狼の皮をかぶった
夕暮れの草原は花で溢れ、その中央には、青と紫が混ざった色に白い斑点のある染料で塗られた花々に囲まれるようにKaylaが立っていた。花を観察しながらKaelianが近づくと、Kaylaは両手を後ろに回して言った。
「あのゴーレムの花で染料を作ってみたの。いい飾りになると思って。気に入った?」
「うん、すごく綺麗だけど……これ、どういうこと?」
Kaylaは両手でKaelianの右手を取り、彼の目を真っ直ぐに見つめた。
「お願い、東の地には行かないで!」
「……え?……どうしてそんなこと言うの?」
「あそこにはあなたにとっていいことなんて何もないわ。お願い! ここにいて……私と一緒に」
「君と?」
木々の間では、Naeviaが身を隠してすべてを聞いていた。心臓の鼓動と呼吸が早まり、恐怖が彼女の心を満たしていく。
(もしかして……告白してるの?)
夕暮れの光が紫色の瞳を淡く照らす中、Kaylaは優しく微笑む。
「そう、私と。本当はね、あなたに恋してるの……」
「……」
Kaelianは耳を疑い、Naeviaと同様に呆然と立ち尽くす。その間もKaylaは言葉を続ける。
「行ってほしくないの。それよりも、ここにいて。私たちは幸せな恋人同士になって、結婚して、街の郊外にある小屋で暮らすのよ。あなたが望むなら子供だって何人でも産むわ。妾を二人や三人持ったっていい。少し経ったら、私が他の奥さんを選ぶのも手伝ってあげる。ふふっ、でも、他の女の人になんて目が行かなくなるくらい、私が満足させてあげるけどね。……とても素敵な話だと思わない?」
遺産でさえも一瞬固まり、やがてようやく口を開いた。
(それは……話がうますぎるわね)
「……素晴らしい話だね」
Naeviaは開いた口が塞がらず、KaylaはKaelianへさらに一歩近づく。
「ここに残ってくれたら……全部現実にするって約束する。お願い、想像してみて」
「僕は……」
「……目を閉じて、想像して」
Kaelianは目を閉じ、少ししてから言った。
「……そうできたら嬉しいけど、でも……」
その瞬間、Kaylaが身を乗り出して彼の唇にキスをした。彼はすぐに目を見開いたが、体は硬直したままだった。同時に離れた場所では、Naeviaの心臓が今にも破裂しそうになっていた。胸を激しく締め付けられ、激しい吐き気に襲われる。
Kaylaは微笑みながら身を離した。Kaelianは何が起きたのかほとんど理解できていなかったが、口を開いた。
「……君が、その人なのかどうか……」
地面から、額に青と紫が混ざった色に白い斑点のある模様を持つ巨大な白い狼の頭が現れ、Kaelianを一口で呑み込んだ。強い風が吹き抜け、Kaylaの髪を揺らす。彼女の顔は無表情で、その瞳は虚ろだった。すると、目の教団の構成員数名がゆっくりと近づいてきた。そのうちの一人、中央に一つの目が描かれた仮面をつけた男が言った。
「よく目的を果たしてくれた。もっと早く終わらせてほしかったがな」
「……」
Naeviaが彼らに近づいていく。足取りは遅く、視線はKaylaに釘付けになっていた。教団の者たちは彼女を見るや否や武器を抜き、攻撃の構えを見せたが、Naeviaが何かをする前に、花々の中から狼たちが飛び出して教団員たちを襲い、瞬く間にその命を奪い去った。
Naeviaは拳を握りしめ、涙をこらえようとしながら叫んだ。
「一体何をしたの!?」
「あら、いたのね。正直あなたには興味ないから、行っていいわよ」
「行く!?……Kaelianを殺したのよ!! 信用できない奴だと思ってたけど……」
「信じないかもしれないけど、これは慈悲なのよ……」
