稽古
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窓が閉ざされた部屋は光を遮り、暗く冷たい空間となっていた。その中でKaelianは壁にもたれ、両膝を抱えて額を膝に押しつけている。瞳が震え、頭の中ではRaemelで経験した最も屈辱的な瞬間が次々と蘇っていた。
Naeviaと火花は外にいた。助けたいとは思っているものの、二人とも中に入るだけの勇気が出ない。火花は拳を握りしめて言う。
「……あんたのせいだよ、金髪! あんなことしなきゃ……!」
Naeviaは彼女の口を手で塞いで答える。
「もしあんたにやらせてたら、もっとひどいことになってたわ」
***
Urseが現れた後、火花は座っていた場所から立ち上がり、手にNarysの爪を作り出した。だが、Naeviaはすぐに彼女を動けなくする封印を放ち、そのまま飛びかかって座らせた。
「何すんのさ!?」
「あ、あいつKaelを傷つけたんだよ! 離、してよ! ぶっ殺してやる!」
「分かってるわ。でも、あんたが何をしてもKaelianにとって大きな問題になるのよ」
「関係ないもん! やらなきゃダメなの!」
***
二人が部屋に入ると、Kaelianはすぐに立ち上がった。Naeviaは指を組み合わせながら尋ねる。
「大丈夫……?」
Kaelianは視線を逸らすが、火花が言う。
「あのバカを探して仕返ししなきゃ!」
「そ、そんなこと言わないの。……何があったのか、話したい?」
Kaelianの髪が白から茶色へと変わり、答える。
「その必要はないよ。僕は全然平気だ。ただ、いきなり見て驚いただけだから、問題ないよ」
「ほ、本当に?」
「うん。それに、同じ役を違う年齢で演じるだけだから、彼と話すこともないし」
「ええ、でもリハーサルではかなり近くにいることになるわ。心配じゃないの?」
「お互いの道が交わらなければ、全部うまくいくはずだよ。料理する気になれないから、夕食を買ってくる。ここで待ってて」
Kaelianはかすかに微笑んで部屋を出る。だが、仲間たちの心配を完全に払拭できたわけではなかった。扉を閉めた途端、過呼吸になり、髪が一瞬だけ白に戻る。手すりに寄りかかって深呼吸すると、再び髪を茶色に戻しながら階段を下りていく。
通りは閑散としているどころか、祭りの夜を楽しむ人々で溢れかえっていた。だが、耳元で何者かの声が囁く。
「Bakaelian」
瞳孔が収縮し、視線が凍りつく。どうにか振り返るが、周囲に不審な人物は見当たらず、近くにUrseの姿もない。
(聞こえた?)
(何も聞こえなかったわ。何を聞くはずだったの?)
Kaelianは前を向き、再び歩き出す。
(なんでもない。ただ、誰かに呼ばれた気がした)
さらに数歩進んだところで、また「Bakalian」と呼ばれる声を聞く。だが今度は気にせず、そのまま歩き続けた。
ギルドに戻ると受付へ向かった。そこにはRedjornがいた。Kaelianを見ると、彼は言った。
「あの劇に出るのを引き受けてくれてありがとう。あの男の相手をするのはもう一日だって耐えられなかったからな。上手くやれば、冒険者としての名声も上がるかもしれない。後悔してないといいが」
「……それはどうでもいいんだ。お金が必要だから、どっちみち後には引けないし。とにかく、酒場の給仕たちが食べ物を持ってくるから、通してあげて」
Redjornは目を閉じて、頭に手をやる。
「そう言うと思ってたよ。乗り気じゃないのは君くらいだ……」
再び、今度ははるかに近くから、左耳に声が聞こえた。
「おい、Bakalian」
Redjornが話し終えて目を開けた時、Kaelianはすでにそこにいなかった。
***
翌日も劇の台詞の練習を続けていた。Urseは反対側で自分の仕事に集中していたが、Kaelianは彼から目を離すことができない。その頭の中には、前日にUrseが言った言葉が蘇っていた。
「目はちゃんと治ったみたいだな。『次期』金ランク様が俺のせいで片目になっちまったら、気分が悪くなるところだったぜ。へへっ、じゃあな」
呼吸が速くなる。その時、男が巨大な両刃の斧をKaelianの手に向かって投げてきた。刃まで含めてすべて木製の小道具だ。Kaelianは両手で受け止めたものの、腹にぶつかってしまう。男が言う。
