劇
劇の当日がやってきた。朝早くから、Kaelianは夜になるまでできる限り稽古をしなければならず、一日中、台詞と土魔法を使った戦闘の動きを繰り返し確認していた。Edheralの祭りの最終夜ということもあり、通りは食べ物やアクセサリーの屋台が至る所に並び、人で完全に埋め尽くされ、賑わっている。一方、舞台裏では、Kaelianが右肩に半マントのついた軽い鎧を身に着けていた。黒地で、熊の頭が刺繍されている。
Kaelianが手袋を外している間も、その手は絶えず震えていた。
(……舞台恐怖症になるには最悪のタイミングだな)
Naeviaと火花が様子を見に入ってくると、火花は嬉しそうにKaelianへ飛びついた。
「へへっ! 尻尾を折ってきな!」
「……ありがとう?」
Naeviaは優しく微笑んで言った。
「最高の幸運を祈ってるわ……それに……」
興奮したKaylaの声が、こちらへ近づいてくるのが聞こえた。
「ほーい」
姿を見た途端、火花とNaeviaは眉をひそめた。だが、Naeviaは思う。
(この女、ここで何してるの? 近づいてほしくない。今日は祭りの最後の夜だし、彼を誘いに来たんだと考えることにする。絶対に駄目! 私が先に動かないと……)
「Kayla、来てくれて嬉しいわ」
「これを見逃すわけないじゃない。ねえ、もしよかったら……?」
Naeviaは拳を握り締め、その言葉を遮った。
「ねえ! そういえば、今思い出したんだけど……今日……」
監督がKaelianにこちらへ来るよう呼びかけた。Kaelianは二人を見て言う。
「……もうすぐ時間だ。また後で」
二人は頷いたが、火花はKaelianを離そうとしない。
「もう離していいよ」
「やだ!」
KaelianはNaeviaに視線を送り、Naeviaは火花を引きずるようにして連れていった。
監督に近づくと、彼は言った。
「台詞は全部覚えたんだろうな。俺をがっかりさせるなよ」
「覚えたなんて、ずいぶん寛大な言い方だね。むしろ暗記しただけさ。四日もなかったんだから、残念だけど出たとこ勝負で我慢してもらうしかないよ」
「それでいい、頼んだぞ!」
(全然話を聞いてなかった気がする……)
Kaelianが深く息を吸うと、監督が言った。
「もう時間だ。ほら、斧を持て」
監督は、刃に熊が刻まれた両刃の斧を手に取り、Kaelianに渡すと、その背中を押して舞台へ送り出した。舞台は地面と同じ高さだったが、その正面にはEdheralの中央広場に何千人もの人々が座り、劇を待っていた。
あまりの人の多さに、Kaelianの体は強張った。血の気が引き、呼吸が速くなる。彼は自分の手元へ視線を落とした。
(分からない……何が一番怖いんだ、大勢の人か、それとも……これ、本物の斧だ!)
手が震え、握る力が弱まりそうになる。Kaelianは振り返って監督に言った。
「に、偽物の斧を使うはずじゃ……」
「ん? ああ……だが、本物のほうが見栄えがいいと思ってな! 仲間を斬らないように気をつけろよ!」
遺産が言った。
(今まで出会った中で最悪の監督だ。まあ、知ってる監督はこいつ一人だけだけど)
Kaelianと似た鎧を着たUrseが、幕の後ろから近づいてきて言った。
「ほら、お前が役立たずじゃないってことを証明するチャンスだ。少なくとも、完全な役立たずじゃないってことをな」
その言葉が夢の中で聞いた言葉と重なり、Kaelianの瞳孔が収縮した。過呼吸になりかけたその時、観客の中に高く掲げられた手が見えた。ピンク色の手だった。RubyとCasandraが黒いローブをまとい、観客の中から応援していた。
その少し先にはNaeviaと火花が、Meyやその友人たちと一緒にいた。近くにはRedjornとGlaesがいて、そこから数メートル離れた場所にはKaylaがいた。
Kaelianは数秒間、目を閉じた。なぜ始まらないのか分からず、困惑した視線が互いの顔を行き来していた。遺産が言った。
(落ち着いて、Kael……ただ演じればいい。いつもやってることだろ。普通の子供を演じたり、自信のある人間を演じたりする時みたいに)
