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【GIJUTSU MAHŌ】異世界で無記憶無道徳  作者: 波修羅 直剣
「第2巻」 Tharnwodeでの幼少期・第二部
19/95

これが報酬か?

Kaelianは木製の浴槽の中で裸のまま震えている。一方、Irethaは他の服を濡らさないよう下着だけを身につけ、柔らかい布でKaelianの肌を拭いている。

脇腹にある大きな痣に気づく。


「どうしてこんな怪我をしたの? 顔の引っかき傷はどうしたの?」

「茂みの中を通った時に、茨に顔を引っかかれたんだ。この痣は、膝を痛めた後に転んでできたんだよ」


Irethaは何も言わず、心の中で思う。


(……どうして……こんなことを起こさせてしまったの? どうしてもっと気をつけてあげられなかったの?……もしこの子に何か重大なことが起きていたら……私……耐えられなかった。ああ、Erick……あなたがここにいてくれたら……私一人じゃ……Kaelianには足りない気がする……)


指の間で布を強く握りしめ、Kaelianに涙がこぼれそうな目を見られないよう、視線を落とす。

Kaelianは考える。


(みんなを救ったのに、その報酬が……お説教か)


その直後、くしゃみをする。


(それに風邪か)

(誰もが知ってるわけじゃないけど、あなたはみんなを救ったのよ)

(……もし錨が僕を狙ってこなくて、知り合いが無事だと分かっていたら、他の人たちを救うために命を懸けたりはしなかったよ)

(まあ……力があるからといって、誰かを救う義務はないわ。でも、それがあなたの大切な人なら……話は別よ)

(他人のために命を懸けるなんて意味がない。無意味だし、合理的じゃない)

(でも、Irethaや親しい人たちが死ぬと知って、あなたはほぼ確実な死が待っている場所へ向かった。それだって合理的じゃなかったでしょう?)

(……ああ、そうだよ……でも……みんなが死ぬと知った時……自分のことなんて考えなかった。ただ、あいつらを救うことだけを考えたんだ)


Irethaの声が震える。


「Kaelian……私のこと……悪い母親だと思う?」


Kaelianは目を見開く。


(……何の話だ?……)


Irethaは泣き始める。


「ずっと外にいて、もう一緒に過ごす時間もなくなって……私に何か教えてって頼んでもくれない……まるで、いつも私から離れようとしてるみたい……私があなたに安心を与えられていなかったのは分かってる……もっと気をつけていれば、家を出た時にも気づけたはずなのに」


Kaelianの心臓が一瞬止まり、そのまま沈み込むような感覚に襲われる。

Irethaは涙を拭う。


「あなたは……私の世界のすべてよ……私が生きていく理由なの。あなたが生まれる前からずっと愛してきた……そして、あなたが受け入れられるわずかな愛情に、私が持てるすべてを注いできたつもりよ」


IrethaはKaelianを抱きしめようと、少しだけ腕を伸ばす。だが、二人の間に布がない以上、彼に大きな痛みを与えてしまうと分かって、動きを止めた。


(……どうして……彼女が……苦しんでるのを見ると……こんなに苦しいんだろう?)

(どれだけ心の中で彼女を母親だと否定しても……今はもう、そう感じずにはいられないからよ。母親が愛情を求めて懇願する姿を見るのは辛いものでしょう。何をすべきか、分かっているでしょう?)

(……これは……すごく痛いだろうな)


KaelianはIrethaに飛びついて抱きしめ、両腕を彼女の首に回し、胸を彼女の胸にぶつける。Irethaは何が起きているのか信じられず、固まった。

Kaelianは、すぐに背骨を無数の針で刺されるような痛みと、肌を焼く熱した鉄の感覚に襲われると思っていた。

だが、Irethaもすぐに力強く抱き返した。それなのにKaelianは、痛みも不快感も感じず、Irethaの肌の温かな感触を感じていた。

Irethaは涙を浮かべて言う。


「Kael……あなた……私を抱きしめてくれたのね!」

「うん!……」

「痛く……ないの?」

「ちっとも痛くないよ!」


Kaelianは考える。


(これ……どういうことなんだ? 今まで誰かの肌に触れるだけで、痛みを感じずにはいられなかったのに)

(もう治ったのかもしれないわね。Irethaの愛がそうさせたのかも)

(彼女は……ずっと僕を愛してくれていたんだ。思うように僕に近づけなかったことは、彼女にとっても苦しかったんだろうな。僕が完全には受け入れていなかったとしても……彼女はずっと僕を心配してくれていた……生まれた時から、彼女はずっと僕の母親だった。でもこれからは、僕もずっと彼女の息子だ)


[注:Kaelianが心の中でIrethaを「お母さん」と呼んだのは、これが初めてである]


***


(なんとか母さんを説得して、火花と一緒にいる許可をもらった。条件は、問題を起こさないようにずっと見張っておくことだったけど)


KaelianがIrethaと一緒にベッドに横になると、火花はすぐに飛び乗り、Kaelianの胸の上に寝そべった。彼は火花を下ろそうとしたが、途中で思いとどまる。


(火花に対しても、まったく不快感がない……本当に治ったのかな?)