「慈悲!? 今すぐ説明しなさい!」
彼女は息を吸い込み、うつむいて説明を始める。
「目の教団は自分たちじゃKaelianを倒せないと悟って、傭兵を雇うことにしたのよ。私だってこんなことしたくなかったわ」
「じゃあ……じゃあどうしてやったのよ!」
「だって……可哀想だったから。まだほんの子供だし、意志のフレイムを持って生まれたのは彼のせいじゃない。そのせいで死ぬなんて不公平だわ」
「矛盾してるじゃない!」
「少しそうかもね。でも、私がやらなくても他の誰かがやったわ。だから、彼が失うことになる経験をいくつか与えてあげようと決めたの。愛とか、他の感情とかね。彼の頭に最後に浮かぶものが、すぐに訪れる死を前にした美しい夢であってほしかった。こんなの数日で終わるはずだったのに、実行する勇気を出すのにすごく時間がかかっちゃった」
「……それで、私があんたを殺さずに済むとでも思わないで」
「……そうよね……始めましょう」
***
「ど、どうして? Urseを平手打ちするなんて……私、殺されちゃうわ!」
「あんたを侮辱したからよ。そんなの許せないわ。それに、あのバカはただの口先だけの男だし」
「金ランクなのよ」
「それが何? 必要な時は私がいつでも守ってあげるわ」
「……大騒ぎを起こさなくて運が良かったわね」
「ふふっ、それに、あんたが追い出されるわけないじゃない。この劇にはあんたが不可欠なんだから」
***
Naeviaは黒曜石の杭を何本も放つが、Kaylaはそれを白い狼に防がせ、考える。
(あの子……すごく強くて、すごく速い)
小瓶を開け、二滴を宙に浮かせて自分の目へと導く。すると彼女の目は狼のものへと変わり、視力が向上する。地面から巨大な狼の脚が現れてNaeviaを襲うが、彼女はそれをNarysの盾で受け止め、さらに杭で串刺しにする。Kaylaは苦痛にうめき声を上げるが、攻撃をやめない。
Naeviaは柱を蹴って跳躍し、空中で青い炎の球体を作り出す。高熱を放ちながらそれを投げつけるが、白い狼が鼻面でそれを受け止め、噛み砕いて破壊し、炎の波を巻き起こした。
(どうやって!?)
両脇には二滴のインクが浮かび、瞬時に狼の頭が現れて彼女に噛みつこうとする。しかしNaeviaは黒曜石の球体に閉じこもり、狼が噛みついた瞬間に杭を出現させて突き刺す。地面に落ちると同時にそれを爆発させ、近くにいた狼たちを傷つけるが、彼女はその破片を集めて片手で宙に浮かせる。もう片方の手では複数の青い炎の球体を作り出し、同時にKaylaに向けて放った。だが、白い狼が間に割って入り、爆発と杭によるダメージをすべて受けた。
Naeviaは何度も喘ぎながら、小声で呟く。
「……こんな奴と……戦ったことない。この体は、こんなにNarysを使うことに慣れてないのに」
両手を広げ、地面に蓄積する青い炎を放つ。そこから何百本もの炎の矢が空中へと放たれ、Kaylaへ向かっていく。しかし、白い狼は彼女を背に乗せると、戦場を駆け巡りながら矢の一斉射撃を一つ残らず躱していく。Naeviaへと徐々に近づいていき、彼女は巨大な青い炎の球体を作り出す。だが、狼が近づく前に、その頭部の内側から一本の石の杭が突き出し、白い狼はつまずいてKaylaと共に地面に倒れ込む。Kaylaは頭を抱え、苦痛に身をよじった。
すぐにもう一本の杭が突き出し、さらにもう一本、もう一本、もう一本と続いた。やがて地面は血まみれになり、Kaylaは動けなくなった。Naeviaは息も絶え絶えで、顔や手には無数の小さな切り傷ができている。彼女には今何が起きたのか理解できない。
