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バルトレオ目線です
双子。そう僕は双子として生まれてきた。
今でこそ似ていない兄妹のふたりは10歳まではよく似ていて、似ているのに少しずつ優れているのは妹の方だった。
勉強ができるのも、背も少し高く、剣術も、レオニーの方が優れていた。
実はレオニーとバルトレオはどちらが先に生まれたか分からない。
嵐の日に生まれたふたりは月足らずで十分な準備が出来てない中で生まれた。
引退して久しい産婆が来てくれたが、如何せん年をめしていて、どっちの子が先に取り上げたかわからなくなっていて、手伝ったメイドは若すぎた為に無事に産まれただけでいっぱいいっぱいになってた。
そういう訳で月足らずで生まれた小さすぎる双子は『同じように』名をつけられた。
レオナルドという初代が起点となり長子にはレオという名を取り入れるようになっていた。
幼い頃からふたりとも『レオ』と呼ばれることになった。
何をするのも比べられ、2つ下の弟にも追い越されそうになり、家での立場は低くなっていった。
『本当のレオ』はレオニーだ。などと両親の言葉に傷ついた。
当主となるものは皆レオと呼ばれていた。馬鹿馬鹿しい風習だと言えるほどの精神が育っておらず、バルトレオは影で泣いていた。
そんな時だ、リオネットと会ったのは。
バルトレオよりも少しだけ背の高い彼女はチビだとバカにせず、こっちでお話しましょう。とバルトレオを受け入れてくれた。
泣いていたのはリオネットの方なのに、バルトレオを思いやり、可愛いレースのハンカチで涙目だったバルトレオの目元を拭った。
「可愛いハンカチだね」
照れ隠しにそう告げると花が綻ぶように笑みを浮かべた。
今日のハンカチは私が選んだの。地味にしなくちゃいけない私の唯一のオシャレだったの。
そんな言葉と共に見えたのは苦痛の表情だった。
褒めただけであんなに可愛い笑みを浮かべれる人なのに、こんなに綺麗な子なのに。
そう思うと胸が締め付けられた。
お互いの悲しみを共有して一緒に頑張らないか。
そう告げたのは『次に会う約束』をしたかったからだ。
一般的にリオネットは平凡に分類されるだろう。だけども笑みを浮かべた彼女は可愛いし、涙をうかべる彼女は守りたいと思わせた。
バルトレオは小柄で体が弱く、そのせいで勉強も遅れがちで公爵家時期後継者としては適切ではないということから弟にも後継教育をしているのは知っていたし、後継者になれなくてもいいとバルトレオも思っていた。
それでも『レオ』と呼ばれる妹が羨ましかった。何度となく泣いて、諦めようとして、諦めきれなくて。
とうとう耐えきれなくて逃げ込んだ場所にいた天使に恋をした。
「あなた名前は?私はリオネットだよ」
その時にふと思ってしまった。誰になんと言われてもいいけれど、この子にはレオと呼んで欲しい。そんな思いからぼそりと呟いた。
「レオ」
「レオくん?いい名前だね。あなたによく似合ってる!」
その言葉と共に笑みを零してくれる。照れくさくて嬉しくて曖昧に笑うと彼女も笑みを深めた。
子供達の集まる集会は月に2回あった。10歳から始まったその集まりは王位継承権のある公爵家嫡男の婚約者と側近が決まるまで続く予定だった。
その主人公であるバルトレオは重荷にしか思って居なかった。
伯爵以上の子息が募られたその場に留まるのは辛く、隙を見つけては隠れていた。
その特等席にいた天使はすでに婚約者が内定していると聞いて肩を落とした。
彼女は兄の付き添いだったらしい。
それでも月に2回密かに会うのが数ヶ月続いたある日だった。
レオニーが秘密の場所に居た。リオネットと笑みを浮かべながら。
背筋が冷えて体が震えた。
やっぱり選ばれるのは妹の方だ。
そんな思いで体が強ばった。
それがリオネットの言葉で解放された。
『あなたもレオって言うんだね。だけどごめんね。私にとってのレオはいつも一緒にいてくれるレオだけなんだ。だから、レーちゃんって呼んで良いかな??』
顔をあげるとリオネットの表情が見えた。嘘をついてるとは思えず嬉しくて体が震えた。
落ちた。と言うのはこういう事だろう。リオネットだけでいい。リオネットが居れば何もいらない。
レオニーの笑う声が遠く聞こえた。遠く聞こえたのはリオネットしかもう見えないからだ。ふらふらと近寄るとこちらに気がついたふたりがこちらを認識した。
「あ、ごめん……僕」
「レオ、おはよう!」
話の邪魔をしたことを謝ろうとしたらリオネットは笑顔で挨拶をくれた。
レオと呼んで。
もう無理だった。想いが溢れた。
「リオネット、僕と結婚して……僕はリオネットがいい。ううん違う、リオネットじゃなきゃ嫌だ」
