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『想い出』と家族

あれから2週間、僕は退院した。

巽くんにはあれ以来会っていない。


病院を去るとき、看護師が総出で見送ってくれた。その中に、僕を担当してくれた江木先生の姿がなかった。

「江木先生はどうしたんですか?」

いつも江木先生と共に僕の元を訪れていた看護師に尋ねてみた。すると看護師は、若干言いよどんで、こう言った。

「江木先生は……亡くなられました。休暇中に、事件に巻き込まれたようで……」

「ちょっと、言っちゃダメよ」

他の看護師に窘められていた。

隣の病室の多岐尊少年といい、江木藤次郎医師といい、志摩巽くんといい、僕に多少の縁がある者はみな亡くなってしまった。一体僕は何なのだろう……



病院を出ると、母と弟が僕を待っていた。僕に家族の記憶はないけれど、全部巽くんが教えてくれた。できるだけ家族という関係を意識して接する。

僕の姿を見るなり、母は涙を流した。嗚咽に混じってよく聞き取れなかったけど、多分おめでとうとか、良かったとか、そういったことを言っていたのだと思う。

弟は顰めっ面をして、僕を見下ろしていた。何か言おうとしていたけど、結局何も言わなかった。

「帰りましょう、美希」

母に腕を掴まれ、手を引かれる。僕は咄嗟にそれを振り払った。僕には彼との約束がある。訝しげな顔をした母に、理由を説明した。

「僕には巽くんがいるから大丈夫だよ。母さんと里希は先に帰ってて」

その言葉を聞くなり、弟里希は激昂した。肩を強く掴まれて、揺さぶられる。

「いい加減にしろよ兄貴!あんな男、もういいだろ!あいつのせいで兄貴は……!」

誰も巽くんのことなんて知らなかった筈なのに、里希は巽くんを知っているようだった。なぜ?嘘をついていたのだろうか。

「里希!やめなさい!」

「母さんは黙ってろよ!」

目の前で親子喧嘩が始まってしまった。どうしたらいいのかとあたふたしていると、突然巽くんが現れた。

「巽くん!」

巽くんは片手を挙げてそれに応える。

「ひさしぶり、美希。元気してたか?退院おめでとう」

僕は堪らなく嬉しくなって、思わず巽くんの元へ駆け寄った。

背後では、里希が喧しく騒いでいた。僕を心配してくれるのは嬉しいのだが、家族の記憶がない僕にとっては、彼らは他人に過ぎないのだ。

僕は一度だけ振り返って、笑って手を振った。


里希は最後まで泣かなかった。

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