次の瞬間、Kaelianの体の震えが止まった。視線が鋭くなり、斧を回しながら頭上へ掲げる。そして、それを力強く地面へ叩きつけ、魔法によって小さな地響きを起こした。
それから両手で柄を握り、舞台の端へ向ける。そこには、一緒に練習した男が、今は鎧を身にまとい、大剣を構えて立っていた。
「王国の半分を探し回って、ようやく貴様を見つけたぞ! Udridの息子、Thylros Falstan! ハンマーの恐怖よ!」
男は剣をKaelianへ真っ直ぐ向けたが、Kaelianはその刃を見ても動じる様子を見せない。斧を地面に置き、それに寄りかかる。落ち着いた目つきでかすかに笑い、口を開いた。
「Grusud Curosen、クソ野郎の息子め。王の第二騎士様が、今度は何の用だ?」
「我が王がお前を呼び出した!」
「『お前の』王の間違いだろう。俺は自分より弱い男の前に膝をつくつもりはない。お前もその一人だぜ」
「最高だと聞いていたが、ただの未熟なガキに過ぎないようだな!」
斧を持ち上げ、肩に担ぐ。
「それでも、ここで一番強いのは俺だぜ。惨めにならないか?」
「貴様のその傲慢さが、我らを滅ぼすのだ!」
「俺たちを滅ぼすのは東の魔物と、お前の王の統率だけだ。何年もの間、王国の残りを守る盾として、俺の民を利用し、搾取してきたんだからな」
「それを終わらせたいなら、魔物の討伐に協力しろ!」
「やってやるよ。Edheralが自由になった日にだ!」
二人は武器を構え、戦い始めた。剣と斧が何度も激突し、やがてGrusudが火球をいくつも放つ。それをThylrosが避け、斧を持ち上げて問いかけた。
「俺の武器は斧だ。だが、俺が『ハンマーの恐怖』と呼ばれている理由を知りたいか!?」
Kaelianの演技は、大げさで典型的な演劇の演技をする他の役者たちとはまったく違っていた。KaelianはまるでThylrosそのものになったかのように見え、まるで本人が戦い、言葉を発しているかのように、一つ一つの動きから一言一言に至るまで体現していた。その姿に、観客は呆然としていた。
Kaelianは地面から石を浮かせて斧の刃に集め、それをハンマーへと変えると、Grusudを後退させる一撃を放った。続いて地面から何百、何百という石を浮かせ、渦のように動かして観客の近くを通過させる。石は先端のない弾丸のような形となり、Grusudへ向かって放たれた。しかしGrusudが砂煙を巻き上げると、発射された石は命中する前に消え去った。そして彼が地面に倒れ込むと、誰かが動物の血の入ったバケツを彼に浴びせかけた。
砂煙が消えていく中、Thylrosは斧を地面に置き、近づいていった。血を見ても何の反応も示さず、ただ無関心に彼を見る。
(!!!!!)
「どんな気分だ……?」
「ど、どんな気分って……?」
「自分の人生最大の功績が、俺の手にかかって死ぬことだと知るのは、どんな気分だ?」
「……お前の人生唯一の功績が……こんなしがない村を守ることだと知るよりはマシだな」
人々は力強く拍手した。
そしていくつかの場面を経て、劇は中盤を迎える。舞台は、輝く玉座のある城の内部へと変わった。Thylrosが膝をつくと、王が言った。
「そなたは我が王国に対して数々の罪を犯し、我が最良の兵士たちを手にかけた。だが、すべてを忘れ、Edheralを解放する用意がある。その代わり、この王国のために魔物との戦争に協力せよ!」
「命じられた務めは引き受けよう。だが、一つ願いがある。保証として、務めの間、王女に同行してもらいたい」
王女は目を見開き、口元を覆いながら視線を逸らした。王は剣を抜き、その刃をThylrosの首の両側に当てた。
(!!!)
「……よかろう。今よりそなたはCroat王国に仕える身だ」
舞台はさらに暗い雰囲気へと変わり、そこにはThylrosと王女がいた。王女が言う。
「自分より弱い男の前では膝をつかないのだと思っていました」
「つきませんよ。ですが、美しい王女の前に跪くのなら、何の問題もありません」
王女はThylrosの両手をそっと取った。
(!!!)
