喜んで!
夢の中ではすべてが赤く染まり、Boreal、Gala、自らの手で殺した目の教団員、花畑の中で死んでいるKayla、そして異常なほどの怒りに任せて訓練用の人形を何度も殴りつけた記憶が浮かんだ。
ひどく息を荒げて起き上がると、強烈な吐き気に襲われ、すぐに床に倒れ込んで嘔吐した。遺産の声が響く。
(Kael……あれ全部……)
息を整えようと床の上で震える中、激しい頭痛が彼の精神を追い詰めていく。
「Kaylaを……僕が……殺した……」
(……ええ、そうね)
「僕は……そんなつもりじゃなかった……! 殺したくなんてなかった!……ただ、そうしてしまった」
(どういうこと?)
寝台に寄りかかり、彼の表情は暗く、首はこわばっていた。
「心の底では殺したかった。でも……彼女の死は必要なかった」
(理性を失ったの?)
「いや、制御はできてる。でも、他の人のことを一切気にせずに、ただ最も基本的な欲求に従って動いているみたいなんだ」
その後、彼は立ち上がり、机の前に座った。
「普段なら絶対に言わないことや、しないことをさせられる。脳の一部が止まって、別の部分が起動したみたいなんだ。それに、衝動的な反応や怒りの発作まで引き起こす。ポーションが……おかしいんだ。こんな効果があるはずじゃない」
Naeviaが目を覚まし、真っ先に尋ねる。
「Kaelian……あんたなの?……いつものあんたって意味よ?」
「うん、心配かけてごめん」
「どうやらそうみたいね。気分はどう?」
「……大丈夫。ただ、Kaylaのことで頭を整理する時間が少し必要なだけだ……」
机の上にあったポーションと、Kaylaの白い狼の唾液を手に取って鞄にしまうと、あるものが目に留まった。
「Naevia、これ使ってみる?」
彼の手にはチョーカーが握られていた。それを見た瞬間、Naeviaは真っ赤になり、危うく心臓が止まりそうになる。
「……はあ!? そ、それにはまだ早すぎると思わないの!?」
「そうは思わないけど」
「だって……私たち……まだそんな関係でも……!」
「何年も前からの知り合いなんだし、別に悪いことじゃないだろ」
「ダメよ! その、まだ受け取れないけど……もし数年後とかなら……」
彼は首を傾げ、片方の眉を上げる。
「そうか……要らないなら他の誰かにあげるよ。ちょうどぴったりの人が思い浮かんだし」
立ち上がって扉へと歩いていく彼を見ながら、Naeviaはショックを受けて考える。
(他の誰かに!?……あんなにあっさり他の女にあげるわけ!? この女たらし!)
(落ち着いて、彼はチョーカーの意味を知らないのよ)
(そうなの?)
Rubyの家へ向かった。二人が寝台に座って医学書を見直している最中、Kaelianはポケットに手を入れてチョーカーを取り出した。それを見たRubyは、全身を電流が駆け抜けるような衝撃を覚えた。
「Ruby、今まで僕にしてくれたことのお礼が言いたくて、これをあげようと思ったんだ」
それを見るや否や身を乗り出し、満面の笑みを浮かべて叫ぶ。
「喜んで!」
すぐに彼に背を向け、Kaelianがつけやすいように自分の髪を持ち上げる。彼がそれをつけている間、Kaelianは言った。
「……『ありがとう』だけでよかったのに」
留め金が閉まった途端、彼女は目を丸くして振り返り、尋ねた。
「え?……チョーカーが何のためのものか知らないの?」
「装飾品だろ?」
「あー……なるほど、知らないのね」
「何を?」
彼女は笑い始める。
「ふふっ、知ってるのかと思った。もうすっかり期待しちゃったけど、まあいいわ。ありがとう、すごく綺麗ね」
しばらくして二人は天井を見上げながら寝転がった。Rubyは苦笑いを浮かべながらチョーカーに指を触れて言った。
「あのね、あなたに買ってもらうなら、私、嫌じゃないわよ」
「……奴隷は必要ないよ」
「奴隷?……ふふっ、どうやら私の言いたいことが伝わってないみたいね」
「……」
「なんだか落ち込んでるみたいね。何かあったの、弟くん?」
