第7話 14400年前
放課後、部室で豊心君が珍しく、神妙な面持ちをしている。
「今日は特別なパンを作る」
「お祭りとか儀式用?」
「違う。現在知られている中では最古のパンだ。14400年前のパンだ」
なんかすげえ。
それは約14400年前、ヨルダン北東部のシュバイカ1遺跡で見つかった。
農耕が始まるより少なくとも約4000年前に、狩猟採集民がパンのような食品を作っていたのだ。
発見された炭化片は平均で幅約4.4mm、高さ約2.5mm、長さ約5.7mm。
つまり、焼け焦げたパンのかけらが残っていたわけなのだ。
形は薄く平たいパンである。
って説明はいいから、早く作って食べさせろと僕は思った。
「では早速作ろう。とはいっても、もちろん完全再現は無理だ。現在手に入る、それに近いもので作ることになる」
「それで、材料は?」
「ドイツ産のアインコーン全粒粉と大麦粉とオートミールパウダーと水だ」
僕は材料を聞いてもピンとこないのだが、豊心君が選んだのなら近いのだろう。
たぶん。
アインコーン100g
大麦粉50g
オートミールパウダー25g
水100gぐらい
以上である。
これらを混ぜる。
まとまったら、今回は3等分にして薄くする。
直径10〜12cm、厚さ3〜5mm程度の円盤状にする。
そしてフライパンで焼く。
油は入れない。
生地に塩も入れない。
片面を焼いたら、裏返してまた焼く。
表面に茶色い焼き色がつき、中心まで火が通れば完成。
「トルティーヤっぽいね」と僕が言う。
「そうだね。トルティーヤというかクレープというか」
「味は期待できないけど、不思議な魅力を感じる」と真奈美さんが言う。
僕もその感覚が分かる。
14400年前。
日本では縄文時代だ。
その頃のパンを出来る限り再現してみた。
もちろん完全再現ではない。
3人がパンを持つ。
お互い顔を見合わせる。
そして1口食べた。
遥か14400年前の光景が、脳裏に浮かんだ気がした。




