ゴールドランクの依頼
こんにちは。
小説家になろうのアクセス解析は、たまに少し変な数字になることがあります。
いくつもの章がPV1になっていたり、ユニークPVが通常のPVとほとんど同じ数になっていたりします。
もし実際に読んでくださっている方がどのくらいいるのか知りたいので、よければ章にリアクションを残していただけると嬉しいです。
ご協力いただけると、とてもありがたいです。
小舟はゆっくりと川を進んでいた。二人はぴったりと寄り添って座っていたが、Kaelianの視線は水面に向けられたままだった。NaeviaはKaelianの腕を少し強く握りしめ、尋ねた。
「……ここ数週間ずっと落ち込んでるけど……理由を聞いてもいいかしら?」
「短い間に色んなことがありすぎたんだ。何かを成し遂げられると思っても、いつも逆の結果になってしまう。初めて誰かに好きになってもらえると思ったのに、結局Kaylaを殺すことになってしまった……本当は、そんなことしたくなかったのに」
「それは……」
「Rubyにも想いを伝えたんだ。同じ気持ちだと言ってくれたのに、二日後にはいなくなってしまった。未だにその本当の理由が分からない……」
彼女の目は限界まで見開かれた。
「あのAmbarianが……す、好きだったの?」
「……うん……」
Naeviaは考える。
(それじゃあ……それって……私が彼の好きな相手じゃなかったってこと……? 彼が私のことを言ってたんだと思った私が馬鹿だったわ)
(でも……RubyはKaelianの命を救ったし、一緒に過ごす時間も長くて、大抵はすごく気が合ってた。それに、あの独特な性格でありながら、Ambarianであるにもかかわらず医学に情熱を注ぐ姿を、彼は尊敬していた。そんな彼女を好きになるのも自然なことだと思うわ)
(あなた……知ってたの? どうして彼女のこと教えてくれなかったの?)
(彼が彼女を好きだなんて知らなかったわ。あなたを手伝うとは言ったけど、Kaelianの頭の中にいるあなた専属のスパイってわけじゃないのよ。Kaelianがもっとあなたに近づくようにできる限りのことはしたし、Kaylaを遠ざけようとさえした。でも、Rubyだけは例外にすることにしたの)
(……どのみち、Kaelianはもう彼女に決めてたみたいね……これ以上頑張っても無駄だわ。私のことなんて絶対に好きになってくれない)
(諦めるのはまだ早いわ。ええ、KaelはRubyが好きだけど……だからといって、あなたのことが好きじゃないとは限らないわ)
(そんなこと……あり得るの?)
(テーブルの上にチェリーのケーキとブラックベリーのケーキが二つあって、一つしか選べない状況を想像してみて。あなたはブラックベリーのケーキを食べることを選ぶかもしれないけど、それはチェリーのケーキが嫌いだからじゃなくて、ただ頭の中の何かが、一方をもう一方より選ぶように導いたってだけなのよ)
Naeviaの瞳孔が広がり、その顔に小さな笑みが浮かぶ。彼女は顔を上げてKaelianの目を見つめ、尋ねた。
「Kael……こうやってあんたの腕にくっついてたら、迷惑?」
「……体のほうはね」
「そ、それってどういう意味?」
「痛くないってこと」
「今まで聞いたことなかったと思うけど、誰かに触れる時ってどんな感じがするの? その、布越しに」
「上手く説明できないけど、人によるんだ。ほとんどの人に触れると、少し痛みを伴う痒みみたいな不快な感覚がある。でも、痛みはなくても不快に感じることもあるんだ」
「どんな風に不快なの?」
彼は右手を上げ、手袋を見つめる。
「巨大なゴキブリの頭を撫でるような感じかな。手袋のおかげでその気持ち悪い感触は伝わってこないけど、それでも気持ち悪いゴキブリを撫でているという事実が頭から消えるわけじゃないんだ」
彼女は目を細め、唇をきゅっと結ぶ。