白い狼は傷を癒して立ち上がろうとするが、高圧の水流がその首を横から横へと貫く。Kaylaが首を押さえて悲鳴を上げ、Naeviaは目を大きく見開く。
「Kaelian!?」
獣の首の内側から現れた両手が、頭部と首の一部を押し広げて出口を作り出す。Kaelianは唾液と血にまみれて姿を現したが、その表情には恐怖も嫌悪も一切浮かんでいない。さらに、彼の髪と目は本来の色に戻っていた。
Naeviaの顔から涙が溢れ出し、彼女は叫んだ。
「生きてたのね!」
しかしKaelianはKaylaにだけ視線を固定している。彼女が誰よりも驚いているようだった。彼女は膝をつき、問いかける。
「ど、どうやって……どうやって生き延びたの? 狼の喉があなたのNarysを吸収して、すぐに殺すはずだったのに」
「意志のフレイムを使って吸収されるのを防いだんだ。白状すると、僕の意志を使ったわけじゃなくて、僕に生きていてほしいっていう君の意志を使ったんだけどね」
「あんなの誰も生き延びられないはずなのに……それじゃあ……あなたは私が思っていたよりもずっと強いのね。たぶん……私が間違っていたのね。フレイムがあなたに背負わせた不幸も、生き延びられるかもしれない」
Naeviaが近づき、尋ねる。
「ち、血が……どうして怖がってないの?」
彼は手にした小さな空き瓶を掲げた。Naeviaは即座にそれを認識する。
(抑制のポーション……彼、あれを飲んだのよね。そうよね、遺産?)
遺産の気配はどこにも感じられない。KaylaはKaelianの髪を見て言う。
「そうか……あなたもVladmistianだったのね。私たち……私が思っていた以上に似ているみたい」
「……」
「数冬前、私の村は寒さで全滅した。両親は私を救うために、狼の精霊と契約を結ぶことを強要したの。それは……彼らにとっては慈悲のつもりだった。でも現実には、精霊を狙うすべての者から逃げて生きる運命を私に背負わせた。私には休息なんてない。いつも片目を開けて眠り、誰も信用しない。だから……あなたのことがよく分かるの」
「……」
「でも……あなたが運命を変え、抗い、戦えるのなら、もしかしたら私にもできるかも……お願い! 東の地まで、私も一緒に行かせて。狼の精霊の力を貸すから」
Naeviaは拳を握りしめ、言い返す。
「あいつを信じちゃダメ! 前にも嘘をついたじゃない。自分の命を助けるためなら何だって言うわ!」
「嘘じゃない、本当のことよ。それに、キスの前に言ったことも……本当よ。あの夢が現実になればいいって本気で思ってる。まだ間に合うわ」
Kaelianは彼女の前に膝をつき、頭を下げて答える。
「僕のフレイムには嘘を見抜く能力がある。君が嘘をついているかどうかは分かるよ」
フレイムをKaylaへと伸ばし、彼女を包み込む。結論を出すためにじっくりと時間をかけ、それが終わると彼はため息をついた。そしてKaylaへ身を乗り出し、彼女にキスをした。Naeviaは硬直した。胸の奥にさらなる深い空虚感を感じ、気絶しそうな感覚に襲われる。
Kaylaは一瞬Naeviaを見てから目を閉じるが、突然その目を見開き、全く動かなくなって地面に倒れ込んだ。
Naeviaが一歩後ずさりする一方、Kaelianは膝をついたままだ。
「ど、ど、どうしてキスしたの………Kaelian? な、何をしたの?」
彼は静かに立ち上がり、答える。
「彼女の肺を純粋な酸素で満たしたんだ。どんなものでも、高濃度になれば毒として機能して、即死を引き起こせるからね」
「キスは……必要だったの?」
「ううん。でも、許されるっていう希望を与えるのが、僕なりの恩返しだったんだ……それと、死による安らぎも……まあ、慈悲だったんだと思う」