Kaelianは少しの間彼女を見つめ、話すべきか黙っているべきかためらったが、最終的にはKaylaとの間にあったすべての出来事を打ち明けた。
「その子が……あなたにキスしたの?」
「うん……彼女は僕に同情してたんだ。だから僕の初めてのキスは同情によるものだった……情けないよ」
Kaelianはうつむいたが、Rubyはさらに彼へと距離を詰めた。ちょうどその瞬間、Casandraが部屋に入ろうとしていたが、その光景を目にして即座に口をつぐんだ。
Rubyは両手でKaelianの顔を包み込んで上を向かせると、少しずつ顔を近づけ、ついに二人の唇が重なった。
(……)
Kaelianの瞳孔が開き、一方でCasandraの瞳孔は収縮した。数秒間続いたキスの後、二人はゆっくりと唇を離した。互いの頬が赤く染まり、Kaelianは彼女の目を真っ直ぐに見つめた。
「Ruby……僕は……前から……君のことが……」
「……私も、ずっと前からあなたのことが好きだったわ……」
Kaelianの目が輝く。胸の奥に温かい感覚が広がり、心臓が全力で脈打っているのを感じる。それは単なる幸福感を超えた感情であり、それが本物であることを知るのに意志のフレイムすら必要なかった。
Kaelianは言った。
「……僕は……ここにいたい……君と一緒に……」
「……私も、あなたにいてほしい……」
すかさず、Casandraが落ち着いた様子で部屋に入ってくる。
「Ruby、明日は女王ランクへの昇格試験があることを忘れないでね。少しはお客で練習しておいた方がいいわよ」
その言葉を聞き、KaelianとRubyの笑顔は同時に消え去った。Kaelianは拳を握りしめ、立ち上がる。
「それじゃ……そろそろ行くよ。試験……頑張って」
「……え?……ええ……ありがとう。またね」
彼が去ると、CasandraはRubyを見て眉をひそめた。一方、Kaelianが階段を降りている最中、遺産が問いかける。
(ねえ……Rubyのために……本当に任務を放棄するつもり?)
(うん、彼女から学ぶことはまだたくさんあるし、もしかしたら……彼女の呪いを解く方法だって見つけられるかもしれない)
(そんな治療法が存在する保証なんてどこにもないわ。それに……生きるために彼女が毎晩別の男と寝るのを耐えられるの?)
(……)
(聞きなさい……Rubyのことは気に入っているけれど、彼女はあなたにふさわしい女性じゃない。少なくとも今はね。それに、彼女はあなたからNarysを得ることすらできないのよ)
ピンク角館から出ると、真っ先に目に入ったのは、信じられないというような眼差しで正面に立っているNaeviaだった。
「Kaelian……今までずっと……娼婦にお金をつぎ込んでたの?」
「え? 違う、違う、違う! そういうんじゃないんだ!」
「……だから千二百Escáも貯まらなかったのね。あんたがこんなことするなんて信じられない!」
遺産が言う。
(勝手に決めつけないで、ちゃんと説明できるから)
誤解を解くためにもう一度中へ入ることにした。RubyはNaeviaに、二人がどうやって出会ったのか、そしてここ数ヶ月間、彼の回復を手助けしながら夜な夜な治癒魔法を教えていたことを説明した。しかし、その説明の間、Naeviaは彼女の首にチョーカーがつけられていることに気づかずにはいられなかった。
(……嘘でしょ。本当にあのチョーカーをこの女にあげたっていうの……もう……。せめてKaelianがその意味を知らないのが救いね……)
Naeviaは視線を床に落とし、スカートの裾をきつく握りしめながら口を開いた。
「……その節はKaelianを助けてくれて……それと、色々と教えてくれて……本当にありがとう」
「大したことないわ」
「……あと、男を食らう獣とか娼婦とか呼んでごめんなさい」
Rubyは気まずそうに笑い声を漏らし、こう答えた。
「もっとひどいことも言われたことあるから、平気よ。私の弟くんのこと、すごく心配してるのが伝わってくるわ」
(弟くん?)
