第7話 『第6小隊』の顔合わせ④
「では後の進行はリーダーにお任せしますねー」
「いきなり丸投げ……わかりましたよ」
空いていた席に腰掛けてお茶を啜り始めた楠さんから視線を外して、改めてついに揃ったユニットメンバーたちを見渡す。
気品ある清楚系お姉さんの氷室シラユキ。
声量バグな元気っ娘の日南ピナ。
自称ダウナー系今時ギャルの夜桜ミュウ。
超人見知りでツッコミ気質の冥堂リュウガ。
実にバラエティに富んだ面々だ。俺の手でまとめ上げられるのか、不安に思ってしまうほどに。
……いや、別にまとめ上げる必要もないか。確かにユニットを組むことにはなるが、常に一緒に活動するわけでもない。
ユニットとして動く時に指針をまとめて、普段は年長者としてメンバーが困った時に支えるぐらいの距離感がちょうどいい。
であれば最初に確認しておくべきは、各々の活動におけるスタンスだろう。
「それぞれどういう人間か、っていうのはさっきまでの雑談で十分わかったと思う。だから次は、今の時点での活動方針とかを聞いておこうかな」
「活動方針、って……デビューしたら何をしたいかとか、そういう話?」
「そうだな。例えば俺ならFPSやアクションゲーをメインに、色んなゲームを幅広くやっていきたいと思う。ゲームの腕にはそれなり……かなり自信があるから、難しいゲームだと尚いいな」
「「おぉ~」」
確固たる自負と共に言い放てば、シラユキとピナが小さく歓声を上げた。少し気分がいい。
ミュウも感心したような表情で、
「さっすがたいちょー。苦手なゲームとかないの?」
「大体のゲームは人並み以上にこなせる自信があるが……ホラーは絶対やらない。初配信でもしっかり周知しておく、ホラゲーは絶対やらない」
「怖いのそんなダメなん? もったいなー、怖がりのホラゲーって傍から見てる分にはめっちゃ面白いのに」
「みーちゃん、苦手なことを無理強いするのはよくないですよ」
「はぁい」
残念そうなミュウを優しく窘めるシラユキの言葉に、ふと引っ掛かるものがあった。
……苦手なこと、か。チラリと視線を向けるのは、超が付くほどの人見知りなのに勇気を振り絞ってVtuberとなり、この場にやってきたリュウガだ。
隊長としては、隊員だけに頑張らせるわけにもいかないか……。
「……と、言いたいところだが」
「お?」
「勇気あるリュウガ隊員を見習って、俺もいずれホラゲーにチャレンジしようと思う……!」
「うぇっ、おれっ!? ……まぁ、いいと思うよ」
「あまり無理はなさらないでくださいね」
「すごいですっ!! 応援しますねっ!!」
「ひゅーかっくいー。どしても怖かったら呼んでよね、横で茶々入れてあげるからさ」
「あったけぇなこいつら……」
思わず目頭が熱くなった。
年長者としてとかなんとか思っていたが、逆に支えられていては世話ないな……。
気を取り直して、次のメンバーに移ろう。
「それじゃあ次は、シラユキかな」
「わたくしは沢山の人とお話がしたくてVtuberになったので、雑談配信などを主軸にするつもりです。質問箱も活用したいですし、趣味のお料理やお菓子作りも生かしたいです」
「ゆきちゃんすごい……! わたしも食べてみたいです!!」
「えぇ、機会があれば是非♪」
「ゆきぴはゲームとかしないの?」
「ゲームはあまりやったことがなくて……せっかくですから、簡単なものから挑戦してみたいですね」
「あー、なんかイメージ通りかも。たいちょーなんか難易度低めのゲーム教えてあげてよ」
「そうだな。あとで見繕っておくよ」
「お、おれも! ……おれも、その、結構ゲーム好きだから……おすすめできるのがある、と思う……」
「お二人とも、ありがとうございます!」
ゲーム初心者が配信でやるのなら、操作がシンプルなタイプのものを前提として……パズルゲームやシミュレーション系か。Mycraftみたいなサンドボックス系も相性がよさそうだな。
「次はミュウだな」
「ウチは歌! 楽器! リズムゲー!」
「音楽系に自信アリか」
「自慢だけどウチめっちゃ歌上手いよ? 楽器もギターにベース、ドラムもやれるし。リズム感抜群です」
「自画自賛がすげぇ……でも実際すげぇ。絶対音感、とか持ってたり……?」
「もち。もっと褒め称えろ~? てかゆきぴとぴなちもウチと一緒に歌やろうよ。きれー系とかわいー系で、ウチがかっこいー系担当すればバランスもばっちりだし! 男どももコーラスぐらいならさせてあげるよ」
「歌ってみる動画ですか? 確かに、せっかくVtuberになったんですし、やってみたいですね! みーちゃんほど自信はありませんが、精一杯努めさせていただきます」
「うぅ、わたし歌はあんまり得意じゃなくて……。でも、わたしもリュウガさんみたいに、苦手を克服できるように頑張りたいです!!」
「ウチが教えるし、てか今度カラオケ行かん?」
「……隊長。おれもしかして、これからずっと引き合いに出されんの? 恥ずかしさで死にそうなんだけど……」