「まずは斧を使った動きの練習だ。その後で魔法を使って同じことをやるぞ」
(少なくとも偽物の斧だ。これならなんとかやれそうだな)
夕暮れ時、Kaelianは完全に疲れ切っていた。額には汗が浮かび、呼吸を整えようと斧を地面につき、そこに体重を預けている。男は大剣を肩に担いで言った。
「……斧の扱いは最悪だが、まあ、使えるようには見せられたな。少し休め。魔法を使いながら、あれを全部再現しなきゃならないんだ。腹いっぱい食っておけよ。監督は夜明けまで帰してくれないからな」
(夜明け!? 前の世界でもそこまでブラックじゃなかったぞ。いや、そうでもないか)
通りの中央を歩いていると、背中に不快な感覚を覚え、また「Bakaelian」と呼ばれる声を聞いた。すぐに振り返ると、女性の悲鳴が聞こえる。
「……Kayla?」
「う、うん。ちょっと驚かそうと思ったんだけど、逆に驚かされちゃった。へへっ」
Kaelianはため息をつきながら腰に手を当てて尋ねる。
「ここで何してるの?」
「挨拶しようと思って。それに、Thylros役に選ばれたお祝いも言いたかったの。すごく名誉なことじゃない」
「実は僕だけじゃないんだけど……まあいいや、ありがとう」
「今、忙しい?」
***
パン屋で、Kaelianはいくつかのフルーツタルトを食べていた。Kaylaは微笑みながら彼を見て言う。
「甘いものは好きじゃないと思ってた」
「好きだよ、すごく。でも、お菓子にお金を使いすぎることになるから、あまり食べないようにしてるんだ。ただ、今はエネルギーが必要でさ」
「わあ、しっかりしてるのね。もう一つタルトを食べてもいいと思うわ」
Kaylaは自分のタルトを一口分取って宙に放り投げる。すると、髪の中で青い一房だけから小さな狼の頭が現れ、それを飲み込んですぐに消えた。
Kaelianは首を傾げて尋ねる。
「その力、どうなってるの? 意味が分からないんだけど」
「ふふっ、魂の誓約をしたの」
「???」
「他の能力を強化する代わりに、魂の特定の能力を制限する技よ。元には戻せないから、一種の犠牲ね」
「それで、君は何を犠牲にしたの?」
「全部!」
Kaelianは危うくタルトを喉に詰まらせそうになり、信じられないという顔でKaylaを見る。だが、彼女はそのまま話を続ける。
「ふふっ、狼を扱う能力を強化したくて、属性魔法や他の種類の魔法を使う可能性を犠牲にしたの。おまけに、狼の精霊との契約を使うにはインクを使わなきゃいけないようにしたわ」
「どうして……そんなことしたの? あんまり便利そうじゃないけど」
「能力が限定的であればあるほど、制限によってさらに強力になるのよ」
(へえ……もしかしたら僕も誓約した方がいいのかな)
(私の比喩的な屍を越えてからにしなさい)
「奢ってくれてありがとう。リハーサルに戻らなきゃ」
「どういたしまして。ねえ、一緒に行ってもいい?」
***
リハーサル中、Kaylaは座ってKaelianを見ていた。Kaelianは空中に石を作り出し、それを動かしながら常に正確な攻撃を再現しなければならない。観客役の誰かに当たったり、逸れたりしないよう気をつけながら続けているが、ペースについていくのはかなり難しい。
Narysの経路の損傷が邪魔をしているからというだけでもない。周囲の視線が気になるからでもない。それ以上に、端の方でリハーサルをしているUrseが絶えずこちらを見ているような感覚があった。
Kaelianに休憩が与えられると、Kaylaは彼を励まそうと近づいた。だが、遠くから二人を見ていたUrseが微笑み、気楽そうに近づいてきて言う。
「彼女ができたってわけか、へへ。俺が思ってたほど凡人じゃないのかもな……いや、やっぱりそうか。こんな趣味の悪い美人を遣わしてくれたAmbarに感謝するんだな」
Kaelianは答えることができなかった。呼吸が速くなり、目を合わせないように前を見つめたまま、強く拳を握りしめる。
だが、Kaylaが口を開く。
「まだ付き合ってないけど、私がKaelianを好きで何か問題でも? Fanomyrさん」
(……)
(好き……?)