「私のこと、ゴキブリに例えてるの?……」
「ち、違うよ、ただの例えだ!」
「あんたの例え、どんどん変になってるわね」
「ああ、僕もそう思う」
「ふふっ、でも私、それ好きよ」
二人は微笑み合うが、Naeviaは姿勢を正して視線を落とした。
「……こうして二人きりで、誰にも邪魔されずに話すの、久しぶりね」
「そうだね。Tharnwodeを出てから、世界が広がったってことかな」
「前からあんたに話したかったことがあるの。王国に新しい王女がいることを知ったんだけど、すごく強くて美しいって噂なの」
「……それが? もう王族じゃないんだから関係ないだろ。今の君は自由なんだから」
「分かってる、前の生活が恋しいわけじゃないの。でも……どうしても自分が取って代わられたような気がして、変な気分なの。九歳の女の子に嫉妬してる二十五歳の元王女なんて、情けないわよね?」
「厳密には精神年齢は十九歳だよ。石の中で六年間意識がなかったんだから、その年月は数に入らない」
「あっ、そうね、数に入らないわね。それなら少しは情けなくないかも。……話を聞いてくれてありがとう」
彼はかすかに微笑み、言う。
「いつでも聞くよ」
***
数週間後、Kaelianはローブと手袋を身に着けながら考える。
(ここを出るまであと少しだ。正直に言えば、このまま寝台に横になっていたいし、旅も続けたくないけど、Naeviaと火花が僕の資金集めのためにすごく頑張ってくれたからな)
広間で掲示板の前に立ち、彼は考える。
(あまり時間がないから、早くお金を稼がないと。金ランクの依頼が一つあるけど、受けるのは不安だな。でもこれが最善の選択肢だ。
Meyralynを救出した遺跡に、放浪の錨が現れた。くそっ……よりによって錨だなんて)
それを取ろうと手を伸ばすが、彼より大きな手が先にそれをつかむ。銀ランクの冒険者がその依頼書を取り、仲間たちと共に受付へ向かっていった。Kaelianは拳を握りしめ、考える。
(銀ランクのを受けるしかないな。報酬の高い依頼はどれも遺跡の近くみたいだし、錨の存在が影響してるんだろうな)
Fox Tailのグループは、もう一つの冒険者グループの後ろを歩いていた。彼らは錨と対峙するというのに自信に満ちている。遺跡に到着すると、そのグループは地下へと入っていき、一方でFox Tailは地上に残り、地面から植物や花、根を採取した。
火花は腕を組み、尋ねる。
「どうして植物なんか集めてるの!?」
Naeviaが答える。
「放浪の錨が現れると、周囲のNarysを吸収し始めて、近くの植物に被害を及ぼすのよ。だから早く採取しておかないといけないの」
Kaelianは地面付近から奇妙なNarysを感じ取り、その場所へ歩いていくと、中央に穴の開いた雑草と土の山を見つける。周囲の草や土を取り除いて綺麗にすると、そこにはいくつもの円が刻まれ、中央に穴の開いた石があった。
「これ……Tharnwodeの森で見つけた岩と同じだ」
遺産が言った。
(……封印はつい最近破られたみたいね。放浪の錨はここから出てきたに違いないわ)
「きっと地下通路に入り込んで、魔物たちを喰らってるんだ……」
Naeviaが近づき、Kaelianは彼女に数年前に起きた出来事を話す。
「Ranmara Garmistの仕業だと思う?」
「可能性はある……でも、どうして放浪の錨たちを封印されたまま残していくのかが分からない」
轟音が響き、土が宙を舞う。続いて怪物のような叫び声が聞こえ、地面の中から放浪の錨が二本足で立ち上がる。その生き物はゴリラと昆虫を掛け合わせたような姿で、ざらざらとした皮膚に巨大な頭を持ち、体高は十二メートルほどある。手には一人の冒険者を掴んでいたが、そのまま地面に叩きつけた。
四人の冒険者が地面の穴から這い出し、その脚を攻撃するが、全く効果がない。斧や剣で攻撃し、胴体によじ登ろうとさえするが、錨は容易く彼らを振り払う。その内の一人が攻撃を躱そうと跳躍するが、錨の蹴りが彼を粉砕した。
