『想い出』と冷たい君
次の日、巽くんは窓際で黄昏ていた。
声をかけると、巽くんはいつもとは違い、悲しそうな顔で振り返った。
巽くんは、病室の窓を開けてくれと、僕に手振りで示した。ベッドから降りて、言われた通り窓を開ける。巽くんは身を乗り出して、窓の外に見えるマンションを指差した。そして、なんの前置きもなく、滔々と語り出した。
「大学も同じとこに行って、俺たちは同居を始めたんだ。親にはルームシェアだと誤魔化して、二人で共同生活を始めたんだ。あそこに白くて高いマンション見えるだろ。あれが俺たちの家だったんだ。もちろん、部屋からはきみの好きな海が見えるマンションさ。
それから毎日夢のような生活だった。大好きなきみと、毎日同じ釜の飯を食べて、一緒に風呂入って、一緒の布団で寝て。とんでもなく幸せだった」
巽くんは泣きそうな顔で、思い出を語る。僕と彼の関係性も、だんだんと明らかになってきた。
でも、どうして?
僕は堪らず問いかけた。
「ねえ、僕たちには何が起きたの?
僕らは愛しあっていたんだろ。だったらどうしてきみは死んだんだよ?幸せだった毎日が、どうして崩れたんだよ?」
僕は彼の頬に触れようと、手を伸ばす。それほど愛し合っていたはずなら、なぜ今僕たちはこんなになってしまったんだろう。
伸ばした手は、巽くんの体を通り抜けて、空を掴むだけだった。
巽くんは眉尻を下げて、困ったように笑った。
「俺の口から話せるのはここまでだ、美希。あとは自分の目で確かめて、自分のちからで思い出そう。
退院できるようになったら、一緒に帰ろう」
巽くんは右手を僕の頬に添えた。
「それまで、しばらくお別れだ」
そして、唇を合わせた。目が合うと、僕が何か言う前に、巽くんはにこりと微笑んでそのまま姿を消してしまった。
彼の暖かさを感じられないことが、何よりも哀しかった。




