Case. 7 彼女
「大変申し上げにくいのですが、あなたの余命はあと3000文字きっかりです」
いやいやいや、冗談でしょ。伝染病だなんて聞いてない。
「あなたは楽園に関しては十分お詳しい。その上で移住されるかどうかご決断ください」
いやまあ行くけど。楽園の連中はポイントの使い方がおバカなだけで、普通に生きていく分には超絶至れり尽くせりだし。
レンタル彼女なんて特にバカな人が使うのものだ。
一日5万Pでお買い得! とか思ってるみたいだけど、一日付き合って5万Pだと彼女側が割に合うはずないってわかんないのかな。
あたしたちレンタル彼女に支払われる給料は、その人に与えた幸福量で決まる。
そしてそれは客が消費した文字数で測ってるらしい。
でもあたし、気づいちゃったんだ。幸福じゃなくて、ストレスでも文字数が減るってことに。
だからあたしは、指名が続くようにはじめは幸福を与える努力をして、それから段々と駆け引きをしてストレスを増やしていくんだ。
もうそろそろかな、って思ったら大きなストレスを与えておしまい。彼の3000文字があたしのお給料というわけ。賢くない?
だからあたしは、何もしない。楽園でのんびり過ごす。
あー、暇だ。
まじでなんもない。
こんな生活耐えられなくない? レンカノしてるときはいろんな人がいろんな事やってくれたのに、いざ自分がやるとなると、結構大変。楽園の娯楽って、一人でやってもつまんないことばっかじゃん。
レンカノ、ちょっとだけ再開するかな。他人のポイントで遊びたい。早速担当だったところに連絡してみる。
「え、レンタル彼女を再開したいんですか? 余命文字数症候群に罹ったって聞きましたけど……
まあ許可が出るか確認してみますね」
楽園の居住者がやりたいって言ってるんだから、ダメなわけがない。
「もしもし、なんかオッケーみたいですので、後はいつもどおりの手続でお願いします。給料はポイント払いみたいですけど、いいんですか?」
あれ、確かポイントってギャンブル以外で増やす方法がないって誰かが言っていたような……
まあいいや。
「わかりましたー」
羽振りのいい人が来るといいなぁ。
「こんにちは。今日はよろしくね!」
お、なんかお金持ちそうなおじ様。ポイント富豪と元々裕福だった人って、大体一目で違いが分かっちゃうのよね。ポイント富豪さんはワンパターンなデートコースが多いけど、この人なら珍しいデートしてくれそう。
「じゃあ行こうか」
おじ様はそう言って、使い込まれたセダンに乗り込んだ。この車、渋すぎじゃない? 楽園だと派手じゃない車は珍しいから、逆に目立つ。
最初の目的地はカジノ。なんだ、つまんない。みんなバカみたいにポイントを賭けるから全く現実味がないやつ。ゲームのカジノくらいの緊張感しかないんだもん。
けどおじ様は、見ているだけで実際にやる気配はない?
「どうかしたの?」
「いや、あのコインのタワー、どう思う?」
彼の希望する答えがわからない。
「すごいなー、って思います。おじ様はやらないの?」
「あんな大盤振る舞いはできないよ。多分ある程度勝ちやすいようにはなってるんだろうけど」
あ、この人は分かってる。ここもきっと、文字数を回収する場所だ。
「次、行こうか」
そして向かった先はオーシャンビューのレストラン。ここも何度も来た。ご飯が美味しいから何度来ても楽しめるけど。
「本当においしいです。ありがとう!」
「いや、楽園であることを抜きにしてもここの料理は好きなんだ。ちょっと高いけどね」
そのとおり。さっきの話といい、感性が合いそうなおじ様だわ。
「さて、次が今日のデートコースのメインだ」
どこに連れてってくれるのだろう?
