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Vtuberになったら妹が別箱の同期だった。  作者: 霧國


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第10話 同期仲を深めよう①

「ではこちら、車のキーです。安全運転でお願いしますねー」

「ありがとうございます」


 にこやかに微笑む楠さんからキーを受け取って、事務所の駐車場に置かれた社用車の方へと向かう。

 建物から出た瞬間、ぎゃーぎゃーと騒がしい声が聞こえてきて、我知らず頬が緩んだ。


「んじゃ、三本勝負で二本先取ってことでおっけー?」

「わかりましたっ! 負けませんよぉ!!」

「じゃんけんが運ゲーなんかじゃないってことを教えてやるぜ……!」


 何やら三人で本気のじゃんけんを始めた学生組を横目に、彼らの様子を微笑ましげに眺めていたシラユキに話しかける。


「あいつらは何を競ってるんだ?」

「助手席に座る権利を賭けて真剣勝負、らしいですよ? ふふ、可愛らしい争いですよね」

「なるほど……?」


 勝負の目的はわかったが、何故そんなものを競うのかはよくわからんな。

 首を傾げながら「あいこでしょ! あいこでしょ!」とじゃんけんに熱中する三人組に気持ち大きな声で呼びかけた。


「ほら、遊ぶ時間減るからはよ乗り込め。助手席はリュウガな」

「うぇー? たいちょーってばえこひいきー?」

「待ってください隊長さん! あと一回だけ……!!」

「譲られた勝利に意味なんてない、おれは自分の手で頂きの景色を掴み取ってみせる……!」


 頂きの景色ってただの助手席なんだが、そんなに価値があるものなのか……?

 というかリュウガのやつ、もしかしなくても気付いてないな?


「贔屓とかじゃなくて……男2と女3だから、助手席に座らなきゃリュウガが女子2人とリアシートに詰め込まれることになるが。それでいいのか?」

「ぇっ?」


 俺の指摘で初めてそのことに思い至ったのか、リュウガの体がぴしりと硬直した。仮面で見えないが、恐らく顔も青褪めさせていることだろう。

 もはや誰もツッコミすらしないが、まだ仮面付けてるんだな。今日は結構身体を動かす予定だが大丈夫だろうか。


「絶対に……絶対に負けるわけにはいかねぇ……!!」

「えー、がっくんってばわざと負けて合法的にウチらとくっつこうとしてない? わるだなー」

「あらあら、わたくしは構いませんよ」

「んぇっ、なっ、ち、ちがっ……!」


 ここぞとばかりにイジるミュウと、ほんわかした雰囲気のままナチュラルに追い詰めてくるシラユキに、動揺の極みに達するリュウガ。ピナはよくわかっていないようだが、まだまだ闘志は冷めやらぬ様子だ。