彼はKaylaの髪から狼の形をした髪留めを取り、小瓶を取り出すと、地面に落ちていた狼の唾液でそれを満たした。そして彼が振り返ると、Naeviaが言った。
「……最後の最後まで嘘つきだったなんて、信じられない」
彼は立ち止まり、彼女を横目で見る。
「え? いや、本当のことを言ってたよ」
彼女の瞳孔が瞬時に収縮した。
「そ、それなら……どうして……殺したの?」
「僕を利用したから。そんなこと許すつもりはなかった」
Naeviaの元へと歩み寄り、一歩にも満たない距離に立つ。身をかがめ、彼女をじっと見つめながら指でその顎を掴んだ。Naeviaの心臓は早鐘を打ち、顔が赤らみ始める。Kaelianの手から光が放たれ、彼女の傷を少しずつ癒していくと、彼は身を離した。
(彼が私の顔に触れたの……初めて……温かかった)
Kaelianは大きく息を吸い込み、炎の球体を作り出してKaylaの遺体に投げつけ、火葬にする。それから言った。
「Naevia」
「は、はい?」
「言った通りだった。彼女が僕に興味を持つなんておかしかったんだ。最初から疑うべきだったよ」
「ううん、そんなこと……」
「それじゃ、またね」
「え? どこに行くの?」
「Erkunden」
彼は静かに街を歩く。Kaylaの姿にLioraの目を重ねた映像が脳裏に浮かぶが、何の反応もない。道行く人々は彼の髪と目を見ると、不審そうな目を向ける。暗い路地裏に着くと、彼はためらうことなくそこを通り抜けた。
一人の男がほとんど何もないところから現れ、彼の背後に立つ。
「おい、Vladmistian。持ってるものを全部出せ。さもないとお前をバラバラにして故郷に送り返してやるぞ」
Kaelianは振り返り、顔を上げて微笑む。男にはその理由が分からなかったが、気がついた時には、石の壁と天井が彼らの上にそびえ立ち、完全に暗闇に閉ざされていた。
「えっ!?」
照明用の火を手に作り出し、男に向けて石の杭を放つ。男は壁に叩きつけられ、傷口を押さえる。そこでKaelianが言った。
「Hehe, genau das, wonach ich gesucht habe, ein völlig entbehrliches Versuchsobjekt」
「な、なんだと!?」
手を後ろに回し、ナイフを取り出す。
「今、治癒魔法を勉強してるんだけど、傷がないと練習できなくてさ。運良く、君が僕の練習台になる」
「練習台だと!? 放してくれ!」
「僕の技術を磨くために、必要なだけ切って、燃やして、傷つけて、治すよ。あんまり練習してないから、たぶん何度も失敗するだろうけど」
「……!!」
「臓器の治し方を間違えたらもっと痛いだろうね。でも、いいところはさ、いつだって最初からやり直せるってこと……」
「あああああっ、助けてくれ!」
「壁はすごく分厚いから、遠慮せずに叫んでいいよ」
男が何度も気を失った後でさえ、Kaelianは何時間も練習を続けた。床は血まみれになったが、最終的に男の体にはかすり傷一つ残っていなかった。
巨大な石を作り出し、男の体の上に浮かばせる。路地を出る時、ただそれを落とした。
ギルドへと向かう。すでに夜明け前だったため、通りは完全に無人だった。
部屋の扉を開けると、火花はすでに眠っていたが、Naeviaは寝台に座っていた。
「どうして起きてるの?」
「あんたのこと何も分からなくて、心配だったのよ」
「そう。それじゃ、おやすみ」
寝台まで歩き、そのままうつ伏せになって横になった。Naeviaは拳を握りしめて考えた。
(あいつ……Kaelianに似てるけど……彼じゃない。彼みたいな振る舞いじゃない。まるで別人のようだわ)




