羊
こんにちは!
本日より、第7巻の各話を毎週金曜日の20時に投稿していきます。
読んでいただいた感想やご意見を聞かせていただけると嬉しいです!
よろしくお願いします。
二年前、KaelianとLioraはKaelianの家のそばの草むらに寝転がり、空を流れ、時折太陽を隠す雲を見つめていた。
Lioraが尋ねる。
「ねえ、こうやって隠れて魔法の練習をするのって、すごく疲れるよ。親たちに話しちゃうのはどう?」
「前にも言っただろ。もし知られたら色々と聞かれる。僕たちには答えられない質問をね」
「でも、どうして?」
目を閉じ、両腕で顔を覆う。一方、Lioraは起き上がって座り、返事を待ちながら見つめている。
「僕たちの魔法のレベルは、年齢のわりには進みすぎてるんだ。本もないし、教えてくれる人もいない。それがバレたら、大変なことになるかもしれない。追放されるか、最悪の場合、殺されるかもしれない」
「そんなことにならないよ! どうしてそんなに言い切れるの?」
「言い切れないけど……でも、その可能性につながる道は避けたいんだ」
Lioraは目を細め、腕を組んで尋ねる。
「待って、そもそも魔法を知っているはずがないなら……どうやって覚えたの?」
すぐに目を開け、少し顔をこわばらせる。遺産が口を挟む。
(へえ……その質問に思い至るまで三年しかかからなかったわね。それで? 何をでっち上げるつもり?)
口を開くが、最初の言葉を発するまでに少し間を置き、それから微笑んで答える。
「僕は異世界からの転生者で、自分が誰だったかの記憶はないけど、大人の知能を持ってるんだ」
「……」
「それに、意志のフレイムの保持者でもある。だから、頭の中でたまに助言をくれる声が聞こえるんだ」
「……」
「そのおかげで、独学で魔法を覚えることができたんだよ」
(……えっ?……言えることはたくさんあったのに、まさか本当のことを言うなんてね)
Lioraは黙り込み、困惑した表情でKaelianの目をじっと見つめる。数秒後、Kaelianの手を掴んで手袋を奪い取った。
「それしか思いつかなかったの!? 本当のことを言うまで、これは預かっておくから!」
森の入り口へ向かって走り出す。Kaelianは立ち上がって言う。
「返して!」
「ダメ。森を散歩してくる。戻ってきたら、今度こそ正直に話してよね」
走って森の中へ入っていく。Kaelianは後を追おうとするが、入り口に着いた途端、恐怖に包まれ、数分間立ち尽くしてしまった。
「バカなやつ……迷子になっちゃうぞ。追いかけないと」
(そうね。でも、見つけた時の言い訳を考えておいたほうがいいわよ)
森を数時間歩き回ったが、どこにも姿が見当たらない。何の痕跡もなく、歩き疲れて木に寄りかかる。
「日が暮れそうだ……」
LioraのNarysを感じ取ろうとするが、森にいることへの恐怖と心配が重なり、うまく集中できない。
「見つけ……なきゃ!」
(見つけることだけを考えて。でも、Narysは使わないで)
Lioraを見つけることだけを念じると、フレイムが波紋のように森全体へ広がり、木々や地面にいる無数の小さな意志の位置を教え始めた。その中で、北西にある一つの大きな意志が際立っている。
「えっ……何これ?」
(フレイムの訓練が成果を出しているわね。今、『探知』を使ったのよ)
「フレイムの別の能力?」
(ええ、周囲の存在の意志を探知できるの)
走り出す。太陽が完全に沈み、虫たちが鳴き始め、暗闇が辺りを支配する中、火の球を創り出して道を照らす。数分後、木に寄りかかって座っているLioraを見つけた。
足音を聞いて顔を上げ、Kaelianを見ると満面の笑みを浮かべる。
「Kael、見つけてくれたのね!!」
前に膝をついて言う。
「何時間も探したんだぞ。どうしてこんな遠くまで来たんだ?」
拳を握りしめ、うつむく。
「走ってる途中で手袋を落としちゃって、拾おうとしたらカラスがくわえて持っていっちゃったの」
「冗談だろ……」
「すごく遠くまで飛んでいったんだよ! カラスが手袋を落とすまで追いかけたんだけど……あちこち走り回ってたら、戻り方が分からなくなっちゃって」
両手で手袋をKaelianに渡す。急いではめ、手に馴染ませてからため息をつく。
「帰ろう」
「待って……」
「今度は何?……」
「まだ返事をもらってない」
「今そんな場合じゃない」
「そんなの関係ない、答えてほしいの! どうやって魔法を覚えたの?」
「僕たちが知り合ってからずっと、そんなことは重要じゃなかったはずだ。それを知って何か変わるのか?」