そして着いた先は、楽園では珍しい古風の建築物。美術館だ。
「ここの個展が見たくてね。一緒に見てくれるかい?」
楽園で芸術鑑賞をすることは珍しくないけど、レンタル彼女を連れてくる人は珍しい。
うんちくを語られても、正直困るなぁ。
「全然詳しくないけど、大丈夫ですか?」
「気にしないでいいよ。私もそう詳しいわけではないから」
『楽園絵画展覧会』
これが個展のタイトルらしい。なんか〇〇小学校展覧会みたいなノリだな、と思ってちょっと面白かった。
中に入ると、まず目に入ったのは、カジノの光景、ステーキハウス、そして高層ビル群だ。
なるほど、楽園で行う絵画展覧会って意味じゃなくて、楽園を描いた絵画の展覧会ってこと? 勘違いしてた。
「さっきのデートコースは、ここに描いてあるカジノとかを実際に見てみたかったんだ」
おじ様はそう言って先に進む。ここにもう一度来たことがあるってこと? ならなぜまた?
少しだけ嫌な予感がしたものの、ここで帰るわけにもいかず、先に進む。
次に描いてあったのは、カジノの様子やドライブデートの様子を描いたもの。私がいつも楽園でみてきた光景だ。彼らに目がないのは、いろんな欲望に目が無いからってこと? ぷぷっ。
「なにかおかしかった?」
笑いがつい表情に出てしまった。
「いえ、なんでこの人たちには目が無いんだろうって」
「そうだね、この絵を描いた人は、人の意志は目に宿るって考えていたみたいだ。だから、そもそも彼らの目は本当に彼女には見えてなかったのかもね」
この人は、作者を知っている。
何のために私をここに連れてきたのか。次のスペースに移動したとき、それは明らかになった。
「この絵のモデル、君でしょ?」
そっか、あのときの。
彼女ならこういう絵を描いてもおかしくない。
「それで? 彼女の余命を賠償しろとでも?」
この人は客じゃない。付き合うだけムダだ。
「いや、彼女はそんな事は思わないよ。私はただ、君がモデルになったこの絵を感想を聞きたかっただけだ」
「特に何も……そろそろ帰っても?」
「まあまあ、もう終わりだから、最後まで見ていきなよ」
美術館が一方通行な以上、どうせ最後まで見ないといけないので、渋々先へ進む。
最後にあったのは、笑顔の女性だ。
あたしは余りにも腹が立って、美術館にも関わらず叫んだ。
「なんなの! あたしに対する当て付け? あたしだってみんなの為に働いてた! なんで悪者扱いされないといけないの?」
「いや、君たちの仕事を非難するつもりなんてないよ。楽園では必要不可欠な仕事だって思ってるから、すごく感謝してる。
でも君は、少しやり過ぎだったかもね」
やり過ぎ?どういう事?
「私の患者で、君のお世話になった人が結構いるんだが、全員、残り千文字の消費スピードが異常なんだ。君は彼らに何をしたんだ?」
「あたしは彼らに夢を見せてあげただけ。人によってはちょっと早めに覚めちゃったかもしれないけど、誤差の範囲よ」
「人の命が誤差に見えてしまったら、楽園の仕事はもうやるべきではないよ」
「何よ、あたしは寂しい彼らに、彼女がいる幸せってものを教えてあげてるのよ! 感謝されるならまだしも、非難されるいわれはないわ」
「彼らは最後、笑ってたかい?」
「そんなの一々覚えてる訳ないじゃない。もう帰る。あんた医者なんでしょ。私の時間をムダに奪って。楽園従事者義務違反で訴えてやるんだから」
「どうぞご自由に。もう私の目的は達成されたからね」
え、どういう事?
そうだ、確か文字数について気付いた事があったんだ。
『幸福じゃなくて、ストレスでも文字数が減る』
まさかまさか?
気付くとあたしの文字数は残り30文字を切っていた。
彼は申し訳なさそうな顔でこちらをみている。そんな顔したところで、絶対に許さな




