表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/24

旅立ちの見習い魔術師 ◇閉じた記憶

やがてメザルはゆっくりと目を開いた。


「小言はこれで終いだ。 だが、今回の戦術は、塔のやり方としては前例のないものだった。エイラの羽根による攻撃に、ロディスの《《星の光》》を重ねる合わせ技。

 ……私の采配さいはいもあったとはいえ、見事だった」


 エイラは思わず顔を上げる。

 メザルはにこやかに微笑んでいた。


「まとめておけ。他の活用法も提案してみろ。それが宿題だ」


「はい、師匠」


 師匠たちが席を立ち、部屋をあとにする。

 残された三人は、しばらく無言で立ち尽くしていたが――


「……ぷっ」


 シルが堪えきれずに吹き出した。


 ロディスが、わざとらしく目を丸くして振り返る。

 次の瞬間、エイラもつられて笑う。


 三人はとうとう、声を立てて笑いこけた。


 張りつめていた空気が、風に払われるようにほどけていく。

 胸の奥に、温かく言葉にならないものが満ちていた。


 ――もう、お互いがかけがえのない存在なのだと。

 三人とも、確かに実感していた。


 やがて笑いの余韻の中で、シルが息を整えて言った。

「エイラが助けたあの子……治療院のミュゼルが直々に診てくれて、順調に回復してるよ。……やっぱりちょっと心配」


 ロディスが眉をひそめる。

「……イフェルのことか?」


 シルはうなずいた。


「うん。あれだけ執着されてたんだもん。ネメラ――防壁の師匠も、念には念をって防壁を編んでくれてる」


 エイラの肩が、わずかにこわばった。

 


 そして、あの子が追われた理由を思い出す。

 額に輝いていた、あの白い星。


「……もし、ナアラの星のために狙われたのだとしたら」


 ロディスがハッとしたようにこちらを向く。

 エイラはゆっくりと言葉を継いだ。


「それなら、同じ星を持つあなたは――大丈夫なの?」


 ロディスは答えられず、視線を落とした。

 無意識に、額へと手をやる。


「一応、メザルには目立つなっていわれてる」


 そこには、子供と同じ――ナアラの白い星。


 けれど、その瞬間。

 脳裏に、かすかなざわめきが走った。


 暗くて、あたたかい、どこか見覚えのある風景。

 魔力の波紋のように重なりあう声。

 月と星に照らされた円卓。


 七人の魔女。

 そして――黒銀の梟。


『――あなたは、いずれ白い大梟の娘と出会う』


 誰の声だったのか、思い出せない。


「ロディス?」

 シルが不安そうに覗き込む。


 彼はゆっくりと顔を上げた。

「……少し、話さなきゃいけないことがある」


 エイラとシルが静かに顔を見合わせ、うなずく。

「いいよ。話して」


 ロディスは唇を結び、そして語り始めた。

「子供のころ……僕は、神隠しにあったことがあるんだ」


 沈黙が、空気の温度を変えた。


 ロディスは言葉を探し、選び、一つずつ思い出すように語った。


 塔に来る前は、両親と兄と暮らしていたこと。

 いつのまにか星をもらい、あわいにいたこと。

 その場所で、七人の魔女のような者たちと暮らしていたこと。


「全部覚えているわけじゃない。すべてが夢だったような気もする。

 でも、本当にあったことだと思う」


 ふいに視線を上げ、エイラを見つめる。

「ただ、一つだけ……君に、どうしても確かめたいことがあるんだ」


 エイラは無意識に息を止めた。

「君は……黒い梟を抱いた、小さな女の子に、心当たりはある?」


 ――その瞬間。


 胸の奥で、何かが軋んだ。

 知らないはずなのに。懐かしさが痛い。


 幼い少女の泣き顔。

 小さな手の温もり。

 やまない咳。泣き腫らした両親の目。


 黒銀の羽根の感触。


 そして、誰かの声。

『……あの子は、どこへ行ったの?』


 ヨナ。

 ねえ、ヨナ……


 わたしは……なにを……

 ぐらりと、世界が傾く。


 エイラは膝をついた。

 忘れていたはずの痛みが、名を呼ぶと同時に押し寄せる。


「……ヨナ……」

 つぶやいた声に、シルが駆け寄った。


「エイラ!? 大丈夫?」


 視界が滲み、誰の顔も輪郭を失っていく。


 けれど――崩れかけた記憶は、またそっと閉じられていった。

 静かに、しずかに。


 ****

 ――まだだ。


 まだ触れてはならない。


 塔の最奥。


 守人の部屋で、イラヤがそっと窓を開けた。


「まだだ……そなたらはまだ未熟で、弱い」


 夜空に浮かぶ星を見上げながら、彼女は目を閉じる。


 塔の夜は、深く静かに更けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