「……変わらないけど、私には正直に話してほしいの。私があなたにそうしているように」
「暖炉のそばで寝落ちして、僕の本を燃やしかけた時のことは? 何があったか聞いた時、目をそらしてNaganのせいにしたじゃないか」
「そ、そうだよ、目をそらしたよ。だって、真っ直ぐ目を見ながら嘘なんて絶対つけないもん」
火の光がLioraの目を照らす。炎が爆ぜて瞳の所々を輝かせるのを、Kaelianは一瞬じっと見つめた。
「……本当に真実を知りたいのか?」
「うん。でも、今度はふざけたことを言わないでね……約束だよ、Kael?」
「実は……僕にはまだそれを話す心の準備ができてないし、君にも聞く準備ができていないんだ……」
一瞬、虫の音すら途絶え、森は完全な静寂に包まれた。Kaelianは息をひそめ、否定的な言葉が返ってくるのを待ったが、予想に反して真っ直ぐに見つめられ、言葉が返ってきた。
「わかった……理解したよ。でも……私は無理に話させようとはしないから。それに、私を信じてくれていいからね……いつでも」
Lioraの紫色の瞳をじっと見つめ、その眼差しにすっかり見入っていた。遠くから聞こえる声が少しずつ大きくなっていく。そして、瞬きをしたその瞬間、見つめていた紫色の瞳はもうLioraのものではなく、あの奇妙な依頼をしてきたギルドの少女のものになっていた。
「私の目に何かある?」
気づけば、ギルドのホールにあるテーブルにいた。Kaelianは素早く瞬きをして現実に戻り、答える。
「……いや、すみません。あなたの目が、僕の知っている誰かに似ていたので」
少女はテーブルに肘をつき、かすかに微笑む。
「本当に? 親しい人だといいな」
「ええ……話を遮ってすみません。お名前は……?」
勢いよく背もたれに寄りかかる。
「ふふっ、そんなにかしこまらなくていいよ。Kaylaって呼んで」
頷いたものの、その視線はこわばり、テーブルの下で拳を握りしめる。
「わかった、Kayla。話を戻すけど、まだあの奇妙な依頼の理由が理解できないんだ」
「奇妙? そんなことないと思うけど。ただ、今日あんたと一緒に過ごしたいだけだよ」
「それが奇妙なんだよ。それに、そんな簡単なことに対して報酬が高すぎる。だから、何か別の思惑があるんじゃないかって疑ってしまうんだ。ずっと厄介な仕事とか、あるいは詐欺とか」
「あはは、すごく正直だね。ちょっと待ってて」
Kaylaは立ち上がってカウンターへ歩いていき、Glaesと少し言葉を交わす。袋を受け取ると、挨拶をして小走りで席に戻ってきた。Kaelianの前のテーブルに袋を置くと、中身の重さで袋が横に倒れ、数枚の硬貨が転がり出た。
「えっ?」
Kaylaはテーブルに片手をつき、Kaelianの目を見つめて微笑む。
「前払いするよ! 本当に他のことは何もしなくていい。今日、私と一緒に出かけるだけでいいから。それに、いつでも好きな時に帰っていいから」
Kaelianは目を大きく見開き、一瞬息を呑む。
「ま、まだどうしてこんなことをするのか分からない。今日の午後を一緒に過ごすために百二十Escáも払うなんて? どうして僕なんだ?」
Kaylaは頬を赤らめ、緑色の一房の髪を指でいじり始める。
「だって……あなたみたいに忙しい人は、何か得がないと私と出かけてくれないと思ったの。あなたの時間を奪うことへの埋め合わせだと思って」
「それでも僕の質問の答えにはなっていない。どうして僕なんだ? このギルドには何十人もの冒険者がいるのに」
手を止め、身を乗り出す。
「分かりきってるじゃない? あなたに興味があるから。あなたのことを知りたいの」
「!!!」
(えええっ? これはおかしすぎる)
遺産が答える。
(同感よ。普通、こういうことにお金を払ったりしないわ。酒場で女性の相手をしてもらうために払う男はいるけど、それだけ。ましてや女性が払うなんて)
(うーん、僕の世界の日本っていう国には、こういうサービスがあったと思う。レンタル彼氏……みたいなものかな。それでも、これはどうも信用できないな)
数テーブル後ろにはNaeviaがいて、Kaelianと少女の会話に聞き耳を立てていた。遺産はすでにその存在に気づいており、Naeviaを助けるつもりで、Kaelianに言う。
(私も信用できないわ。それに……彼女が欲しいなら、すでに……)
Kaelianはフレイムを伸ばし、『知る』を使う。
「わかった、引き受けるよ」
(最後まで言わせなさいよ!)