Rubyは続けた。
「二人とも彼と仲が良いんだから、私たちも仲良くできそうよね。いつかみんなで一緒に出かけられるかもしれないわ」
Naeviaは頷いた。
「そ、そうね、たぶん……」
しかし、実際にはこう考えていた。
(私にとっては新しいライバルが一人増えただけ……一番困るのは、売春婦で他人のNarysを糧にしてるっていう事実を除けば……本当にいい人そうに見えることね)
***
ギルドの部屋で、Naeviaはうつむいていた。
「……どうして今まで話してくれなかったの?」
「誤解されるのが嫌だったんだ、ごめん」
「私には関係ないことかもしれないけど……Rubyとあんたの間には、何かあるの?」
「正直言って、今はその話をする気になれない」
「そ、そう」
遺産がKaelianにだけ問いかける。
(もう東の地へは行かないこと、彼女に話さないの?)
(後で話すよ。今日は色々ありすぎた)
Naeviaは目を閉じて笑い声をあげる。
「あはは、今思えば、あんたが女の人と寝てるなんて想像した私って、本当にバカだったわ。だってアレルギーのせいで無理だもんね。ふふっ、ごめんね、私って本当に馬鹿だったわ」
Kaelianが眉をひそめると、それに気づいたNaeviaは拳を握りしめた。
「私……何か悪いこと言った?」
「いや、僕にできないたくさんのことの一つを思い出させてくれてありがとう」
彼が立ち上がり寝台へと向かう間、Naeviaは何度も何度も心の中で繰り返した。
(バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ)
***
満面の笑みを浮かべ、何度も鏡を見てはチョーカーを眺めていたRubyだったが、Casandraが近づいてくるとその笑顔は消え去った。
「なんて綺麗なチョーカー。彼氏からもらったんでしょうね」
「そうとも言えるかな……」
Casandraはため息をつき、目を細めて椅子に寄りかかった。
「あの子とはちゃんと距離を保つようにって、私が何て言った?」
「……そうしようとはしたわ。でも、自分の気持ちはどうにもならないの」
「……私は二人とも守りたかったけど、今はもう無理みたいね」
「どうしてそんなこと言うの?」
「Kaelianはまだ子供よ。私たちの性質を理解してはいるけど、愛する女性が毎晩違う男と寝ていると知って、本当に耐えられると思ってるの? Narysがなければあなたは死んでしまうのに……彼にはNarysを与えられないと分かっていても?」
「……」
「それに、あの子にはやるべきことがあるわ。きっとここに残りたいと言うでしょうけど、あなたと一緒にいたらそれを果たせなくなる。本当に彼にそんなこと望んでるの?」
Rubyは視線を左右に泳がせ、瞳孔を収縮させる。
「……ううん、そんなことない」
「これ以上は首を突っ込まないわ。これからどうするかは、あなたが自分で決めることよ」
***
翌日、Rubyは試験の準備をしていた。新しいドレスに耳飾り、そして首元にはKaelianがくれたチョーカーを身につけている。Casandraがドレスを着るのを手伝ってくれたが、その表情は冷淡なものだった。Rubyは高揚感とは無縁の様子で鏡を見つめ、口を開いた。
「今日はKael、会いに来なかったわ」
「彼を責められるの?」
「まさか。私がランクアップしたら……彼には授業の一時間分だって払えなくなる。それでも彼は払おうとするでしょうけど、彼の邪魔をしたくない」
「もうなってるわよ」
「……え?」
「彼は大切な目的のためにお金を集めようとしてるのに、毎週あなたに使ってるじゃない。ただ……あなたが彼と過ごす自由な時間を無駄にしたくないからって」
「……そんなにキツイ言い方しなくたって……」
「キツくなんかないわ、事実よ」
Rubyはうつむいて言う。
「……そうかもしれない。私、本当に試験を受けるべきなのかな?」
「受けたいの?」
「そうでもないけど、治癒師を続けるにはこれが一番の近道だから……。ああ、治癒師……それが私が何でもやってきた理由。Kaelにそう呼ばれるまで、自分のことを治癒師だなんて呼んだこともなかった気がする」