 ……このままじゃ一生話が進まんな。いつまでも駐車場で騒いでいるわけにもいかないし、実力行使に出させてもらおうか。


「戦いたいなら後にしろー。ほら乗れ乗れ」

「ちょ、ごめ、わかったから押すなって……!」


 先に助手席のドアを開き、慌てるリュウガの背中を押してそこに押し込んだ。次に後部座席のドアを開いて女性陣を手招きする。


「席順はご自由に」

「でしたらわたくしが真ん中に行きますね」

「んふふ、それじゃゆきぴには両手に花を堪能してもらおうかな~。ね、ぴなち」

「よくわかりませんけど、ゆきちゃんにくっつけばいいんですね! それなら大得意です!」

「あらあら、なんて可愛らしいお花でしょう」


 相変わらず仲いいな……最初の顔合わせの後も何度か三人で集まったりVCで話していたらしいが、女性陣の打ち解ける速度には脱帽だ。


 ともあれようやく全員が車内に乗り込み、出発の準備が整った。

 足早に運転席に乗り込み、全員がシートベルトを装着したことを確認してから、慎重に車を発進させる。

 乗ったことのない車種の上に、今日は同乗者が4人も居るのだ。慎重過ぎるぐらいがちょうどいいだろう。


「運転ありがとうございます、隊長さん。わたくしも免許を持っていなくて……いつか取ろうとは思っているのですが」

「気にしないでくれ、こういうのは適材適所だ」


 申し訳なさそうなシラユキに殊更軽い調子で返せば、彼女の腕を抱き込んでいたミュウが横から口を挟んできた。


「ねーねーたいちょー。今度からウチらが事務所行く時は車で迎えに来てよ」

「……まぁ、俺も事務所に用がある時に道中で拾って行くぐらいならいいが」

「えっ、まじ? 半分じょーだんだったんだけど……よかったねゆきぴ、がっくん、ぴなち……はママに送ってもらってるんだっけ」

「はいっ! なのでわたしはお気遣いなくですっ!」

「お、おれは正直助かる、かも……。一人で事務所行くの、なんか心細いし……」

「わたくしもですか? ご迷惑ではないでしょうか……」


 会社から交通費はもらえているわけだし、他の面子は素直に公共交通機関を使用した方がお得なはずだが……言うだけ野暮だな。


「予定が合えば、の話だけどな。家族の送迎でアシになるのは慣れてるし、必要な時は遠慮なく言ってくれていいよ。あと、俺が使える車は軽自動車だから全員は無理な」


 免許を返納した父方の祖父母から車を譲り受けたことで、現在我が家は自動車を2台所有している。

 元からあった1台を親父が仕事で使用し、もう1台を俺が使わせてもらっているというわけだ。


 同期たちの朗らかな笑い声をBGMにハンドルを動かす中で、ふと何か物足りないような気分に襲われた。

 信号待ちの時間でその原因を探っていると、シラユキが傍らの少女に気遣わしげな声をかけていた。


「ぴーちゃん、先程から口数が少ないようですが、大丈夫ですか?」

「それウチも気になってた! ぴなち車酔いとかしてない? だいじょぶ?」


 丁寧な運転を心掛けていたが足りなかったか、と内心申し訳なく思いつつバックミラーを見ると、ピナはぶんぶんと首を横に振って、


「ぜんっぜんだいじょうぶです!! 昨日は早めに寝ましたし朝ご飯もたくさん食べました! 車酔いもありませんっ! これからの時間をたっぷり楽しめるように、おくちチャックで体力を温存してたんですっ!!」

「おー、温存してたぶん声もでっかくなっちゃって……これはウチらも覚悟決めなきゃかな。ね、たいちょー」


 悪戯っぽく笑うミュウに、俺も苦笑しながら頷いた。


「湿布の準備は万端だ。俺としては、リュウガの方が心配だな」

「お、おれか? まぁ、確かに運動はあんまり、得意じゃないけど……」

「リュウガさん、ご安心ください。この中で一番体力がないのは、わたくしだという自信がありますので!」


 胸を張って自慢げに言うことではないと思うが……シラユキなりの、場を和ませるための冗談なのかもしれない。

 以前聞いた話では、子供時代は体が弱くて運動と無縁の生活を送っていたらしいが、その頃のことは彼女の中でとっくに割り切れているようだ。


「なにも体を動かす遊びしかないわけじゃない。同期の親睦を深めるための集まりなんだ、無理はせず、楽しむことを最優先に考えよう」

「……ありがとうございます、隊長さん。ふふ、なんだか学校の先生みたいですね」

「あー……説教臭かったか」

「いえいえ、わたくしも気が楽になりました。皆さんも、疲れたと思ったらすぐに仰ってくださいね?」

「「「はーい!」」はい……」


 シラユキの穏やかな呼びかけに答える三人組の声に、思わず笑みが漏れる。


「まったく、どっちが学校の先生みたいなんだか」

「いや……これ学校の先生って言うか、その……」

「がっくんストップ! 今はまだ勿体ないよ、それを言うのはデビューしてから、配信でリスナーのみんなに!」

「わ、わかった……! いやそれも大分邪悪じゃないか……?」


 何やら高校生組が二人だけでわかり合っている。リュウガは少し引き気味だが。

 俺が深掘りしようとする機先を制するように、ニコニコ笑顔のミュウが元気よく手を挙げて


「はーい、せんせー。ウチはカラオケも行きたいでーす! みんなで歌いたーい!」

「わたしはでっかいボールのバレーやりたいですっ!! あ、あとトランポリンみたいなやつと、あとローラースケートとかも!!」

「じゃ、じゃあおれは、今やってるアニメコラボのグッズ、見たいかも……一人じゃ行けなくて、ずっと気になってて!」


「わかったわかった、わかったから狭い車内で騒ぐな運転ミスる……!」

「到着までもう少しかかりそうですし、今の内にどんな順番で回るか話し合っておきましょうね~」


 和気藹々、喧々囂々。

 和やかで賑やかな喧騒に包まれながら、『第6小隊』を乗せた車は目的地のアミューズメント施設に向けて進んでいくのだった。




「学生たちは受付前に学生証用意して……リュウガ、流石に受付の時ぐらいはその仮面外しといた方がいいと思うぞ」

「え゛っ」

「まーウチらはもう慣れちゃったけど、傍から見たらフツーに不審者だもんね」

「ぐ、くぅっ…………その……ふ、フード被ってても、いいですか……」

「……まぁ、不審者度は下がったか」

「不審者なのは変わんなくて草~」


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