族としては遅いくらいの婚約だったが、侯爵家嫡男で後継教育もしているアレスディオは優秀ではあるが少々引っ込み思案で、婚約に至らない事が多く、公爵令嬢でありながら自由奔放でお淑やかというのが苦手なレオニーも同じように婚約者が決まらなかった。


二人の出会いはリオネットの誕生日だった。

前日にボニファーツィオが祝いに来たが当日は身内だけでと言い遠慮してもらった。

勿論そのような事はない。

ボニファーツィオを呼びたくなくて家族にはパーティは要らないと言ったが、せめて後日でいいからパーティをと言われ、当日だけ予定のないという摩訶不思議な現象になった。


バルトレオとレオニーが公爵家の人間だと知ったが友人として付き合うようになり、はじめてのイベントがリオネットの誕生日だった。


当日は友人だけ招いた小さなお茶会を開くことになった。学園の休みだったこともありアレスディオも参加する事になった。


このお茶会がレオニーとアレスディオの出会いである。

和やかな雰囲気で引っ込み思案なアレスディオに天真爛漫なレオニーが手を引いて散歩する。そんな出来事にリオネットが優しい微笑みを浮かべ、リオネットの笑顔にバルトレオが愛しいという感情を含ませた視線を送る。

穏やかな時間がリオネットの心を癒す中、アレスディオとレオニーは純愛を育んだ。


バルトレオの留学が決まった後もリオネットとアレスディオとの交流は続いた。

交流があるのが高位貴族としりレオニーの両親は婚約を視野に入れ始めていたもののアレスディオの評判はいいものではなかった。

次期当主としては優しく引っ込み思案というのは大きな問題だった。


そんな両親が考えを改めたのは実際の2人を見てからだった。

引っ込み思案ではあるが、譲れないものには意見を言う。優しいが愚かではない。

そんなアレスディオにレオニーは心開き、今までどんなに告げてもやりたがらなかった淑女教育だったはずなのに、アレスディオに渡したいと刺繍をしていた。

目が出そうなほど驚いた両親は婚約の打診を侯爵家にした。


一方アレスディオの性格上、婚約者探しが難航していたところ、格上の家からの婚約打診に目を白黒させた。


数回の茶会のあと、2人からの強い要望で婚約は整った。


レオニーはリオネットが大好きだ。アレスディオも同じくらい大好きだ。

だから『兄に頼まれた』通りリオネットと仲良くしつつアレスディオとも仲良くなった。

頼まれずとも仲良くするつもりではあったが……


レオニーが淑女らしくないのはバルトレオのせいでもある。

正確に言うならばカポヴィッラ公爵家のせいだ。

バルトレオが弱く『跡取りとして使えない』とされたのは2歳になる前だった。

レオニーは男のように育てられ、『跡取り』として教育されるはずだった。

弟が生まれ、元気な様子に両親は『レオニーか弟』どちらかを選ぶことになる。

結果、親が選んだのは保留だった。

バルトレオの後継教育が遅れる度に弟とレオニーの後継教育は進められた。

本来なら次男である弟だけにすればいい後継教育をレオニーもすることになったのは、弟に『レオ』という名が入っていないからだった。

バルトレオではないが、レオニーもこの風習は馬鹿馬鹿しいと思っていた。

しかしこの風習のおかげで淑女教育は免除されていた。

笑顔での茶会の嫌味合戦や、刺繍や、お淑やかな仕草はレオニーには苦痛だった。

だから文句も言わず後継教育を受けた。

それに対し不満は無いが、バルトレオに対しては不満があった。

レオニーがレオと呼ばれる度に仄暗い視線を向けてくるのに努力をしない。

苛立っていたと言ってもいい。


だからちょっとした意趣返しのつもりだった。

バルトレオとレオニーはよく似ていた。

親ですら間違うことのあるくらいだった。

だからバルトレオが気に入った子に挨拶した。バルトレオのふりをして。


「こんにちは」


にこりと笑みを浮かべ近づく。少女はきょとりとこちらを見て問いた。


「あなたは『だれ?』」


驚いた。バルトレオと間違わなかった事にそしてその後に続いた言葉にも。


「男の子の服は好きで着ているの?似合ってるね。名前聞いてもいいかな?私はリオネットだよ」


女と見抜いた上で男の姿をしたレオニーを褒めたのだ。

驚きと共に感じたのは喜びだった。

この子となら楽しく過ごせる。そう思えば本当の笑みが浮かんだ。


「私はレオニー!レオって呼んで」


またきょとりとしたリオネットは少し困ったように微笑んだ。


「あなたもレオって言うんだね。だけどごめんね。私にとってのレオはいつも一緒にいてくれるレオだけなんだ。だから、レーちゃんって呼んで良いかな??」


頷く前に兄が姿を表した。ぼぅっとした様子に多少の違和感を覚えて声をかける。


「バル、なにしてんの??」


この頃のレオニーはバルトレオのことをバルと呼んでいた。本当のレオはレオニーだと言っていた両親も同様だった。

罪悪感などなかった。兄は努力をしなかったから当然だと思っていたから。


「あ、ごめん……僕」


声をかけたレオニーに気が付かないはずはないのに兄の目にはリオネットしか映されていなかった。

苛立ったのはつかの間、兄の目に恐怖の色が見えたからだった。

疑問に思うまもなくリオネットが安心していいよと言うように言葉を紡いだ。


「レオ、おはよう!」


ただの挨拶だ。そのはずなのにバルトレオは耐えれないというように絞り出した声が溢れていた。


「リオネット、僕と結婚して……僕はリオネットがいい。ううん違う、リオネットじゃなきゃ嫌だ」


切実な声色にレオニーが困惑した。


「そ、そんなの勝手に決めたら……」


この集まりを兄は分かっているのだろうか。レオニーはバルトレオの暴走を止めないとという気持ちがこの時はあった。

身体が弱く、妹弟が後継になるかもしれない立場であったとしても、バルトレオは王位継承権をもつ公爵家の嫡男だ。

この集まりはバルトレオのためのもので、婚約者だって慎重に選ぶ必要がある。


「バル、落ち着けよ」


しかしバルトレオは反応しない。

リオネットしか見えないという様子にリオネットも戸惑っているようだった。

紆余曲折あってふたりは気持ちを確かめあったがリオネットには既に婚約者がいたらしい。

悲恋か……などと思っていたが何にもかもに諦めの瞳をしていた兄が強い決意を秘めた瞳で1歩も引かず両親に交渉した。

どうせ捨てるはずだった息子に両親は大した期待もなく頷いたのはすぐにわかった。

それは少し前のレオニーなら同じ気持ちになっていただろう。


リオネットにプロポーズした後のバルトレオの泣き顔にレオニーは初めて長男の苦しみを垣間見た気がした。

身体が弱いのはバルトレオのせいではない。

弟妹に追い越される苦しみは追い越す側は分かるはずがないのだと、初めて気がついた。


兄は初めから諦めたのではない。どうしようもなかったのだ。


仕方ないな。と、レオニーはバルトレオの味方になることにした。

ただ、『レオ』の名を簡単に渡すのは癪だったから、レオニーだけはレオと呼ばない。

兄様と呼べば少し眉を顰めるのは彼も気がついているからだ。

私達は双子であり、ライバルだった。


リオネットの誕生日に大好きな親友に渡すプレゼントを手に茶会に参加した。

リオネットが大好きなもの同士という意味でもライバルだった。


この日までは……


読んで下さりありがとうございます

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