Kaylaは微笑み、両手を合わせる。
「引き受けてくれてすっごく嬉しい! 少し身なりを整えたいから、一時間後に黄金地区の噴水前で待ち合わせね。絶対に楽しい時間にするって約束する!」
足早に去っていく。Kaelianは金を手に取り、部屋へしまおうと階段へ向かったが、上る前にNaeviaが立ち塞がり、尋ねる。
「ど、どうして引き受けたんだい?……」
「嘘はついていなかった。少なくとも、僕を知りたいっていう気持ちはね。それに……金が必要なんだ」
階段を上っていく。Naeviaは拳を握り、うつむいて唇を噛みしめ、考える。
(Kaelianが彼女と出かけることを承諾したってことは……Meyとは何もないと思っていいのかい?……それとも……Kaelianは女たらしなのか)
***
金をしまった後、一時間経って黄金地区へ向かう。通りは色とりどりの提灯で飾られ、屋根には花が飾られ、壁は鮮やかに塗られ、食べ物や品物を売る新しい屋台が並んでいた。
(何かのお祭りの準備をしてるみたいだな)
噴水に着くと、Kaylaはすでにそこにいた。濡れた髪は、今ではすっかり黒くなっており、黄色い花が飾られ、薄く口紅を引き、頬にはチーク、手首には花のブレスレットをつけている。近づいてくるのを見ると、すぐに嬉しそうに立ち上がり、微笑む。
「やっほー! 来てくれて嬉しいよ」
「うん、待たせてごめん」
「全然平気。私、似合ってるかな?」
遺産が言う。
(もっとマシなものは見たことあるわね。そう思わない、Kael?)
「も、もちろん。似合ってるよ」
「よかった! そう思ってくれて嬉しい。歩こっか?」
並んで歩く。一緒にいることは分かるが、デートだとはっきり分かるほど近い距離ではない。狐の耳はつけていなかったが、すれ違う人々の何人かは彼を見て視線を止めていた。
それに気づいたKaylaは右目を閉じ、身を乗り出して言う。
「ふふっ、耳がなくても皆に分かっちゃうみたいだね」
「……そうは思わない。きっと君を見ているんだよ」
もう少し近づき、肩がぶつかる。
「それって褒めてるの?」
遺産が答える。
(違うって言いなさい)
「いや……」
「えっ!?」
「い、いや……否定できない」
「あ、ふふっ。じゃあありがとう。光栄だよ」
服、布地、鎧、首飾り、ブレスレット、そしてあらゆる種類の宝石が売られている黄金地区の市場で数時間を過ごす。ある宝石店で、Kaylaが狼の形をした髪留めを見つけ、両手で取って見せてくる。
「見て! これ、すっごく可愛いと思わない?」
(全部がすごく気まずい……でも調子を合わせるしかない。怖いわけじゃないけど、もし機嫌を損ねたり退屈させたりしたらどうなるか、知りたくもないからな)
目を閉じ、作り笑いを浮かべて親指を立てる。
「うん! 試着してみたら?」
「名案。つけてくれる?」
「……もちろん……」
