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いきなり愛を告げられリオネットは困惑に眉を顰めた。
今更と思うと同時に、ならばなぜと声を上げたくなった。
ひとつ息を吐いて抑えた声を出せたことは自分を褒めたかった。
「もう、遅いですわ。……本当に辛かったのです。貴方の隣に戻りたいとは思えませんの。申し訳ございません」
そんな……と声がする。絶望したような声色に少々腹立たしい気持ちが込み上げる。
ぐっと抑えて笑みを浮かべた。
「今まで、ありがとうございました。きっとドメニコーニ伯爵令息様との婚約がなければレオやレーちゃんと仲良くなることはございませんでした。裏の心などなく、その点につきましては感謝しかないのです……しかし、感謝と好意は別物にございます。ドメニコーニ伯爵令息様、私の事はどうか捨ておいて下さいませ。そして貴方の道に進めるよう『元』婚約者としてお祈り申し上げます」
リオネットにもう何も届かないのだと理解したボニファーツィオは何も言わず帰っていった。
リオネットにとってもボニファーツィオの告白は意外なものであったし、彼も自分と一緒で意に沿わない婚約をしていたと思っていたから喜ばれると思いすらしていた。
婚約が無くなればボニファーツィオは大変だとも理解はしていた。何せ彼にはつぐ爵位がない。
婿入りするにしても15になれば売れ残りだ。いい縁談は皆無といっていいだろう。
だが、ボニファーツィオの態度から何かしらあるから強気なのだと思っていた。
「なんだったのかしら……」
婚約してからの5年。耐えてきた9年。
なんだったのだろうと思うと共に泣きたくなった。
あの日バルトレオと会えなければ、バルトレオと会ったからレオニーと友となれなければ、きっと壊れていたのだ。リオネットにとってそれほどまでに辛かったのに……
今更、愛など、信じられない、否、信じたくないと泣きたかった。
けれど、あそこまで消沈したボニファーツィオに胸は痛む。
ただしそれは可哀想だと思っただけだ。
彼は愛を伝える術を知らなかったのだと思えば『同情』はできた。
それだけだった。
「リネちゃん、大丈夫?」
慌てて駆けつけたバルトレオと隣にいたレオニーが心配そうに顔を覗き込む。
ふっと笑えばふたりの顔にも安堵の色が見えた。
「大丈夫よ、ありがとう」
そう、もう大丈夫。『私は』大丈夫。
そう告げればバルトレオが不機嫌さを誤魔化すことなく言葉にした。
「リネが気にする事はないよ。あいつはもう『元』婚約者で関係はないんだからさ」
同情を見抜いたように告げるバルトレオが嫉妬を隠さない様子に笑みが浮かぶ。
「そうね……私が気にしなくてはならないのは『前』ではなく、『これから』ね」
くすくすと笑いながらの言葉にもバルトレオは満足したように頷いた。
騎士としても次期公爵としても立派に働いている彼が幼く可愛らしく見える。
そしてそれは私に向けた愛情だと知れば嬉しくもなる。
「でもね、1度だけ祈らせて。ボニファーツィオ様にも幸運が訪れますように、と」
むっとした表情ながら、1度だけだよ、と告げる彼が愛おしい。
ふわりと揺れる髪飾り。紫の飾りがきらりと光った。それはバルトレオの瞳のようで彼の色を纏える喜びを噛み締める。
「ええ、1度だけ。その後は、レオとのこれからを祈るわ。私もレオも幸せになれますようにってね」
「僕は祈るのではなく誓うよ。君を……リネを幸せにするって。僕はリネさえいれば幸せだから」
微笑みあって私達は学園へと歩みを続けた。
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