近くにいたレオニーが何かを言っているけどもうリオネットしか見えなかった。
「あ……私は」
視線がバルトレオから背けられリオネットは困ったように俯いた。
ぐっと唇を噛み締めた。リオネットを困らせたい訳じゃない、ただそばに居たいのだ。
「ごめんね、びっくりさせたよね。忘れていいよ」
「レオ?」
「僕、少しあっちにいるから」
遠くでまたレオニーが何かを告げた。振り向けなかったのは、ただリオネットに拒否された事が辛くて泣いてるとは知られたくなかったからだ。
幾度となく一緒に泣いたのに、泣き顔など見せてきたじゃないか。そう思っても今だけは見て欲しくなかった。
「わ、私も!私も……一緒がいい。でも……」
ぴたりと足が止まる。涙目で振り向くと同じように泣きそうなリオネットがいた。
「一緒がいい、よ?だけど……私は、侯爵家の娘だから……」
本当に辛いんだという表情で耐えるリオネットを見たら何も言えなくなった。
数日後、親から婚約者を決めると言われバルトレオは猶予が欲しいと願い出た。
リオネットの事が諦められない。それは無駄になるかもしれない。それでも願わずには居られなかった。
次の集まりで密かに泣いているリオネットが小さく呟いた。『もう、むり……たすけて……』と。
時折婚約者と折り合いが悪いとは聞いていた。それでも侯爵家の令嬢だからとリオネットは耐えていた。
そんなリオネットは地味にするよう言われ、お気に入りのブローチなどを壊され、ボニファーツィオの用意したドレスを着るよう強要されてとうとう我慢の限界が来たようだった。
「僕、迎えに行く。リオネットが泣かなくて良いように頑張る。だから……僕と一緒にいて欲しい。いつか、誰にも祝福されなくても良いから、結婚しよ?」
リオネットはだめだよと言いつつも泣きそうに縋りそうな瞳でこちらを見つめた。
「強くなるから。リオネットを諦めないでいいって言って?お願いだよ……僕にもチャンスをちょうだい??」
「っ……わ、私は、可愛くもないし、婚約者もいるし、泣き虫だし、お友達もいないの。それでも、いいの?」
「リオネットじゃなきゃ嫌だ」
泣きながら抱きついてきたリオネットの柔らかい茶色い髪を撫でる。
「頑張るから、リオネットだけを想って絶対に頑張るからね」
「レオ……ありがとう。あの、リネって呼んで欲しい。その、す、好きな人には愛称で呼んでもらいたいの。そういう書物を読んでて憧れてて……」
あまりの可愛らしい姿に笑みが浮かんだ。
「大好きだよ、リネ」
「私もレオのこと大好きよ」
この日、後継者としての勉強もするし、それ以上の見識も広げる。剣術だって頑張る。だから自分で決めた人を婚約者にしたいと告げた。
それからは忙しく辛いと言う暇もなかった。実際辛くはなかった。
だってこれはリオネットと一緒にいる為に必要なことだから。そう思えば耐えられた。
海外に来てから勉学も剣術も人一倍頑張った。
リオネットに恥じない男になりたい。体の弱い出来損ないではなく、リオネットを守れる男になりたい。
想いは力をくれた。
3年で学べることを尽く吸収したバルトレオは押しも押されぬ公爵家の後継者に決まった。
ここで問題になったのは婚約者だった。バルトレオの望む娘は家柄こそ釣り合ってはいるが既に婚約者がおり、更にはその家との縁は既にできていた。
侯爵嫡男であるアレスディオと長女であり現在は子爵家にいるが近々家に戻るレオニーの婚約は数年前に整っている。
筆頭公爵家であるカポヴィッラ家にはこれ以上の後ろ盾は要らないからバルトレオがやる気を出してくれるならばある程度家格が釣り合わなくてもいいと思ってはいたが、婚約者のいる相手となると難しい。
略奪と言われては流石に外聞が悪い。
隣国の皇女からの釣書すら興味を持たないバルトレオに白旗をあげたのは両親の方だった。
『彼女の婚約をどうにか出来れば認めよう』
実質無理だろうと思っていた。それは諦めさせる為の言葉でもあった。
猶予も決めた。流石に学園在学中には婚約して欲しいから、2学年に進学するまで、と。
難しい顔で俯きかけたバルトレオだったが渋々頷いた。
『時間が無いから手伝え』
レオニーにそう告げたのは入学してすぐのことだった。
些細な餌をまいた。
例えば、テストの発表の日にボニファーツィオの近くに立つ。それだけでバルトレオを讃える生徒の声はボニファーツィオの耳に届く。
剣術の実技をわざとボニファーツィオのグループの隣で『指導する』と嫉妬の瞳が射抜くようだった。
そんな些細な餌に食いついたのはリオネットと目があった瞬間に微笑んでしまった後だった。
それからはより一層ボニファーツィオを監視した。
リオネットの隣に立つ権利のあるボニファーツィオが気に入らないのもあったが、それ以上にリオネットが心配だった。