髪留めを受け取り近づく。正面に立ったが、Kaylaの髪が今朝とは違うことに気づく。
「ねえ……毛先、緑色に染まってなかった?」
驚いて少し口を開け、頭に手をやって髪の房をいじる。
「ああ、うん、ふふっ。染料を作る仕事をしててね、よく気づかないうちに手に付いちゃうの。緊張するとこうやっていじっちゃって、うっかり染まっちゃうんだ」
「ああ、なるほど」
首を傾げ、目を細めて微笑む。
「気づくとは思わなかったな。私のこと、ちゃんと見ててくれて嬉しい」
すぐに顔を赤らめ、目をそらした。
「べ、別に、大したことじゃないよ」
向かい合ったまま、前髪をそっと持ち上げる。新鮮な花の香りが漂い、まだ少し湿っていることに気づかずにはいられなかった。手袋越しでも、その髪の滑らかさが伝わってくる。Kaylaは目を閉じ、髪留めをつけてくれるのを待っている。少し震える手で、なんとかそれをつける。
「できたよ」
目を閉じたまま、KaylaはKaelianの顔へと徐々に近づいてくる。止まる気配がないため、迫られるままに顔を後ろへ引く。心臓の鼓動が早まり、呼吸も荒くなる。
(キス……しようとしてる?)
一方で、遺産がフレイムを広げ始めて言う。
(ギリィッ、この女、度が過ぎてるわよ)
(何する気だ?)
しかしその時、ピタリと止まり、微笑みながらゆっくりと息を吸い込む。
「……甘い香りがする……好きだな」
「あ、ありがとう……」
(なあ、遺産、どうしたんだ? いつもは他人のことなんて気にしないのに、この子に対してだけは、何か個人的なものがあるように見えるぞ)
(……気のせいよ……)
お金を払おうと振り返り、袋に手を伸ばしたが、突然Kaelianの手を掴んで駆け出した。店の男が叫ぶ。
「おい! 泥棒!」
Kaelianは彼女の後を追いながら後ろを振り返る。
「なんだって!?」
「あははは、楽しいって言ったでしょ!」
衛兵たちが人混みをかき分け、止まれと命じながら追いかけてくる。
(……なんてことに巻き込まれたんだ?……)
大通りを走り続け、家々の間の路地を見つける。衛兵たちはもうすぐそこまで迫っていた。
「こっち!」
開いている家の扉を見つけて中に入る。それを見た家主の女性が叫び声を上げ、衛兵たちを引き寄せる。二人は階段を駆け上がり、三階の部屋へ飛び込んだ。Kaylaはかんぬきをかけて扉を閉め、口を開く。
「ふぅ、ふふっ。これで少し休めるね」
両手を膝につき、息を切らす。
「どうして……どうしてあんなことしたんだよ!」
「何が? お金を払わずに出たこと?」
「……心臓が飛び出るかと思った」
「それはいいことだね、ワクワクしてる証拠だよ!」
深く息を吸い込み、落ち着こうとする。
「僕ならそんな言葉は使わない。これで僕らは逃亡者だ」
衛兵たちが扉をこじ開けようと叩きつける。
「出てこい!」
遺産が言う。
(何か企んでるって分かってたわ!)
