『想い出』と記憶
「ひさしぶり、巽くん。君がいなくてさみしかったよ。話し相手がいなくて暇だったんだ」
巽くんと連れ立って歩きながら、僕は嬉々として彼に話しかける。道行く人々に奇異の視線を向けられたが、途中すれ違った銀髪の車椅子の男性は、一人で喋り続けている僕には見向きもしなかった。
巽くんは僕の話に時折相槌を打つばかりで、彼からは何も話さなかった。
「ところで、どこへ向かっているの?」
僕は道もわからないから、ただ巽くんの後をついていっているだけだ。
「きみの大好きな場所だよ。もうすぐ着くさ。
……あ、ほら見えた」
巽くんは言いながら前方を指差す。指先を辿って見ると、遠くの方に海が見えた。
「海だ!」
毎日病室の窓から見ていた海が、間近に見える。僕は嬉しくなって走り出した。
「美希、あまり無理するんじゃないよ」
「だいじょうぶだよ!」
彼と笑い合いながら、海岸に到着した。スニーカーと靴下を脱いで、海に浸かる。ひんやり冷たい海水が、走って火照った僕の足元を優しく冷やしてくれる。
瞬間、脳裏にある光景がよぎった。
巽くんと僕が手を繋いで海へ入っていく様子だった。
それをきっかけとして、堰を切ったようにとめどなく記憶が溢れ出た。『僕と巽くんの想い出』が、リアルな映像として蘇る。あまりの衝撃に目が眩み、僕は思わず膝をついた。
「美希?」
「巽くん……じゃない。…………たつ、だよね」
その一言で、たつは全てを察したようだった。
「美希、思い出したのか!」
「うん……思い出したよ、たつ。君がなぜ死んだのか、僕がなぜ記憶を喪ったのか、全部思い出した」
僕はひとつひとつ丁寧に記憶を手繰り寄せて、穏やかに微笑んで言う。
「僕らは心中したんだったよね」