立っているのはただ一人。彼は恐怖に震え、戦う代わりに隠れようと走り出した。
怪物はKaelianに視線を定め、フレイムの保持者を認識する。しかし、火花がNarysの爪を出して四つん這いで走り出した。怪物は地面に向かって拳を振り下ろすが、彼女はそれを俊敏に躱し、たった一撃でその腕を切り落とす。もう片方の腕へと飛び移り、そこから胴体へと跳躍して巨大な傷口を開くと、そこから黒い液体が流れ出した。肩によじ登って強くしがみつき、鋭い尻尾を作り出すと、それで怪物の首を切り落とす。
「勝った!」
怪物は残った腕で拳を繰り出し、気を取られていた火花を殴り飛ばす。
彼女はなんとか防御するが、数メートル先へと吹き飛ばされる。
「まだ生きてるの!?」
Kaelianが前に出て言う。
「Naevia、後ろに下がってて! 僕がやる!」
「でも……!」
彼は錨へと走り出し、白い炎の球体を作り出す。それを放つと怪物の胴体に直撃し、戦場は黒焦げになった錨の破片に覆われる。だが、死ぬには程遠く、怪物は即座に頭と腕を再生させ、先ほどよりも鋭利な形状と巨大な牙を持つ姿へと変貌した。両手を使って攻撃を仕掛けてくるが、KaelianはNarysのドームでそれを防ぎ、右側へと走り込んで再び白い炎の球体を放つ。しかし怪物は腕でそれを防ぎ、彼を足で踏み潰そうと前進してくる。Kaelianは岩の杭を作り出して怪物の足に突き刺すが、怪物はひるむことなくそのまま彼を踏み潰そうとする。Kaelianは辛うじて堪えていたが、押し潰される寸前で跳躍して踏みつけの範囲から逃れた。しかし、鋭い石の破片が飛んできて彼の脚に突き刺さる。
「あああああっ!」
地面に倒れ込み、痛みに耐えるように歯を食いしばる。腕を上げ、もう一つの白い炎の球体を作り出すが、今度はそれが途切れることのない炎となって放たれる。怪物は身を庇うが、炎は体を完全に貫き、胸に巨大な穴を空けた。
「これで……核をやっていればいいけど」
錨は膝をつくが、両手を地面についたまま再生し、今度は棘を生やして四足歩行の姿勢へと移行する。
Kaelianが次の攻撃を放とうと手を上げるが、火花が跳躍して錨の腕に爪を突き立てた。しかし今回は半分までしか斬れず、攻撃を受けそうになったため、爪を解除して地面へ飛び降りるしかなかった。
「くそっ!」
Kaelianは立ち上がろうとするが、Naeviaが自信に満ちた笑みを浮かべて歩み寄ってきた。
「心配しないで、私がやるわ」
怪物が彼女の方へ向き直り、噛みつこうと身構える。
「さてと……あんたの弱点は何かしら?」
噛みつこうと飛びかかってくるが、地面から黒曜石の杭が突き出してその頭を貫く。しかし、怪物はまだ生きている。
「土の魔法じゃないわね。次を試しましょ」
彼女が空に向かって手を掲げると、何十もの青い炎の弾が手のひらから放たれ、最高点に達したところで向きを変えた。Kaelianが落ちてくる弾を見つめながら驚きで口を開ける中、それらは錨の背中に降り注ぎ、内部で爆発を起こす。怪物は焼け焦げ、いくつもの破片に分裂した。それでも、その破片は再び集まり始める。
「火の魔法でもない。うーん、斬撃の魔法ならどうかしら」
腕を縦に振ると、怪物は端から端まで切り裂かれ、その切り口から黒い血が噴き出す。数分後にはついにNarysが尽き、活動を停止した核だけが地面に残された。
Naeviaは振り返り、考える。
(ふふっ、Kaelianにすごいって思ってもらえてるといいな)
Kaelianは目を閉じ、脚に刺さった石を掴んで引き抜く。苦痛のうめき声を漏らしたが、即座に魔法で傷を治し、立ち上がる前に考えた。
(時々忘れるけど、Naeviaは僕より強いんだよな。こんなに弱い僕が、どうして彼女を守るなんて考えてるんだろう?)