二人は微笑み合うが、少し離れたところにいるNaevia、火花、Mey、そしてRubyは、その光景を見て思わず眉をひそめる。
幕が下り、次の場面へ移るための準備が慌ただしく進められる。そこにはもうKaelianは登場しない。幕が下りた途端、Kaelianは人目のない場所へ早足で向かい、腕を持ち上げ、力いっぱい噛みつきながら、押し殺した悲痛な叫び声を漏らした。歯が皮膚に食い込み、瞳孔が収縮する。血が口の中を伝って地面へ落ち、それを見た瞬間、彼は吐き始めた。咳き込み、呼吸をしようとする彼の手は、アレルギーのせいで真っ赤になっていた。
「ゴホッ、ゴホッ……!」
(Kael! どうやって今まで耐えてたの?)
(た、ただ……演じてただけだよ……)
(完璧だったわ)
彼は魔法で傷を治そうとする。手から光が漏れるが、何も起こらない。
(……殺してくれ)
舞台に出る準備をしているUrseは、遠くにいるKaelianを横目で見るが、彼が何をしているのかまでは見分けられなかった。
Kaelianは苦労しながら立ち上がり、考える。
(もう……やるべきことはやった。報酬を受け取って、帰ろう)
報酬を受け取った後、裏から外へ出てギルドへ向かう。自分の部屋に入り、髪を白く変えて寝台に横になり、数分間天井を見つめる。しばらくしてから腕の傷に包帯を巻き、それから手袋をはめた。
Naeviaが部屋に入ってくる。
「あ、ここにいたのね。えっと……あんた、ここで何してるの?」
Kaelianは起き上がり、髪を茶色に戻す。
「劇はもう終わったの?」
「ええ。Urseは魔法で見事な見せ場を作ったけど、残りの劇はまるで物真似をする連中が演じてるみたいだったわ。最後は、みんな他の役者たちと一緒にあんたが出てくるのを期待してたのに」
「すごく疲れてたから、休みに来たんだ」
「あら、そうなの? Meyが、あんたの演技がすごく良かったからって、酒場でお祝いしようって誘ってくれたの。でも、断ってもいいわよ」
Kaelianは息を吸い、こめかみに手を当てる。
「分かった、行くよ。少しだけ回復する時間をくれ」
Naeviaは寝台に近づき、手でスカートを整えてKaelianの隣に座った。
「ねえ……き、聞いても……」
遺産が頭の中で彼に話しかける。
(行け! あなたならできるわ……)
「……個人的で、ちょっと答えづらい質問をしてもいい?」
「いいよ……どうぞ」
「ど、どんな……どんな……どんな女性が……好きなの?」
Naeviaは膝の上で両手を握りしめ、唾を飲み込む。Kaelianは困惑した様子で数秒間彼女を見つめた。
「どうしてそんなこと聞くの?」
「べ、別に……特に理由はないの。ほら、私たち友達だし……あんたのそういうこと、本当に知らないから」
(ふふっ、金髪で金色の目の子って言うのを期待してるのかしら?)
(……金髪だけでも妥協するよ)
Kaelianは顎に手を当て、答える。
「まあ、あんたの言うことにも一理あるね。うーん、実は女性が好きなのかどうか、自分でもよく分からないんだ」
(……)
(……)
(………………ええええええええええっ?………………)
「……ど、どういうこと……?」
「最近思い出したんだけど、どうやら僕、前世では女性だったみたいなんだ。だから……男性の方が好きかもしれない」
「……」
「とはいえ、誰かに惹かれた記憶はないんだけどね。でも、そういえばLioraのお父さんはすごくかっこいいなって、ずっと思ってたな」
(……そんな答えは予想してなかったわ……それは……)
(……信じてくれ、私もそうなるとは思ってなかった)
「まあ、あくまで僕の単なる推測だから、特にこれといった好みがあるわけじゃないと思うけど」
Naeviaが息を吐くと、Kaelianが言う。
「でも、どうしても答えるなら……赤毛で、胸がものすごく大きい子かな!」
(…………最悪…………一つも当てはまってないじゃない……!)
(……少なくとも一つは、そのうち……)
「Naeviaはどうなの? どんな男性が好きなの?」
遺産が叫ぶ。
(『あなたみたいな人!』って答えなさい!)
「私は……」
(言って、言って、言って、言って、言って、言って! 『あなた』って!!)
