Ep.9 /ドタバタ!?四人の交錯へ
「―――お待たせしました〜!ジェノベーゼパスタとコーヒー、パンケーキとキャラメルフラッペになりまーす!」
明るくよく通る声と共に、木製のトレイを持った店員がテーブルに鮮やかな料理を並べていく。
お洒落なカップから立ち上るコーヒーの芳しい香りと、甘く香ばしいキャラメルの匂いがふわりと鼻腔をくすぐった。
運ばれてきたジェノベーゼの鮮やかな緑と、山盛りのパンケーキの甘いビジュアルに、悠楓はわずかに目を丸くする。
「……!ん〜〜〜っ………!」
「美味いか?」
「ん!」
目の前にそびえ立つ、ふわふわのパンケーキとたっぷりのメープルシロップ。
そして一口食べた瞬間に口いっぱいに広がる濃厚な甘さに、悠楓は思わず両手でほっぺたを押さえたまま、言葉にならない奇声を漏らした。
「なら良かった」
「やっぱり来て良かったな。彩蕗にちょ〜っとだけ感謝しねぇと」
向かいの席で、そんな悠楓の様子を呆れたような、しかし底抜けに優しい眼差しで見つめていた幸羽が、クスリと小さく笑って声をかける。
ナイフをパンケーキに差し入れて悠楓はそう呟いた。
「彩蕗さんが教えてくれたのだな。また行きつけのカフェが増えそうだ」
「そうだな」
まさかその後、その張本人が現れるとも知らずに幸羽も悠楓も食べ進めていく。
悠楓はその甘みに溶けそうな程感動しながら、幸羽は悠楓の不器用な笑顔を見ながら、パスタをフォークで包み込む。
甘いメープルシロップの香りと、穏やかな午後の時間にすっかり毒気を抜かれていた二人の耳に、突如として店内の空気を切り裂くような、どこか聞き覚えのある、やけにハイテンションな声が飛び込んできた。
「あれれぇ〜?そこにいるのって、もしかしておとうとくんと幸羽くん〜!?」
「げっ……この声は……」
思わず二人で申し合わせたように女にしては低すぎるその声の主の方へと視線を向ければ、そこには周囲の客たちの視線を一身に集める、ひときわ華やかでフリルとリボン、そして後ろに高く結ばれたツインテールの揺れる姿があった。
ピンクガーリック系の甘い色彩の服を見事着こなし、自分が一番お姫様とでも言いたげな自信満々な彼―――赤城彩蕗を目に入れた瞬間、悠楓は深くため息を吐いた。
「彩蕗、そろそろお姉さんの所行くんじゃなかったの〜って……幸羽と篠宮?さっきぶり〜」
「灯鈴もいるじゃねぇか……」
フリルとリボンを身に纏い、どう見ても世の男性陣を狂わせる超絶美少女オーラを放つ彩蕗。
そして、その隣に明るく笑う、かっこいいズボンスタイルのストリートファッションの灯鈴が追いついた。
「灯鈴、彩蕗と知り合いだったのか?」
「うん!私の母さん、芸能人だったから彩蕗のお姉さんと仲良くて、そこから知り合って……」
灯鈴は楽しそうに両手を軽く叩きながら、快活に笑ってみせる。
その芸能界を渡ってきた母を持つ彼女らしい、自然で華やかな交友関係の広さに、幸羽はなるほどと小さく頷いた。
「今ではたまに遊ぶ仲になったんだよ〜!SQUADHのモデルユニットのメンバーに私を選んでくれたし!」
さらに続ける灯鈴の言葉に、悠楓はフリルの下で堂々としている彩蕗を一瞥してから、呆れたようにため息をこぼす。
「そうだったのか」
「てか、彩蕗は篠宮と知り合いなの?」
灯鈴がふと気になったように彩蕗へと視線を向けた。
彩蕗がなぜ悠楓の家や姉のことを知っているのか。
幸羽は柴原家に入り浸っているから知ってはいるものの、他人からすれば他校の、それも他学年の二人が交わう事等そうそうあり得ないことだ。
「まぁ、おとうとくんのお姉ちゃんの和袴と僕が中学からの知り合いだからね〜」
「へぇ〜」
灯鈴の元気な問いかけに、彩蕗はふふんと得意げに胸を張る。
「っと、今日はお姉ちゃんの所に急がないと……。……」
空中に端末を起動させて電子時計を表示させる。
時刻は十六時を回っていた。
彩蕗は慌ててスカートを翻しながら、端末を落とす。
しかし、何かイタズラを企んでいるのか、悠楓に視線を向けてからその場でピタリ、と動かなくなってしまった。
「……んだよ」
「ねぇ、二人も一緒に来ない?」
わずかに目を細め、怪しむような視線を向ける悠楓。
彩蕗のその含みを持たせた笑顔には、これまでの経験上、十中八九ロクでもない企みが隠されている。
「はぁ?」
「彩蕗さんのお姉さんの所に、ですか?」
幸羽が彩蕗に聞き返すも、本能的な危機感を覚えた悠楓が、スッとフォークを置いて距離を取ろうとした瞬間、彩蕗はひらりと身を翻し、有無を言わさずトドメの一撃を放った。
「うん!この間のモデルユニットの話をしたくてさ〜!今日は和袴も人事部にいるはずだから、案内してあげるよ!」
「……」
心底嫌そうに顔や眉を歪めて彩蕗に向ける。
しかし、彼はそんな悠楓の表情もお構いなしにパチン、とウィンクを決めてみせたのだった―――……。