「……聞きなさい、自分にとって最善の道を選ぶのか……それともあの子にとって最善の道を選ぶのか、あなたが決めなきゃいけないの。こんな風になって本当に気の毒だけど、私たちの人生は不公平だし、呪われている限り永遠にそうなのよ。あなたにできる唯一のことは、Kaelianがその巻き添えになるのを防ぐことだけよ」
Rubyの頬に一筋の涙が伝い、彼女は振り返って母親を真っ直ぐに見つめた。
「……私、すごく自分勝手だったみたい……でも、もう決めたわ。すごくつらいだろうけど……」
***
Kaelianは目の下に隈を作って寝台から起き上がり、考える。
(昨日の夜は……Rubyの試験だった……そのことばかり考えて一睡もできなかった……)
強くシーツを握りしめてから立ち上がり、しばらくしてRubyの家へと向かう。
(昨日は会いに来なかったけど、怒ってないといいな)
Casandraが淡々と扉を開け、Rubyの部屋へ入るように促す。何が起きているのか分からないまま、嫌な予感を胸に抱えて足を踏み入れるが、Rubyの姿はどこにもなかった。しかし寝台に近づくと、その上に一通の手紙が置かれた本の山が目に入る。震える手でようやく手紙を開くと、そこにはAmbarian語だけでこう書かれていた。
『Kaelian、あなたと出会ってから私がどれほど幸せだったか、きっと想像もつかないでしょうね。一緒にいてすごく楽しかったし、自分が経験するなんて思ってもみなかったような愛を感じさせてくれた。
だけど残念ながら、私たちが歩む道は相容れないの。あなたには輝かしい未来があるし、私はあなたの重荷になるだけよ。二人の関係はあり得ない。私はあなたにふさわしい女じゃない。でも、ほんの一瞬だけ、ふさわしい女になれたような気がしたの。
あなたのおかげで、私は本当の治癒師になる決心がついたわ。私たちの道はもう二度と交わらないかもしれないから、どうか私のことは忘れて。私を待たないで。あなたが愛を見つけて、自分の人生を歩んでいけるよう願ってるわ。
婚約を破棄しなくちゃいけなくなったこと、ごめんなさい。本当に楽しみにしていたのよ。あと、私の本はあなたが持っていてね。愛してる。あなたの先生、そして姉より』
Kaelianの目から涙がこぼれ落ちそうになるが、どうにかそれをこらえた。
(彼女……行っちゃった……こ、婚約ってなんのこと?)
(チョーカーよ、Kael。この王国の男たちはチョーカーを贈ってプロポーズするの。そしてそれを受け入れた時、結婚の約束が成立するのよ)
「……」
部屋を飛び出すと、机でワインを飲んでいるCasandraを見つけた。
「Rubyはどこに行ったんだ!? どうしてこんなこと!」
「……どこに行ったのかも、なぜなのかも知らないわ」
Kaelianは意志のフレイムを広げたが、Casandraが嘘をついていることに気づく。しかし、彼女はどんなことがあっても真実を明かすつもりはないようだった。
「昇格試験を受けないと決め、数時間後にいくつか荷物をまとめて出て行った」
「でも……分からない。僕が何かしたから、価値がないって思ったのか?……僕が会いに来なかったから? それとも……僕がそういう行為をできないからか?」
彼女は唇をきつく結び、平静を装って答える。
「手紙に書いてなかったのなら、私にも分からないわね……」
Kaelianの顔から表情が消え、彼は本を拾い上げて家へと帰った。本を机に置き、寝台に横たわって天井を見上げていると、脳裏にRubyの言葉が蘇った。
「喜んで!」
涙をこらえようと唇をきつく噛み締めるが、呼吸が乱れ、時折うめき声が漏れる。遺産が言う。
(……もういいわ、Muggete。吐き出しなさい……)
寝返りを打ち、枕に顔を埋めて思い切り泣いた。胸に空いた巨大な穴は、到底塞がりそうにない。誰もいない部屋は、Kaelianの押し殺した叫び声で満たされた。
一方、草原の真ん中を走る馬車の中では、黒いマントを羽織ったRubyが旅をしていた。彼女はマントの下から手を出して首元のチョーカーにそっと触れると、口元に微かな笑みを浮かべたが、それはすぐに消え去った。歯を食いしばり、一滴の涙が彼女の膝の上へと落ちる。
(……婚約を有効なままにしておくには、女は結婚式の日まで絶対にチョーカーを外しちゃいけないのよ)