Naeviaが答えるのにあまりにも時間がかかったため、Kaelianは首を傾げ、目を細める。
「……ええっと……金髪で……青い目……の人……」
(……馬鹿!! 馬鹿!! 馬鹿!! 馬鹿!! 馬鹿!! 馬鹿!! 馬鹿!!)
「見た目ばっかりだな。中身はどうなのさ、へへっ」
「だ、だってあんただって胸が大きいって言ったじゃない!」
***
酒場では全員が楽しんでおり、MeyはNaeviaを踊らせようとしていたが、あまりうまくいっていなかった。
だが、テーブルの一つに目を向けると、KaelianがMayuと話しているのが見えた。Mayuが笑うのを見た瞬間、Naeviaの頭をある考えがよぎる。
(ちょ……ちょっと待って。Mayuって……赤毛だ。もしかしてKaelian、彼女を口説いてるの!?)
Naeviaは拳を握りしめて近づいた。彼女がそこまで来ると、二人は話すのをやめ、Naeviaを見た。
「やあ、どうかした?」
「……ええと、さっきからGreysを見かけないなと思って」
「大丈夫だよ、きっとRaderと一緒にいるから」
「本当に?……もしかしたら……あなたが探しに行った方がいいんじゃない?」
Mayuがテーブルから立ち上がる。
「そうね。ごめんなさい、Kaesuki。また話の続きをできたら嬉しいわ」
(Kaesuki!?)
Kaelianが頷くと、Mayuは去っていく。するとすぐにNaeviaが彼女の席に座り、Kaelianを横目で見て尋ねた。
「あ、あんなに親しいなんて知らなかったわ。それ、どういう意味か分かってるの?」
Kaelianはかすかに微笑んで答える。
「うん、さっき説明してくれたよ。親しみを込めた愛称みたいだね」
「そうだけど……大したことないわよ。Meyやその友達は誰にでも使うし、特別なものじゃないわ」
Kaelianの笑顔が消え、少し戸惑いながら答える。
「あ、うん、そうだと思ってたよ」
「それで……何を話してたの?……い、いや、私が聞いてもいいことなら、だけど」
遺産が問いかける。
(……何をしようとしてるの、Naevia?)
「実は色々なことをね。彼女、リーダー同士で話がしたいって。それから、僕がMeyを助けたことを改めて感謝してくれて、お礼として何でも好きなものを言ってくれって言われたんだ」
「……彼女のこと、好きなの?」
「そうは思わないよ。彼女とはそんなに言葉を交わしてないし」
「……」
「Naeviaはどうなの? Raderが好きなの?」
「まさか! それに、あの人は男性が好きなのよ」
「本当に? 違法かと思ったよ。僕の世界の多くの場所では完全に禁止されてるんだ。正直、なんでダメなのか理解できないけどね。他人が刺されるのを羨むみたいなもんじゃないか」
「少なくともRagnorysでは違法よ。子供がいるか、持つ意思があれば話は別だけどね」
Meyがテーブルに近づき、素早くKaelianの手首を掴む。それからNaeviaを見て微笑み、ウィンクをする。
「さあ、見せたいものがあるの!」
(なっ、ちょっと!)
数時間後、二人は小舟に乗っていた。Meyはうつむき加減で、明らかに緊張している。
「ど、どうかな?」
「かなり綺麗だね。今までこういうのに乗る機会がなかったんだ」
水面は淡い青色の光を放ち、水底や壁には様々な形の甲羅を持つ蟹がびっしりといる。それらはすべて、青い光の瞬きを放つという共通点があり、下から小舟や橋を照らしていた。
「へへっ、でしょ。何か食べたい?」
「どこで?」
Meyは目の前の石橋を指差す。橋を通り抜ける時、Kaelianは橋の下の両端に、小舟がよく立ち寄る食べ物の屋台があることに気づいた。そこでは、ろうそくの火と水面の光が壁の上で溶け合っている。
「焼きカニのハサミを二つお願い!」
食べ終えると、小舟は川を進み続け、Meyが尋ねた。
「他に何かいる? あんな演技の後じゃ、すごく疲れてるはずよ。正直、見惚れちゃった」
「僕は大丈夫だよ。でも、気にかけてくれてありがとう。それに、そう言ってくれて嬉しいよ」
Meyは水面と小舟の下を通り過ぎる魚を見つめた後、スカートのひだを強く握りしめ、Kaelianを真っ直ぐに見て言った。
「……あなたに、打ち明けたいことがあるの……」