***


一週間後、Kaelianは火花と一緒に家を出る。二人はLioraの家まで走り、扉を叩く。Lioraが扉を開けると、尋ねる。


「Kael! もう罰は終わったの?」

「うん。それで、そっちのやることは?」


Lioraは振り返る。


「やることってNaganの世話のことなら……一生終わらないわよ」


Lioraは視線を下ろし、火花に気づくと興奮した様子で尋ねる。


「何、そのキツネ!?」

「後で説明するよ。野原に行こう?」


***


(実は母さんから罰なんて受けてない。この一週間、僕たちはずっと一緒に過ごしていた。母さんは僕から離れられなかったし、僕も離れてほしくなかった)


野原で、LioraとKaelianは座って話していた。その目の前では、火花が後ろ足でちょこんと座っている。

Lioraが尋ねる。


「嘘ついてるんじゃないでしょうね!?」

「もちろん。嘘をつく理由なんてないよ」

「じゃあ、みんなを救ってくれたのね! あなた、英雄よ!」

(彼女の言う「英雄」がどういうものなのかは分からないけど、唯一その真実を知っている相手に、僕が知り合いを救うことしか考えてなかったなんて、口が裂けても言えないな)


彼女は頬を膨らませる。


「もしあなたの言うことを聞かなかったら、私も英雄だったのに!」

「むしろ地面にへばりついた肉片になってただろうね。それに、誰にも知られちゃいけないのに、何の意味があるのさ?」

「一理あるわね……」


彼女はよそを見ながら続ける。


「とにかく、約束を破ったじゃない!」

「あ、そうだった。本格的に鍛えるってやつ……大丈夫、約束は守るよ」

「そうしてよ! 次は絶対、何もせずに待ってなんていられないから!」


Kaelianが立ち上がる。


「はいはい」


手袋を片方外し、尋ねる。


「ちょっと手、貸してくれる?」

「ん?……本当にいいの? 痛いんでしょ」


Kaelianが頷くと、Lioraは手を差し出す。それを握った瞬間、Kaelianの全身に激痛が走る。すぐに手を離すと、手は赤くなった。

それを見て、Lioraは怒ったように言う。


「だから言ったじゃない!!」

「う、うん……ちょっと試したいことがあってさ!」


再び手袋をはめ、心の中で呟く。


(治ったかと思ってたのに)

「ねえ……どうしてキツネがいるのか、まだ説明してないわよ」

「驚かないでよ……このキツネが錨なんだ」

「何だって!?」

「説明するのは難しいんだけど、錨に意志を与えることができたんだ。それに、中にRanmaraの記憶があったんだよ」

「Garmist!?」

「うん。どうやら彼女が何年も前に錨を封印したみたい。でも、これ見てて」


Kaelianは火花のNarysに意識を集中させ、その形を作り変え始める。火花が光を放ち、次第に大きくなって人の姿へと変わっていく。やがて光が消えると、火花は短いオレンジ色の髪と赤い目をしていた。その瞳孔は捕食者のような形をしていて、人間の姿になってもキツネの耳と長い尻尾は残っている。服装も実用的なものになり、緑色を基調として、腕当てと革のベストを身につけていた。

火花は自分の耳の一つに触れる。


「え?……どうしてまだあるの?」


Lioraは一瞬固まったが、声を上げる。


「錨が……女の子になって……喋ってる!?」


火花は自分の尻尾に触れながら答える。


「錨じゃないよ!! わたしは火花、ひ・ば・な!」

「ど、どうしてそんな見た目なの?」


Kaelianは腕を組み、微笑む。


「この方がいい見た目になると思ってね」


火花が興奮して飛び跳ねながら答える。


「すっごく気に入った! ありがと、Kaelian!」


Kaelianは片眉を上げ、Lioraを見る。


「君も自己紹介するべきじゃない?」

「あ、うん、そうね……」


Lioraは彼に手を差し出す。


「私の名前はLiora……」


火花は一瞬目を細めると、近づいてLioraの手にガブリと噛みつき、Lioraはすぐに手を引っ込める。


「痛っ!! 何するのよ!?」


火花は肩をすくめて答える。


「え?……そのためのものかと思ったのに」


Kaelianは微笑んで言う。


「あはは、どうやら行儀作法をいくつか教えないとダメみたいだね」

「いくつか!? 指を食いちぎられるところだったわよ!」

「まあ……ただお腹が空いてるだけかも。クッキー持ってきた?」


三人で座って食事を始める。Lioraがクッキーの入った小さな袋を取り出し、Kaelianと火花に一つずつ手渡す。火花は匂いを嗅いでから一口かじると、尻尾と耳を逆立てる。