心配を他所にボニファーツィオはバルトレオの策略にまんまと嵌った。
ボニファーツィオがバルトレオに劣等感からか、よく睨んでくるようになった。
そこでレオニーと仲良く歩くようにした。
ふたりで笑みを浮かべ歩くだけでボニファーツィオだけでなく色んな生徒が『婚約者候補』と騒ぎ立てた。
実の兄妹で有り得ないだろうと思うが、多くの生徒はその事実を知らない。
それゆえに有効な手段だと踏んでいた。
餌に食いついたのはすぐだった。堪え性のない男だ。と、呆れを通り越して拍子抜けした。
リオネットがいながら……と、殺意も目覚めかけた。
レオニーがひとりで食堂にいた時に、ボニファーツィオが声をかけた。
麗しいと噂されるだけあってボニファーツィオは注目を浴びていた。
レオニーも黙ってさえいれば美少女だ。
そんなふたりが共を連れずに食事をすればあっという間に噂は広がった。
バルトレオがボニファーツィオの劣等感を刺激し、レオニーが慰める。
その図式が完成した頃、夏休みが訪れた。
もう少し時間がかかるかもな、と思っていたバルトレオの心中とは裏腹に事態は好転する。
ミレナリ子爵領で鉱脈が見つかったが、子爵では管理しきれないということで寄親である公爵家が買取り管理し、鉱員は子爵領から雇入れ経済を回すようにした。
このことによりトロヴェージ侯爵家が必要としている鉱石が手に入った。
同時期にドメニコーニ伯爵領の鉱山の鉱脈が枯渇傾向にあることが判明した。
しかし、採掘した鉱石の30%を納める事が婚約の条件だったため、完全に採れなくなるまで婚約解消は難しい状況だった。
そこで考えたのがボニファーツィオの浮気による婚約破棄だった。
実際にレオニーに手を出させるつもりはない。
いくらリオネットのためと言えど妹を傷物にするつもりはないし、さすがの良心が咎める。いちばんの理由はリオネットに嫌われたら生きていけないからだ。
リオネットにレオニーを売ったと言えば絶対に怒られる。
だから、実質的な浮気では無く、精神的な浮気をさせようと画策した。
ボニファーツィオの目は雄弁だ。欲の孕んだ視線はリオネットを捉えていた。
ぎりりと奥歯を噛み締める。
そんな目で『僕のリネ』を見るな!そう怒鳴りたくなっても何とか我慢できたのはリオネットに一切手を出していないからだった。
理由は知らないし、知りたくもないが、好都合でもあった。
口付けすらしていない婚約なら解消も比較的受け入れられる。
略奪だと言われようとも気にしないが……
レオニーとの逢い引きという名のバルトレオへの嫌がらせ(実際はバルトレオの思惑通り)も続いていたが決定的なものは何一つなかった。
そんな一進一退を繰り返しの中、ボニファーツィオは自ら罪を犯した。
15歳から酒は解禁とされているが、大体の貴族は学園卒業後の18歳から飲むことが多い。
伯爵令息であるボニファーツィオもそうだろうと思っていたら、驚いた事に平民の酒屋に変装した下位貴族の令息たちと共に訪れたらしい。
雇った情報屋からの連絡に大いに驚いた。
驚いたのは酒を飲んだ事でも平民の通う酒屋にいた事でもない。
ボニファーツィオがそこの看板娘と一夜を明かしたと報告を受けたからだった。
その報告をリオネットにするとリオネットは小さく息を吐いて、良かった……と呟いた。
何が?と聞くと、婚約解消出来そうなことと、レオニーにもう無理させずに済むこと、そして……
一度言葉を区切ってリオネットはバルトレオにはにかみながら伝えた。
そして、レオの隣に立てるから。そう告げた。
リオネットはボニファーツィオ様もこれで安心するわね。と零したがそれはないだろう。
彼女はあの男がリオネットとの婚約を嫌々続けていると思っているが、あの男のリオネットを見る目は強い執着心と欲を孕んでいた。
恐らく恋心が拗れたのだろうが、それを伝えるつもりはない。
しかし馬鹿な男だ。あの看板娘とやらの雰囲気は多少リオネットに似ているようにも思えるが酒の席での失敗でこの先を捨てるのだから。
だが、あの男にとって継ぐ爵位が無くなることよりも……その後に続く言葉をバルトレオは無意識にシャットダウンした。
胸糞悪いと思えば同情もできない。
リオネットを……自分の愛している唯一を苦しめてきたのだから。
リオネットからトロヴェージ侯爵夫妻に伝わり、それはドメニコーニ伯爵にも届いた。
鉱石の採掘量が減り、息子の不貞も加わった今、伯爵にこの婚約を維持させる事は出来なかった。
今同意すればこれまで鉱石を融通してくれた礼も込めて、違約金なしの解消で済ませると言われれば頷くしか出来なかった。
『婚約解消前から決まっていた次の婚約』はすぐに組まれた。
これでリオネットの隣に立てるのだと思えば笑みも溢れた。
読んで下さりありがとうございます




