第30節「正しく間違える事と俺の知らない世界(2)」
俺は自由の使途、ル。人呼んで、「ル氏」。
当然のように俺は喫茶「天」。
必然のように目の前にゴーさん
「ホットコーヒー、アイスで。」
なんじゃそりゃ?また給仕さんを困らせる注文?
「違います。猫舌用のホットコーヒーです。」
ゴーさんのテーブルに運ばれてきたマグカップ湯気の立つホットコーヒー。なんか半分ぐらいしか入ってない。
そこに給仕さんが大きめのロックアイスを とぷん♪ と浮かべた。
コーヒーの雫が飛び、俺のシャツに香りをつけてくれた。
黒のシャツだからシミに心配はしない。
この香りが残る間は給仕さんの笑顔を鮮明に思い出せる。
…でもこのコーヒー淹れたのはジブさんだよね。
…嫌なことを想像してしまった。
こういう時はあれを頼もう。
暑い時はこういうのもいいと思うよ。メモを書きにっこり笑顔をした給仕さんが戻ってきたとき、俺はゴーさんに勝利した。
…気がした。
「コーヒーフロートですか。その手がありましたか。次からはチョコアイスコーヒーフロートを頼むことにしましょう。プレーンで」
どこがプレーン化さっぱり分からん。
「間違っても良いのです。むしろ、正しく間違えた方が良いのですよ。」
涼しい顔でゴーさんは語りだす。
突然何?。
「間違える事は、意外と難しいんです。選ばなかった未来は存在しない。」
「選んで致命的じゃなかった場合は全部正解と考えた方が都合がいいのです。」
「そして、迷いは、選ばない選択を選択した結果です。迷いを選んでるのですよ。」
あ、そうだね。俺は迷わない。迷いかけたら、全部する。もしくはやらない。
ゴーさんが俺のコーヒーフロートを羨ましそうに見てる。
…さっきに境地は何処に行ったんだ?
さて。日も暮れるからバイトに行こう。
街のアスファルトは、バイトへ向かう俺の心を蜃気楼のように消していく。
ヘルシーマートの人気店員「サ」たんの出番だ。
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鈴です。「ル」のアニキは「面倒くさいって」よくいうけど、おいらは結構マメなつもり。
一歩遅かったのかな。「ル」のアニキはバイトに行ってしまったらしい。
まあ、いいや。喫茶「天」は冷房が効いてるから良いよね。
普通にいろいろちゃんとする。これが一番難しい。
普段はテキトーでも問題ない。
ゴミの日を一回スルーする。
風呂キャンする。
今日は、自分にご褒美。
全部大した事ない。問題ないはず。
だけど積み重なると、大変なことになる。
めんどうだし、今度でいいか。
…なんだこれは!
今度はずっと来ないのだ。
それでも、
「いつやるの?」と問われれば
「後でしょ!」
と元気よく答える。
ね。オイラマメだよね。
さて、やることはいっぱいあるけど、今日は休みだし、「大工正書」でも読んじゃおう。
大工正書の序文
「建築とはideal」※ideal=理想的な
築世録:七日の工法
はじめに、棟梁は荒野に立ちて言えり。「ここに家あれ」。かくして、測量なき地に「定礎」が成れり。
第一の日。 棟梁は光と闇を分け、日の当たる処に柱を、影の差す処に奥の間を定めり。夕べがあり、朝があった。第一の日である。
第二の日。 棟梁は「大いなる梁」を渡し、上の露と下の湿りを分けられたり。重力は沈黙し、巨木は羽のごとく空に舞いて、礎の上に組み合わさぬ。
第三の日。 棟梁は言えり。「地の下にある水は一所に集まり、乾いた土が現れよ」。かくして床は固まり、壁には漆喰が芽生え、屋根には瓦の鱗が重なれり。
第四の日。 棟梁は二つの窓を造り、一つを日の出に、一つを月夜に向けられたり。これにより、家の中に「時」が流れ、季節の巡りが刻まれぬ。
第五の日。 棟梁は言えり。「家の中に風の通り道を、壁の内に水の脈を造らん」。かくして、配管は血管のごとく巡り、戸口は呼吸を始めたり。
第六の日。 棟梁は自らの像に似せて、居室と寝所を整えられたり。彼はこれを見て、良しとされた。夕べがあり、朝があった。第六の日である。
第七の日。 かくして家と、そのすべての調度は完成せり。棟梁は第七の日にその業を終え、この日を祝して「引渡」とされたり。
難しくてよくわからない。
読んでるオイラはインテリだね。
給仕さんが来たのでオイラはスマイルを頼んだ。
「スライムですね。ちょっとお時間をいただきますが宜しいでしょうか。」
…はい。
「よく冷えたあれは私も好きなんですよ。」
…間違ってるけど、何が出てくるのかな?オイラちょっと楽しみだよ。営業用スライム。
第30節「正しく間違える事と俺の知らない世界(2)」ここまで