「へへっ、俺を知っててくれてよかったよ。光栄だな」
Kaylaはかすかに微笑み、答える。
「もちろんよ。ひとりで放浪の錨を倒せると思い込んで負けた、Raemelのバカを知らないわけないじゃない……ふふっ」
Urseは歯を食いしばり、答える。
「負けてねえよ。それはガセだ。とにかく、Bakaelianと楽しめよ」
それを聞いた途端、Kaelianの心臓が激しく跳ねた。記憶が蘇り、過呼吸になりかける。その時、Kaylaの笑顔が消えた。
「今、なんて呼んだの?」
「Baka-elian。言葉遊びだよ……」
そう説明している間に、Kaylaは紫色のインクの小瓶を取り出し、蓋を開けて右手に液体を垂らした。すると、その手に狼の毛と爪が生え始める。
次の瞬間、鈍い衝撃音が響いた。
彼女はUrseを、そこにいた全員の注意を引くほど強く平手打ちしたのだ。Urseはあまりの衝撃にしばらく反応できず、Kaelianの瞳孔は大きく開いた。その瞳には、真剣な表情を浮かべたKaylaの顔が映っていた。その瞬間、Kaelianの心臓が小さく跳ねた。
***
部屋で火花とNaeviaが眠っている間、Kaelianは過呼吸になりながらシーツを強く握りしめていた。両手も体も絶えず震え続け、視線は壁を彷徨ったままだ。
(ど、ど、ど、どうしてあんなことしたんだ!? この劇が終わったら、Urseに殺される! もう死んだと思ったほうがいい!)
(Kaelian、落ち着いて。これは……)
(落ち着けって!? こんなこと起きるはずじゃなかったのに)
(Kaylaがあいつを平手打ちした時、私たち二人とも少しスカッとしたじゃない。それに、あのバカは反撃すらできなかったわ。炎を持たない竜をそんなに恐れる必要なんてないのよ)
シーツをどけて寝台の端に座り、胸を強く掴む。あまりの力に引っかき傷から少し血が滲み出た。それを見た瞬間、強烈な吐き気に襲われ、床に崩れ落ちるが、すぐに膝をつき、机のところまで移動する。
解離作用のあるポーションの小瓶を一つ手に取り、少し口に含む。
(こ、これで……少しは落ち着くはず……)
次に別の小瓶を取る。
(……睡眠成分。これで眠れるだろう)
一口飲んでから寝台に戻る。だが、促進剤が入っていないため、どちらのポーションもすぐには効かず、消化され始めるのを待たなければならない。
心臓は激しく波打っていたが、数分経つと頭の中から雑念が消えた。心臓は落ち着き、呼吸も規則的になる。静かに天井を見つめ、数分後には目が閉じ始めた。
無に満ちた無限の白い空間。ある瞬間、そこに白い長髪、端正な顔立ちにピンクの目をした女性が現れた。黒のタイトな長袖シャツを着て、その上に腹部を露出した白いトップスを重ね、さらに黒いスウェットを着ている。
汗が体を伝う中、ポーズを決め、自然な姿勢に戻る。息を切らし、そして微笑みながら尋ねた。
「Well?! How did I do? Do you think they'll give me the role?」
[で!? どうだった? 役をもらえると思う?]
黒髪に青い目をした男が、何もない空間に寄りかかるように座っている。女性と同じ年頃、二十歳前後で、ミディアムヘアに鋭い顔つきと鋭い目をしていた。
白いスウェットパンツを履き、白いシャツを着ている。
「...Most likely. You're very good at acting... actually, a little too good」
[……たぶんな。お前は演技がすごく上手い……いや、上手すぎるくらいだ]
「Was it just my imagination, or was there a hint of poison in that compliment?」
[気のせいかもしれないけど、今の褒め言葉に少し毒が混ざってなかった?]
男は微笑む。
「The viper talking about poison. Heh, that's funny」
[毒蛇が毒について語るとはな。へっ、笑えるぜ]
「It's not」
[笑えないわよ]
「It is to me. I can't wait for the day you finally stop being useless」
[俺にとってはな。お前が役立たずじゃなくなる日が待ち遠しいぜ]
女性は目を細め、腰に手を当てる。
「I'm going to pretend I didn't hear what just came out of your mouth. Anyway, when I'm famous, I won't even give you an autographed photo」
[今あんたの口から出た言葉は聞かなかったことにしてあげる。とにかく、私が有名になっても、サイン入りの写真一枚だってあげないから]
「If I had one, I'd probably use it as toilet paper」
[もし持ってたら、間違いなくトイレットペーパーに使うだろうな]
「Hey! You're such a damn idiot!」
[ちょっと! 本当クソ馬鹿なんだから!]