Kaylaは再びKaelianの手を掴む。
「よし、行こう」
「出口なんてないぞ!」
扉が破られそうになる中、窓へ駆け寄り言う。
「跳ぶしかないよ、ここからはあなたの出番!」
「僕の!?」
衛兵たちが扉を破るのと同時に、Kaylaが窓から飛び降りた。他に選択肢はなく、Kaylaに続いて跳ぶ。Kaylaは興奮から、Kaelianは恐怖から叫び声を上げる。だが、土の柱を立ち上げて着地し、その柱をゆっくり地中へ戻すことで、二人はふんわりと地面へ降り立った。
「すごい!」
窓から見ていた衛兵たちが急いで下りてくる。二人は立ち上がり別の路地へと走るが、Kaylaが立ち止まって別の路地に入り込み、Kaelianを引っ張って壁際に座り込んだ。
「なんだって……!」
声を出さないよう、口を塞がれる。衛兵たちが近づく中、Kaylaは鞄から乳鉢と液体を取り出し、路地の奥へ向かいながら囁く。
「いい考えがあるの。でも援護が必要。頼んだよ」
Kaelianは立ち上がり、考える。
(頼んだよ、だと? 目の前の路地から逃げて、彼女を置いていくこともできる)
壁に近づき、衛兵たちのNarysを探る。彼らが見ていない隙に逃げ出そうと待つ。
(僕をこんな厄介事に巻き込んだんだから、Kaylaには少なくともこれくらいされて当然だ……)
槍と剣を手にし、あらゆる動きに警戒しながら衛兵たちが徐々に迫ってくる。
すぐ目の前に石を投げる。衛兵たちは即座にそちらを見たが、反応する前に地面から石の柱が突き出し、彼らを打ち据えた。路地から歩いて出て振り返ると、Kaylaが何かを準備しながら笑顔でこちらを見ているのに気づいた。だが、彼の目が留まるのはその瞳だけだ。遺産が言う。
(……何してるの?……どうして逃げないのよ!)
(どうせ犯罪者になるなら、せめて自分がやったことでなりたい。あの髪留めには価値があるだろう。金になれば都合がいい)
衛兵たちが立ち上がるが、Kaelianは突風で彼らを攻撃する。その間、Kaylaは乳鉢と瓶を地面に置いた。
「……えっと……黄色、青、紫……緑があれば十分だね」
髪から黄色い花を取り、ブレスレットから青い花を一つ引き抜き、乳鉢に入れて素早くすりつぶす。Kaelianはまだ衛兵たちと戦っている。
「一体何をしてるんだ!?」
「あと一分待って!」
乳鉢に水を加え、次に油と純粋なNarysを入れ、少しドロっとした緑色の液体になるまで混ぜる。こぼさないよう慎重に小瓶へ移し替える。
一人の衛兵がKaelianに斬りかかろうとしたが、足元でガラスの小瓶が割れ、緑色の液体がこぼれるのを感じて動きを止める。
「Kaelian、離れて!」
液体の中から、額に緑の模様がある一匹の狼が飛び出し、衛兵に襲いかかる。続いてさらに三匹が現れ、近づいてくる狼たちに衛兵は震え始めた。狼は衛兵に噛みつき、他の者たちの方へ放り投げる。脅威に満ちた唸り声に、衛兵たちは即座に後ずさりした。
「ふふっ、待たせちゃってごめん。戦いぶり、すごかったよ!」
「そ、その狼……どんな魔法なんだ?」
「とっても特別な魔法。一瞬逃げちゃうかと思ったけど、残ってくれてありがとう」
「まあ……一緒に行くって言ったし、それに金も受け取った。今さら見捨てるのはよくないからな」
後ろ手に手を組み、微笑む。
「あはは、ほんと可愛いね。約束を守る男ってわけだ」
腕を組み、目を閉じる。
「……強盗だって最初から言ってくれた方がよかったな。戦利品の半分をくれるのが筋だろう」
「戦利品?」
「ああ、君は仕事のために百二十Escáも払ったんだ。あの髪留めはもっと価値があるだろう? 五百? いや、千か?」
困惑した表情で、髪留めに指を当てる。
「これのこと? ただの安物だよ。せいぜい十四Escáってとこ」
Kaelianは目を丸くする。
「安物?……じゃあ、どうして盗んだんだ?」
「だって可愛いから! それに、絶対に楽しいって分かってたし」
「じゃあ、何かを盗むために僕を雇ったわけじゃないのか?」
「あはは、違うよ。言ったでしょ、あなたのことを知りたいだけ。今のところ、期待を裏切ってないしね」
Kaelianは胸に手を当てる。まだ鼓動は早いが、少しずつ落ち着いてきたようだ。Kaylaは路地を出るまで歩みを進める。
「そこで立ち止まってないで。まだやることがいっぱいあるんだから」
「何か別のものを盗むことじゃなければいいけど……」
「ふふっ、楽しんでほしいだけだよ」