「いい影響を与えてるんだから胸を張っていいと思うぞ」
我が同期はとても多才なギャルだったらしい。意外……というほどでもないか。
しかし、歌と言われると妹を思い出してしまうな。あいつもかなり歌が上手いし……いつか二人のデュエットとか聞けたりしないだろうか。
「ピナはどうだ?」
「わたしはリスナーの皆さんや他のライバーの皆さんと、おしゃべりやゲームでわいわい楽しく盛り上がりたいです!! それと物語を見るのが好きなので、RPGゲームとかもやってみたいです!! 悲しいお話は悲しくなっちゃうので、ハッピーエンドの楽しいお話がいいです……」
「ぴなちは可愛いねぇ。ゲーマーどもは、ウチらの最年少がご所望の楽しくてハッピーエンドなRPGを紹介してやりな!」
「いや、まぁ、いいけどさぁ……最初にハッピーエンドって条件出されると、ネタバレにならないか……?」
「最近のゲームは、ハッピーエンドでも厳しい展開が続く作品も多いからな……」
「……いえ!! わたしも憧れのVtuberになれたからには! リュウガさんを見習って挑戦していきたいです!! 大泣きしちゃうようなバッドエンドをください!!」
「ねぇこれもう煽られてるよね? おれ最年少から煽られてるよね!?」
「落ち着いてくださいリュウガさん、ぴーちゃんはリュウガさんの姿勢にとても胸打たれているんですよ。ぴーちゃん、おしゃべりでもゲームでも是非わたくしも呼んでくださいね?」
「ウチもウチもー。ぴなちのためならいつでも駆けつけちゃうからね」
「ゆきちゃん、みーちゃん……!!」
「隊長……」
「何も言うな、リュウガ」
仲よきことは美しきかな。でもよければ俺たちも呼んでくれると嬉し……リスナーから処されるかもしれんなこれは。
とりあえず、有名どころはリュウガに任せて、俺はピナの世代から少し外れた作品を探しておくか。ついでに、あと数人で協力してプレイできるゲームも。
「最後はリュウガだな」
「お、おれか。……まぁ、基本的に隊長と同じ感じで……FPSが得意だから、大会とか出てみたいな、って……思い、マス」
「いい目標じゃないか。何でそんな自信なさげなんだ」
「だっておれ、隊長みたいに自信満々で、強いって言えないし……隊長、EIPEXのランクマやってる? 最高ランクどこまで行った……?」
「……一応マスター以上には」
「くぅっ……! おれはダイヤⅡが最高……!」
「前のシーズンってことはまだ中学生の頃の話だろ。十分すぎるほどに凄いと思うが」
「でもこの流れで”FPS得意”って言っても二番煎じみたいじゃん……! しかも隊長より下! どうしてこんな凄い人と同じユニットなんだ……!!」
そう言って机に突っ伏してしまうリュウガ。
「お二人は何の話をなさっているのでしょう……?」
「EIPEXっていう銃で撃ち合うゲームで、それのランクの話ね。勝てば勝つほどランクが上がっていくんだけど……お、あった。これ見てみ、たいちょーが言ってたマスターは上位0.2~1%だって」
「わぁ……隊長さんってすごい人だったんですね……!!」
ゲームの腕で持ち上げられるのも居心地が悪いが……俺の場合、それのおかげでオーディションを通過できた面も間違いなくある。
まぁ、FPSのランク上げは運や費やせる時間の多寡が大きく影響するし、それだけでゲームの腕が測れるもんでもないだろう。
あまり気にするな、と言おうとした直後、リュウガがバッと顔を上げて俺を見つめてきた。
……迫力ある造形の仮面で凝視されると、妙な威圧感があるな。
「決めたぞ……おれの活動の目標、それは”隊長に勝つこと”だ!!」
「俺に……?」
「FPSで、いやそれ以外でも! 格ゲーでもレーシングでも、絶対に隊長に勝つ!!」
「大会に出るんじゃなかったのか?」
「大会には出たい! けどその前に、あんたに勝たなきゃおれは進めないんだ……っ! 胸を張ってゲーム強者を名乗るためにも!!」
俺のことは気にせず好きに名乗ればいい、と思わなくもないが……。
それが彼にとってのモチベーションになるのならいいことだし、俺自身年下の同僚にライバル視されて、正直悪い気はしない。
ならば、俺もそれに相応しい振る舞いをするとしよう。
「挑戦はいつでも受け付けてやるよ。だが……そう簡単に勝てると思うなよ」
「……っ! 望むところだ!!」
俺とリュウガの間に、しばし火花が散るような沈黙が落ちる。
仮面越しにも伝わる真剣な雰囲気に対して、俺も軽く口角を上げて応じた。
「青春って感じがしていいですね! わたしも熱に当てられそうです……!!」
「男の方同士の意地の張り合い、というものでしょうか。いい雰囲気ですね」
「張り合いってか、がっくんが一方的に突っかかってるだけだけどねー。ま、やる気出す分にはいんじゃない?」
――こうして、『第6小隊』初の顔合わせ兼ミーティングは、和やかな笑いと共に幕を下ろしたのだった。




