第65話 イタリア・秘境パン探検ツアー(サルデーニャ島・三つの希少パンを焼く工房)
レンティーニから西のパレルモをレンタカーで目指す。
パレルモに着くと荷物をホテルに預けて、街を歩く。
目指すはスフィンチョーネというパンだ。
ここパレルモで名物のパンだ。
見た目はフォカッチャやピザに似ている。
表面は赤いトマトソースで玉ねぎ、アンチョビ、オレガノなどがのる。
一口食べると、まずふわっとしたパン生地。
トマトの酸味と甘み、炒めた玉ねぎの甘さ、アンチョビの塩気とうま味、オリーブオイルのコク、オレガノの香りが漂う。
美味しい。
豊心君はばくばく食べているし、真奈美さんもどうやら気に入ったようだ。
その後はホテルで就寝。
さあ、明日でイタリアも最後だ。
翌日、ホテルからパレルモ空港に向かい、サルデーニャ島のカリアリ空港へ。
サダリというサルデーニャ島中央部の山岳地帯にある町を目指す。。
「最後はねえ。豪華3本立てよ」と真奈美さんが言う。
映画じゃないんだから。
「それでなんていうパンなんですか?」
「モッディッツォスの2種類とピッルというパンね」
「モッディッツォスが2種類だと?」と豊心君。
「そうよ。サダリ版とセウロ版ね」
「そうか。本で読んだことはあるんだが、2種類という意味だったのか」
どうやら最後は豊心君も詳しく知らなかったパンみたいだ。
サダリに着くと、アンティーキ・ジェスティというところを目指す。
アンティーキ・ジェスティに着くと
「ここはなんなの? パン屋じゃなさそうだし」と僕が聞く。
「そうねえ。パン工房といったとこかしら」と真奈美さん。
真奈美さんが、モッディッツォスのサダリ版とセウロ版、それにピッルという三種類のパンを頼んだ。
しばらくすると、女性の工房主が三種類のパンを持ってきた。
「これがピッル。これがモッディッツォスのサダリ版、モッディッツォス・ディ・パターテ。生地にじゃがいもを入れたもの。こっちがセウロ版。モッディッツォス・ディ・セモラ。セモリナ主体で、じゃがいもは入っていないの」
まずはサダリ版、モッディッツォス・ディ・パターテを。
丸くふっくらで、焼き色は同じく黄金色~褐色。
中身がやや白く、しっとりした感じだ。
味はなんていうか、小麦の甘さを、もっと柔らかくしたパン。
次はセウロ版モッディッツォス・ディ・セモラ。
こちらも丸くふっくらで色も同じ。
中は比較的明るい色で、きめが細かい。
味は小麦そのものの甘さと香ばしさとほんのりと酸味。
そしてモッディッツォスについて説明してくれた。
「かつて多くの家にはパン焼き専用の部屋があり代々うけつがれていた。しかし1960年代から自家製パンが徐々に減少していったんだ。家庭でパンを焼く生活そのものが、半工業的製パンへの移行によって変化したから。今ではね……」
それは一つの山岳地域の生活文化が、パンという形でかろうじて現在まで残っているということだろう。
次はピッルを手に取ってみた。
薄く、硬く、乾いていて、焼き色の濃い素朴なパンだ。
ピッルを手で折ると、乾いた音がした。
こちらは硬い食感で、小麦の香ばしさと薪の煙の香りがする。
「ピッルはねえ、もともとは長期間保存でき、牧畜民が持ち歩けるパンなのさ。保存・携帯のための独自のパン。これも今や、非常に小規模な希少伝統食品ってところだね」
そういうと女性の工房主は遠くをみる。
そして工房の中も見せてくれた。
「あっちがモッディッツォスの窯。そして、向こうがピッルの窯よ」
工房の奥には、薪窯が二つ並んでいた。
「二つもあるんですか?」
「ええ。こっちがモッディッツォス用で、向こうがピッル用」
近づくと、薪窯から芳香のある木の香りが漂ってきた。
「この薪も、近くの森の木を使っているのよ。芳香のある植物を剪定したときに出る枝なんかをね」
さらに聞くと、女性は昔、新聞配達の仕事をしていたという。
「でもね、2009年に仕事を失ってね。その後、この工房を立ち上げたのさ」
「そうだったんですか」
「祖母から教わったパン作りがあったからね。使う小麦も、地元で作られたものを選んでいるのさ」
この人がいれば当分は大丈夫だろ。
でもなんとか絶やさないで欲しい。
日本人の僕が、身勝手に言うのはどうかと思う。
でも今回回ったところは、どこもこれからどうなるのかわからない。
せめて僕に出来るのは、祈るだけなのだろうか。
近代化と伝統。
どちらが大切なんだろう。
僕はどっちも大切だと思う。
この後はカリアリ空港に戻りローマへ行き、そこから成田へ向かう。
機内で3人で話す。
「今回のイタリアツアーすごかったね」と僕が言う。
「ああ。とても貴重な経験をしたし、勉強になった」と豊心君。
「イタリアに、こんなにたくさん貴重なパンがあるなんて知らなかったよ」
「いつか俺も材料を手に入れて作ってみたいな」
「あなたたち何言っているの?」と真奈美さん。
「なにかおかしいこと言いました?」
「今回回ったのは、時間が都合のついたところだけよ。イタリアには貴重なパンはまだまだあるわよ。例えば決まった時しか食べられないパンとかね。しかも売ってないの。来た人に配るとかね」
僕と豊心君は顔を見合わせた。
「「イタリアやべえ」」
「機内ではお静かにお願いします」僕と豊心君が乗務員に怒られた。
※イタリア編に登場する店舗・商品の営業状況、販売日、販売状況、在庫等は、執筆時点で確認できた情報に基づいています。実際に訪問・購入される場合は、事前に各店舗へ最新の営業状況等をご確認ください。