立ち上がって近づくと、Naeviaと火花が核を観察していた。
「Kael、私……どうだった?」
「僕よりずっと上手かったよ。いつも通りだ」
Naeviaは考える。
(それって……私が期待してた褒め言葉じゃないんだけど)
火花が微笑み、両手を腰に当てる。
「私はどうだった!?」
「まだまだだな」
彼女は目を細め、耳を伏せながら腕を組む。
Kaelianは核を手に取り、それに向けてNarysを流し込む。その瞬間、彼は錨の記憶を視た。
***
遺跡の中に、Ranmara Garmistの姿が見える。
「あーあ、本当に疲れるわね。大陸中に錨を置くなんて、もううんざり」
彼女は腕を伸ばして言う。
「……Thylrosの高地と東の地にもいくつか置いておこうかしら。ながーくて……退屈な旅になりそうね」
***
遺産もまた錨の記憶を視ていた。彼女はためらいながら言う。
(Ranmaraが……Arkhenarys中に放浪の錨を残した……どうして?)
「分からない。でも、どうして魔物たちがみんな地下通路に留まっていたのか、これで説明がつく。錨の存在が、あいつらを外に出さないようにしていたんだ」
(それがなくなった今、魔物たちは解き放たれるわね……)
Naeviaが尋ねる。
「その錨、どうするの?」
「ギルドへ持って行って、彼らに決めてもらおう」
***
ギルドへ戻ると、彼らは錨の核をカウンターの上に置いた。火花が叫ぶ。
「Glaes! 私たち、放浪の錨を倒したわよ!」
部屋にいる全員が振り返る。Kaelianは錨がどこから現れ、それがどのように魔物たちを閉じ込めていたのかを説明し、こう言った。
「これを倒す金ランクの依頼があったよね。だから、報酬をもらえないかな?」
Glaesは首の後ろに手を当てて答える。
「ええと……残念だけど、それはできないんだ。あの依頼は君たちと紐付いていないから、渡すわけにはいかない。それに……依頼はあいつのグループが受諾したからな」
カウンターの隅には、依頼書を手に取り、そのうえ戦闘から逃げ出したあの冒険者がいた。手には硬貨の入った袋を持ち、彼のブレスレットは今や金ランクのものになっていた。
Kaelianの瞳孔が収縮し、倒れないようにテーブルに手をつく。そして、引きつった笑みを浮かべてその男に向き直った。
「ねえ……報酬を僕たちと分けるべきじゃないかな」
「嫌に決まってるだろ、これは俺の金だ」
Kaelianは歯を食いしばり、かすれた声で答える。
「でも、戦ったのは僕たちだ。君は仲間が死んでいく間、ただ隠れていただけじゃないか」
広間にいた他の冒険者たちはその男に視線を向け、彼の臆病さを聞いて笑い始めた。
「どうでもいい! 報酬は俺のもので、お前にどうこうできる問題じゃないんだよ。それに、もっと目上を敬ったらどうだ。今の俺は金ランクなんだぜ」
Glaesがカウンターに手をついて言う。
「残念だが彼の言う通りなんだ。法的には報酬は彼のものになる。本当にすまない、Kael」
Naeviaは眉をひそめ、火花は拳を握りしめる。男は笑みを浮かべ、出ていく前に言った。
「それに、死んだ仲間たちの家族に、彼らの分の報酬を直接届けてやらなきゃならないからな。じゃあな!」
意志のフレイムが、彼の嘘を暴く。
***
Glaesは錨の核を奥へ運び、台座の上で魔法の封印を施した。一方、森の中を一人で歩くKaelianは、ゆっくりと進み、空き地にたどり着くと膝をついた。
「くそぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
両拳で地面を叩きつけ、頬を涙が伝い落ちる。復讐しようとするKaelianの意志によって増幅された意志のフレイムが、凄まじい勢いで膨れ上がる。しばらくすると、彼は目を真っ赤に腫らし、両脚を抱え込んだ。
「…………これじゃSuinaと母さんに手紙を出せない……Lioraへのプレゼントも…………あんなに頑張ったのに」
(何か方法が見つかるわ……)
「見つかるわけない。長い間ずっと連絡してないし、もう死んだと思われてるはずだ……」
フレイムを感じ取り、錨は輝きを取り戻して封印を破ることに成功する。転がって床に落ち、そのまま転がり続けてギルドの裏の部屋から抜け出した。Glaesが一組の冒険者たちの対応に追われていたため、誰にも気づかれることなくギルドを出る。外に出ると人々の足元を転がり抜け、そのまま川まで転がり続けた。石段を転がり落ちてそのまま水の中へと落下したが、川底に沈む直前、その輝きは一層強くなった。




