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旅立ちの見習い魔術師 ◇メザルのお小言

ロディスは大急ぎで、オークの木の根元に駆け寄った。


 子供も白大梟も、呼吸はある。

 だが梟の大きな翼は傷ついていた。


 羽根の一部は出血で黒ずみ、ところどころには焦げ跡すら残っている。

 戦いの激しさを思い、ロディスの胸が締め付けられた。


 それでも――その体は子供を守るように大きく広げられていた。

 命を賭す覚悟をきめたように。


 柔らかな羽毛に覆われた小さな頭を、そっと撫でる。

 温かい。

 目をしっかり閉じて動かないが、それでも、温かい。


 涙がにじみそうになった。

「……生きてる」


 押し寄せた安堵に、大きく息をつく。

 ぶるぶると震える羽根を、祈るようにもう一度そっと撫でた。


 少しでも苦しみがやわらぐように願いながら。

「もういいんだ。君は、護りきったんだよ」


 追いついたシルが両手を広げる。

 たちまち菩提樹の枝と黄色い房が広がり、暗い森に緑の下草が絨毯のように広がった。


 ロディスは梟をそっと胸に抱き上げた。

 温もりを逃がさぬように。


 震える命を、いとおしいと思った。

 失いかけた命を、確かめたかった。


 抱きしめた体はかすかに震えている。

 そのやわらかな命の匂いがする羽毛に、彼は顔をうずめた。


 ――ちゃんと目が覚めるだろうか。


「疲れて眠っているけど、大丈夫だね」

 シルは子供の状態を調べていた。


 ロディスは左腕にしっかりと大梟を抱え、空いた右手を子供の額にかざす。

 かすかに白い光が宿っている。


 星同士は呼び合い、共鳴する。

「――その子には、ナアラの星があるだろう」


「本当だ。でもずいぶん薄いね」

 シルはロディスの星と光を見比べた。


「魔力量に比例するんだ」


 風もないのに、木々がざわめく。

 いつの間にかイラヤが立っていた。


「あのイフェル……やきもち焼きは、まだあきらめないかもしれない。どこの子か調べ、両親とこれからの話をせねばならん。分別が付くまで塔で守るか、イフェルの手に届かぬ場所に置くか――」


 ――イフェルの手に届かない場所。


 その言葉に、ロディスは既視感を覚えた。

 イラヤを見た。


 その瞳の奥を見た。

 イラヤも無言で、その瞳の奥底まで見通すようにロディスをじっと見返していた。


 心臓の奥が、不意に脈打つ。

 忘れられたはずの記憶の断片が、呼び寄せられていく。


 ◇


 円卓。


 七人の魔女。


 旅人の行きつくところ。


 ナアラの星を与えられた日。


 手をつないで戻った小屋の夕べ。


 かすかに花の香りがする風の中で、黒髪の幼女がこちらを見て笑っていた。

 エイラによく似ていた。


 だが、彼女ではない。

 その子は黒銀の梟を抱きしめながら言った。


『――あなたは、きっと出会う。白大梟の娘に。それは私の片割れ。

 私たちは、一つで全きとなる』


 ◇


 肩をゆする手に、はっと我に返る。


「ちょっと、もふりすぎ」

 シルが羨ましそうに口をとがらせ、梟を抱きしめるロディスの背をつんつんとつつく。


 ついでに、手を伸ばして梟の羽根をひと撫でした。

 ――くるる。


 梟がのどで甘く鳴いて、シルとロディスは思わず顔を見合わせた。



 ****

 午後の光が差す塔の一室。


 普段は会議室として使われる円卓の前に、三人の弟子が並んで立っていた。

 その向かいには、塔の三人の賢人――メザル、イラヤ、そしてアリュッタが席に着いている。


「まず、勝手に飛び出すとは、どういうことだ。 指示もない、報告もない。塔の名を背負う者としての振る舞いも身についておらん。 ましてや実践経験が不足している状態で、塔外での活動を容認するわけにはいかん」


 メザルの低く静かな声が部屋に響く。

 ロディスもエイラも視線を落としたまま、何も言えなかった。


「……と、メザルが言っているけどね」


 アリュッタが指をくるりと回して笑う。


「連絡手段だけは確保しろ。責任を負える立場になるまでは、指示は当然必要だ。

 特に当事者や身内は冷静さを欠く。肝に銘じておくがいいよ。ただ――誰かを守りたくて体が先に動いたんなら、その青臭さ。私はむしろ好きだね」


 シルが思わず吹き出しかけ、隣のロディスに肘でつつかれて黙る。

 メザルは一度目を閉じ、つぶやくように言った。


「塔の決まりは、縛るものではない。守るものだ。……ひとつ、申し置く。 

 塔は、見習いであろうと魔術師であろうと――誰ひとり、失うつもりはない」


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