男はスマートフォンを見ながら立ち上がり、離れていく。
「And you're a stupid bitch, but there's no need to point out the obvious. Hehe」
[で、お前は馬鹿なビッチだ。まあ、分かりきってることをわざわざ言う必要もないがな。へへっ]
「You're leaving already?!」
[もう行くの!?]
「I've already wasted enough of my time on you. You should be grateful」
[もう十分、お前に時間を無駄にしただろ。感謝しろよ]
彼女はこめかみに手を当てる。
「You dragged me into this. The least you can do is stay with me」
[あんたが私を巻き込んだんでしょ。せめて一緒にいてくれてもいいじゃない]
彼が彼女を横目で見る。
「And that's exactly what I did. Besides, I have things to do. I can't devote all my time to you」
[だからそうしただろ。それに俺にはやることがある。お前に全ての時間を費やせるわけじゃない]
「Well, you should. That's what being my brother is for」
[そうすべきでしょ。兄弟なんだから、そのくらいしてよ]
「Haha, yeah, sure. See you, Sasha」
[ははっ、そうだな。じゃあな、サーシャ]
女性は拳を強く握りしめ、歯を食いしばる。男は歩き続けるが、立ち止まって尋ねた。
「Hey, did you read the script yet?」
[おい、台本はもう読んだか?]
「Huh? Yeah. It's complete garbage. I don't even know why you got me into this」
[え? ええ。完全にゴミね。どうしてこんなのに私を巻き込んだのか分からないわ]
「You and this play are a perfect match. By the way, you'd better pass the audition. If you don't get the role, I'll kick you out of my house...」
[お前とこの劇、お似合いだぜ。ところで、オーディションには受かることだな。もし役をもらえなかったら、家から追い出すからな……]
男が去っていくと、女性は両手を腰に当て、微笑みながら呟く。
「Bastard」
[クソ野郎]
***
翌日、Kaelianが斧を地面に落とすと、男が彼に言う。
「昨日よりひどいな。少し休んでからもう一度やろう」
「ご、ごめんなさい」
深呼吸をしながら地面に座り込むと、頭の中に遺産の声が響いた。
(……大丈夫?)
(見てたよね?)
(……ええ。あなたの夢も見てたわ。記憶みたいだったけど)
Kaelianは頭に手を当てる。
(すごく奇妙だった。サーシャ……あの彼女が……)
(そういえば、以前、火花があなたのことをサーシャって呼んでたわね。それに、あの女性はあなたにそっくりだった。どうやら前世では女性だったみたいね。しかも、すごく美人な女性だったみたい)
(でも、シュラとも呼んでた。確信が持てるどころか、すごく混乱してるよ。それに、似てるからって関係あるとは思えないけど)
(あなたの肉体はあなたの魂の鏡よ。そして、あなたの魂は一つのものだけでできているわけじゃない。前世の特徴が今世に引き継がれる可能性もあるわ)
(そうかもしれないけど、前の世界では白髪とピンクの目は極めて珍しい特徴なんだ。僕の目は色素のせいでこうなってるけど、珍しいだけで自然なものだ。でも、あの女の子は何かのアルビノみたいだった。髪と目にしか影響しないような)
(えっ? つまり、本当はピンク色じゃないってこと?)
(うん、彼女の虹彩は透明だから、血管の色が反射してるんだ)
(だとしても、あれはあなただったと私は思うわ。あなたがいつもやってる、腰に手を当てるあの仕草まで同じだったもの)
(僕、本当にそんなことしてる? 気づかなかったな)
(前世であなたが誰だったのか、もう分かったと言ってもいいわね。会話の内容は全く分からなかったけど、あの男とは仲が悪そうだったわね。何を話してたの?)
(彼は兄弟だった。一部しか理解できなかったけど、オーディションについて話してて、もしサーシャが受からなかったら家から追い出すって言ってた。本当に馬鹿な奴みたいだったよ)
(同感ね。他に何か分かったことはある?)
(あんまりないよ。彼らが話す言語は最も広く話されている言語の一つみたいだけど、僕は言語自体をかろうじて認識できる程度だったから、訛りまでは分からなかった)
背中に視線が突き刺さるのを感じ、振り返るとUrseの姿があった。近づいてきてもいないが、その場から動こうともしない。
(く、くそっ……)
(心配しないで。あいつはあなたに何もできないわ。劇であなたが必要とされている間はね)
(終わったらどうなるんだよ?)