「これ、すっごくおいしい! もっとちょうだい!」


Lioraが尋ねる。


「Kael、この子どうするつもり?」


Kaelianは頭を両手で支える。


「別に何もしないよ。でも、僕よりもずっと高い魔法の才能を持ってるし、純粋なNarysを簡単に使ってるのを見たから……鍛えた方がいいかも」


火花が答える。


「面白そう!」


Lioraは腕を組む。


「出会って一週間でもう鍛えるつもりなの……ふん……私はいくつか助言をもらうだけで、何ヶ月も頼み込まないといけなかったのに」


Kaelianは立ち上がって答える。


「まあ……あの時とは状況が少し違うからね。君に技術魔法を教えるよ。本を家に置いてきちゃったし、自分のためのポーションも取りに行かなきゃ。数分で戻るから」


歩き出しながら付け加える。


「僕がいない間、二人でもっと仲良くなっておいてよ」


Lioraが叫ぶ。


「約束はできないわよ!」


火花も続く。


「わたしも!」


***


Kaelianは裏口から家に入り、扉を閉めた。しゃがみ込んで寝台の下を覗き込む。そこには本とポーションがしまってある。すると、家の外から二人の男の声が聞こえてきた。


「あの子はいないみたいだな」

「あの子? 息子がいるんじゃなかったか? まあいい。さっき出て行くのを確かに見た。家は誰もいない。これなら、わざわざ痛めつける必要もないな」

「急げよ。あのクソ女がもうすぐ戻ってくるはずだ。近くに誰もいなくなるのを待って、かなり時間を無駄にしたからな」


Kaelianは転がって寝台の下に身を隠した。三十代から四十代ほどの二人の男が裏口から入ってくる。彼らの服には「Tasfer診療所」と書かれた記章がついていた。二人は入るなり台所へ向かい、Irethaの薬やポーション、瓶をすべて袋に詰め込み始める。大釜を壊し、彼女が保管していた薬草や葉、根をすべて台無しにしていく。


「全部持ったか? 棚にはまだあるはずだ」

「家も瓶もなくなって、あの馬鹿がまだ仕事を続けられるか見物だな」


寝台の下でKaelianはその光景をじっと見つめていた。体が凍りつき、床に押しつけた拳を強く握りしめる。


(こいつら……一体誰だ……クソ野郎ども! どうしてこんなことを?)


飛び出して立ち向かおうと考えたが、遺産が止める。


(待ちなさい! 魔法を使えば、村中のみんなにバレてしまうわ。今は待つのよ)

(待つだって!? 冗談じゃない)


男の一人がいくつか空き瓶の置かれた棚を開ける。その間に、もう一人の男が火の玉を作り出し、床に散らばった薬草へ投げつけた。火が燃え上がる。


「急げ、さっさとズラかるぞ」


咄嗟にKaelianは瓶の一つに『導く』を使う。瓶は男の顔に向かって飛んでいき、砕け散って彼の目を切り裂いた。


「あああああっ!!」

「どうした!?」


男は傷口を押さえて叫ぶ。


「瓶だ……! 逃げるぞ!」


火がまだ広がり始めたばかりの中、二人は裏口へと走り去った。男の流した血の跡は家の中から外へと続いていた。

Kaelianは床の血を見て一瞬固まり、床を流れる血のぼんやりとした光景が脳裏をよぎった。遺産が叫ぶ。


(Kaelian!! 奴らはもう行ったわ、しっかりして!)


血の気が引き、心臓が激しく波打つ中、Kaelianは寝台の下から這い出し、水の樽を床に倒して火を消した。しかし、火の一部はすでに壁へ燃え移っていたため、魔法で水流を放って鎮火させる。

数分後、Irethaが家に戻ってきた。彼女が最初に目にしたのは、床に座り込んで膝を抱えるKaelianの姿だった。


「……Kael?……」


それからIrethaは、床や壁の木が焦げた跡、なくなった根、床に残った血、そして瓶がなくなっていることに気づいた。

忘れないように言っておくと、「Tasfer」という名前はすでに第1巻の第4章で登場しています。

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