第64話 イタリア・秘境パン探検ツアー(レンティーニの酵母)
現在いるテッラニョーロはイタリア北東部である。
そして真奈美さんが次の場所と言ったのはシチリア島。
つまり南西に位置する島である。
車だと10時間以上かかるとのこと。
長旅を覚悟していたら、なんと途中飛行機で移動をした。
真奈美さんの財力には恐れ入る。
ただ帰国したら労働をさせられそうで怖いのだが。
目的地はシチリア島東部のレンティーニというところだ。
イタリア本土からシチリア島へ入り、レンティーニを目指す。
「もうそろそろ目的のお店ね。食べるのはパーネ・ディ・レンティーニというパンよ」と真奈美さん。
「パーネ・ディ・レンティーニか」と豊心君が反応する。
「どんなパンなの?」
「昔は、家の女性たちがパン生地を作って、村の共同石窯へ持っていって焼いていたんだ。窯の使用料を焼き上がったパンの一部で支払っていた。パンは家から遠く離れて働く労働者の食料となった」
「つまり?」
「家から遠く離れて働く人たちが、何日も食べられるように作られたパンだ」
「それで珍しいの?」
「ああ。真奈美さん行くのはシピンってお店だろ?」
「そうよ。さすがね」
「硬質小麦のセモリナ粉、水、海塩、天然酵母を使う伝統パンなのだが、この酵母が問題だ。パーネ・ディ・レンティーニを売っているお店は何店かあるが、多くの店が、昔ながらの酵母をビール酵母に置き換えている。でもシピンは昔ながらの酵母なんだ」
「それは貴重だね」
「伝統製法は長く手間のかかる職人的工程で、工業生産には向かないという。だから仕方がない部分と寂しい部分があるな」
「そうだね」
そういうとシピンというお店に着いた。
3人でお店に入る。
パーネ・ディ・レンティーニは、黄色みを帯びた、目の詰まったパンだった。
割ってみると外皮は薄めで柔らかく、麦、ナッツ、スパイス、薪のような香りがする。
目が詰まっているのに、噛むと弾力があり、柔らかい。
味は塩気があり、今まで食べてきた、幻と呼んでもいいパンの中でも、とりわけ美味しい。
真奈美さんも今回はそのまま食べている。
食べていくと硬質小麦の甘み、ゴマ、天然酵母の酸味がいい感じがする。
そして、ふとまた真奈美さんを見ると、いつの間にかトマトをのせ、オリーブオイルをかけて食べていた。
豊心君は味わいながらゆっくり食べていたが、2皿目以降は普通に食べている。
他のお店が酵母を変えていくなか、伝統を守っていてくれる。
そのことに敬意を。
そして日持ちがするのでまたも豊心君が買い込んでいた。
「次が最後よ」真奈美さんが僕たちに言った。




